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「……肉……肉が、こんなに……そうかミートスライムの肉とは、調理次第でここまで美味しくなるものなのだな……」
彩絲とセシリアが肉じゃがについて熱く語っている横で、フェリシアが泣きながら肉じゃがを頬張っている。
「どんな瑣末な素材でも奥方の手にかかれば最高の調理になるじゃろうて……ほれ。飯と一緒に食べてみるがいい、肉じゃがの美味しさも増すぞ」
「! こ、これはすばらしい組み合わせですね! ランディーニ殿は、御飯? も召し上がるのでしょうか?」
「うむ。奥方の作るものであれば、肉以外でも美味しくいただけるのじゃ。無論、肉も美味しくいただくぞ? ちなみに、ミートスライムの肉をここまで美味しくできる料理人は、そうそう多くないから、存分に感動するといいじゃろう」
「やはり主様はすばらしい御方なのですね!」
御飯と肉じゃがの素敵な組み合わせを、ランディーニがフェリシアに教えていたようだ。
料理を喜びながらも、私自身が賛美されてしまって面映ゆい。
「主様、御飯の炊き方は如何でございましょう」
「ええ、凄く美味しいわ! 土鍋御飯は最強ですね!」
ノワールが炊いてくれた土鍋御飯は美味しかった。
米自体が良質なのだろう。
いわゆるお米が立っている状態だ。
もちっとした食感は、限りなく日本の高級米に近い。
「それはようございました。在庫は存分にございますし、入手ルートも確保してございますので、毎食でもお召し上がりいただけます」
あちこちで料理と相性の良さを絶賛されている様子を見るにつけ、毎食は無理でも一日一度くらいは御飯を出してもいい気がしてきた。
おにぎりや炊き込み御飯などを採用すれば、一日一食米を出されても間違いなく喜ばれるだろう。
「どの料理も大変美味しいです、奥方様」
ドロシアがふわりと近くに来て、わざわざ感想を述べてくれる。
家族と認識されたので、屋敷内のみではあるが、声が普通に聞こえるようになった。
買い物へ行っている間に、残っていた者たちといろいろ語らったのかもしれない。
瞳の奥には静穏が宿っている。
未だ浄化には程遠そうな雰囲気をまとってはいるものの、狂乱することなく、終始穏やかであれるのならば、急いで浄化を求めなくともいいだろう。
いつかは子供たちの元へと本人も思っているのが、何となく伝わってきたので、そんなふうに考えた。
「ノワール殿が教えてくださいましたので、奥方様がお留守の際には、皆様のお食事手配をお任せくださいませ」
「ドロシアさんは大変手際がよろしいですね。主様にも御満足いただけると思います」
ノワールにも認められる手際の良さを、屋敷内だけで止めておくのは勿体ない気もするが、ドロシアは屋敷から出るのを好まなそうだ。
外へ出せば元夫の耳にその類い希なる優秀さが届いて、彼女の溜飲が下がる気もするが、さすがに時期尚早だろう。
「そうね。ノワールは一緒に行くつもりだから、料理上手な人がいるのは有り難いわね」
「精進いたします」
綺麗な所作でお辞儀をしたドロシアは、再び料理を食べに戻っていく。
「お味噌汁は如何でございましょうか?」
「ええ、こっちも完璧よ。でもあれかしら? バッサが味噌煮だったから、すまし汁とか和風のスープにするっていう手もあったのよね……」
夫に鍛えられたので、和風スープのレシピもなかなかに充実している。
出汁さえあれば、それこそ星の数ほど作れるだろう。
「使っている味噌は同じでも、感じる風味は全くの別物でございます。特に奴隷たちには慣れさせる意味でも最適な手配だったと思う次第でございますね」
「なるほどねー。そういう考え方もあるのか」
ふかりと浮いているかめーわと、豆腐を咀嚼する。
かめーわは色以外わかめと同じ食材で、豆腐は大豆の味がぎゅっと詰まった濃厚なものだった。
味噌汁具材の組み合わせとしては、至高の一つだと思う。
彩絲が熱心にスビナの煮浸しを布教している横で、スビナの煮浸し教に入信したらしいセシリアも、肉好きな面々にその良さを語彙豊富に語っていた。
確かに味のしみたダイコーンおろしをたっぷりと絡ませたスビナの煮浸しは、飽きが来ない味だ。
スビナは好きな野菜の一つなので、他にも美味しい食べ方を教えたい。
「食後はほうじ茶にいたしますか? お勧めの煎茶や粉茶もございます」
ほうじ茶、煎茶はまだしも、粉茶常備とは、どれほど日本食に通じているのだろう。
夫が感心している気配も伝わってきた。
「粉茶って、珍しくない?」
「安価な割に美味なものが多い傾向にございますね。和風味を好むメイドたちの間では、人気の一品なのでございます」
「ああ、通好みとか言われてるものね、粉茶って。あとは濃厚な感じも好ましいわ」
独特の濃さが疲れた体に染み入るのだそうだ。
「そのまま菓子の素材として使える点も高評価となっておりますね」
「完全な粉末より食感が残るし、風味も強いから……シフォンケーキとかに入れると美味しそう。じゃあ、今回は粉茶でお願いします」
そういえば食中のお茶がなかったわ!
