TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

家にいると思われる美鳥みどりはすぐに既読になったけれど、そうのメッセージ自体、茂雄しげおの方は未読のままとのことで。


(朝の忙しい時間だもん。仕方ないよね)


そう思って茂雄しげおのほうとはすぐに連絡を取ることを諦めた結葉ゆいはだ。


とりあえず、そうのメッセージをすぐに読んでくれて、結葉ゆいはからの申請に対しても割とすんなり追加をしてくれた美鳥みどりと先に話そうかな、と思って。



でも――。


今回結葉ゆいはが両親と連絡を取るための手段を構築した理由は、偉央いおとのことを話さねばならないからに他ならない。


内容が内容なだけに、どう切り出したらいいのか分からなくて、なかなか音声通話のボタンがタップ出来ない結葉ゆいはだ。


繋がったばかりの美鳥みどりの連絡先をじっと見詰めたまま止まってしまっていた。



と、手にしたままだったスマートフォンが着信を知らせてきて。


見れば、結葉ゆいはがなかなか通話ボタンを押せずにいた母・美鳥みどりからの、アプリを介した音声通話のリクエストだった。


そうの部屋で、慣れないラインの設定などを教わりながらの作業途中だった結葉ゆいはは、美鳥みどりからの着信に飛び上がるほど驚かされる。


不安に駆られた目でそうを見詰めたら、「大丈夫だ」と励ますように小さく頷いてくれて。

気を遣ってくれたのか、そのまま自室を出て行こうとする。


結葉ゆいははそんなそうの服の裾をギュッと握って引き留めると、そのままここにいて欲しいと意思表示してから、緊張に震える手で応答ボタンをタップした。


母親と話すだけなのに、一人にされるのが、何だか凄く不安だったのだ。




「――もしもし?」


恐る恐る音声通話を受けたと同時、美鳥みどりが『ゆいちゃん、……何かあった?』と何の前置きもなしに単刀直入に切り込んでくる。



「えっ、あ、あのっ――」


きっと、いきなり電話番号が変わって。その上その連絡をしてきたことが美鳥みどりを不安にさせたのだろう。


そんな美鳥みどりの懸念は間違いなく正しくて――。


母に心配をかけてしまったことが、申し訳なくて堪らないと思ってしまった結葉ゆいはだ。


その上、いまから更に母を悲しませるであろうことを、自分は告げねばならないのだ。


そう思うと苦しくて苦しくて仕方がなくなってくる。



「あ、あの、あのね……」


不安と絶望にさいなまれて、ヒュッと喉の奥で息が詰まる感じがして、何かを言わねばと紡いだ声が情けないくらいに震えていて。


そのことにどんどん追い詰められるように、結葉ゆいははブルブルと身体を震わせた。


それを押さえようと頑張れば頑張るほど、腿の上に乗せたスマートフォンを持っていない方の手まで、無意識に真っ白になるぐらい力を入れて握りしめてしまう始末。


背中を嫌な汗がじっとりと濡らす。


そんな結葉ゆいはを見かねたのか、そうが手を伸ばして、血の気がなくなるぐらい強くギュッと拳を作ってしまっていた結葉ゆいはの手を、そっと包み込んでくれる。


そうの、温かくて大きな手のひらの感触に、結葉ゆいはは一瞬だけビクッと身体を跳ねさせると、でも少しずつ、少しずつ……平常心を取り戻していった。



『……ゆいちゃん?』


電話口、明らかに動揺している様子の娘の気配に、美鳥みどりが心配そうに呼びかけてきて。


結葉ゆいははスマートフォンを一旦口元から離すと、一度だけ大きく深呼吸をした。



「――ごめんなさい、お母さん。心配を掛けて」


次に電話を耳に当てたときには、結葉ゆいはの声はさっきみたいに震えたりしていなかった。



***



家の管理を任せている、お隣の山波やまなみ建設の長男坊――山波やまなみそうから、スマートフォンにメッセージが入ったのは、丁度主人である茂雄しげおを仕事に送り出してしばらくしてのことだった。


スマホに表示された時刻を見ると、八時過ぎ。


日本はここより十四時間ぐらい進んでいるはずだから、夜の二二時じゅうじ頃だろうか。


あちらが朝でこちらが夜、なら家に何かあったかしらと思えるところだけれど、残念ながらそうじゃない。


「――?」


不思議に思いながらメッセージを開いてみると、『結葉ゆいはさんの電話番号が変わりました。新しい番号は――』というメッセージで。


何故偉央いおさんからではなく、お隣のそうくんが?とますます疑問が募った美鳥みどりだ。


スマートフォンを握りしめたまま、とりあえず娘の結葉ゆいはが新しく変えたという番号を自分のスマホに登録し直す。


番号を変えたということは、いつも結葉ゆいはが手にしていた小さな携帯は通じなくなってしまったということだろうか?


そんなことを思いながら画面を見つめていたら、またメッセージアプリからの通知が入る。


見ると、いまそうに教えられたばかりの