次は食中のお茶も皆に勧めたい。
私はほうじ茶が好きだけど、ノワールのストックには番茶や麦茶もあるだろうから、一通り出して飲み比べてもらうのも楽しそうだ。
異世界の粉茶は大変美味だった。
向こうでは嗜む機会がなかったので、戻ったら是非試してみたいと思う。
口の中のさっぱり感は、しみじみ食後のお茶に向くようだ。
周囲も食後のお茶を美味しい! と笑いながら飲んでいた。
語らいもうるさくない程度に盛り上がっているようだ。
そんな中で私はふと、しばらくクエストチェックをしていないのを思い出す。
王都の拠点は一応押さえたし、手料理も振る舞ってみた。
何となく、ダンジョン攻略などが新しく発生している気がしつつ、クエスト画面を展開する。
*奴隷たちを見極めよう。をクリアしました。
*王都での拠点を決めよう。をクリアしました。
*料理を作ろう。をクリアしました。
新しいクエストが発生しました。
*王都での拠点を整えよう。
なかなか家具が揃いませんね?
王都にも随分と問題の多い者が増えているようです。
……もう一度、大鉈を振るわないとまずいかもしれませんねぇ。
*親しい人に料理を振る舞おう。
守護獣屋を営む蟷螂人の透理、露天売りの狼族エリス・バザルケット、弩級立会人の柘榴沙華、王城に仕えしリゼット・バロー、王都ギルドマスターのアメリア・キャンベルあたりなら、許可できますよ。
貴女の中では親しい人というよりは、信を置ける者、その心根がお気に入りの人といった感じでしょうかね?
*王都ダンジョン攻略をしよう。
くれぐれも気をつけていくのですよ?
彩絲と雪華、ノワールとランディーニの五人パーティーしか駄目です。
取り敢えず今は初級ダンジョンだけで満足してくださいね。
*王都を堪能しよう。
ついでにトラブルを解決しましょう! というクエストはありませんよ。
トラブルはできうる限り回避しましょうね?
異世界ならではの品もまだまだ多いので、楽しめると思います。
オススメ異世界商品マップ参照のこと。
クエストの優先順位が変わりました。
*王都での拠点を整えよう。
*親しい人に料理を振る舞おう。
*王都ダンジョン攻略をしよう。
*王都を堪能しよう。
*王都を出てみよう。
彩絲と雪華のテリトリーに行くのも面白いでしょうね。
オススメ市町村マップを参照のこと。
*拠点を作ろう。
オススメ拠点マップを参照のこと。
……新しいクエストが四つもでていた!
どうやらまだ王都を出なくてもいいらしい。
あの王妃が大分大人しくなって、王城内が落ち着いてきているのだろうか?
些細なトラブルで収まっている時点で、何となく察せられた。
守護が厚いせいか、まだ異世界テンプレ鉄板の盗賊に遭遇! とか、人攫いに遭遇! はない。
想像してはいけません。
フラグが立ってしまいますから!
あ、夫からの駄目出しだ。
着々と生活環境が整いつつある屋敷は、泥棒に狙われる気がする。
何せ各種美女を取り揃えております! という、女性だけの屋敷なのだ。
御方の最愛という称号を、正しく捉えられない者の押しかけなどもあるかもしれない。
ここは早めに、王都でも実力者の面々をお誘いしたいところだ。
「アリッサよ。明日は如何な予定にするかの?」
「迷っているのよ……一日、家でゆっくりしようかしら? というのが、今のところ一番かな」
「家具もあとちょっとで揃うんだけどね」
「それも優先度が高いけれど、料理を振る舞いたい方たちがいるの」
「……守護獣屋の透理、弩級立会人の柘榴沙華、王城乳母のリゼット・バローあたりかぇ?」
「あとは、狼族のバザルケットさんと、王都ギルドマスターのキャンベルさんかしら?」
「キャンベルか……」
彩絲と雪華が眉根を寄せる。
逆にそれ以外の人物を招くのは問題ないらしい。
「……主様が王都で一目置かれている方々と面識を得ていると周知されれば、防犯上も安心できるかと思われます」
「おぬしらに含むところがあるのは構わぬじゃろうが、キャンベルの持つ王都ギルドマスターという看板は、奥方様を守るのに悪くないものじゃぞ?」
ランディーニの言葉を聞いて困ったように額の皺を深くした二人だが、僅かな沈黙を経て、食事に招待するメンバーの中にキャンベルを入れてもいいと了承してくれた。
「招待状とか出すべきですよね?」
「そこまで畏まる必要はないのじゃが、招待状は残るからのぅ。皆喜ぶのではないかぇ」
「オーダーではございませんが、一点ものの百合の印章が透かし彫りされたレターセットの用意がございます」
ノワールがすかさず招待状を書くのに相応しいレターセットを出してくれた。
便せん、カード、封筒、百合の封蝋が並べられる。
筆記用具は万年筆だ。
一時期凝って使っていたので、書くのは難しくない。
「招待状のマナーはどんな感じになっているのかしら?」
「カードには必要事項を、便せんには簡単な挨拶を書くのが最良とされております」
「気心知れた相手となると、カードのみの場合も多かろうて」
「目下の者にもカードのみじゃなぁ」
では、カードとは別に挨拶を入れよう。
親しくなってから出したとしても、やはり挨拶が必要だと思うし。
「カードは私が書きましょう。日時は何時とされますか?」
「気軽にランチがいいかしら? それともアフタヌーンティー?」
「アリッサが作るアフタヌーンティーを堪能したい!」
「和菓子特化にしてもいいのじゃぞ?」
和菓子特化のアフタヌーンティー。
向こうの世界でもあった。
なかなか乙なものだったし、私らしいかもしれない。
招待者は目新しさを喜んでくれるだろうか?
「では三時より開催にいたしましょう。こういった気軽なアフタヌーンティーでございましたら、一週間以降の開催でしたら問題はございません」
「なるべく早く開催したいかな。ダンジョンにも行きたいし!」
「あーやっぱり行きたいんだ?」
「ええ。彩絲と雪華、ノワールとランディーニでの五人パーティーであれば行っていいと、主人からの許可もおりたのよ!」
「さようでございますか……では不肖、私めも久しぶりに励みましょう!」
いつも以上にノワールの気合いが入った。
ノワールのステータスを思い出して、何となく納得ができてしまう。
「まずはカードを仕上げてまいります。一週間後の三時に、同伴者不可の記載も追記せねばなりません」
バロー、キャンベルあたりには、自分も連れて行け! と強要する輩がいるかもしれない。
確かに追記は必須だろう。
「ノワール。手紙のマナーブックのようなものがあれば……」
「そこまで気にする必要はないと思うけど。そういうところもアリッサの美点だからねぇ」
雪華にぷにぷにと頬を突かれる。
彩絲には反対側の頬を撫でられた。
「はい。こちらにございます」
ノワールが素早く出してくれた本のタイトルは『誰にでもわかる、基本のお手紙マナーブック』だった。
ぱらりと開いて目次に目を通す。
初めてのアフタヌーンティー開催における、招待状の書き方。
ドストライクな項目を見つけて読み始めた。
身分が上の方へ。
身分が下の方へ。
身分等関係なく、敬意を払っている方へ。
そこまで呼びたくない方へ。
できれば来てほしくない方へ。
思わず噴いてしまった。
異世界の招待事情も向こうと変わらないらしい。
「アリッサにも思う所はあるじゃろうが、守護獣屋の店主とギルドマスター、王城の者には『身分が下の方へ』を参照せねばなるまいぞ?」
なるほど、ランディーニの中ではそんな区分らしい。
ノワールも否定しないので、バザルケットと沙華には『身分等関係なく、敬意を払っている方へ』で書いても問題なさそうだ。
しみじみ不相応だと思うが、今の私は王族同等もしくはそれ以上に高貴な存在となっている。
最低限守らねばならないこちらのルールは、やはり遵守すべきだろう。
守らねば自分の大切な人を損ないかねないのだ。
ささやかな拘りを捨てねば駄目な場合もある。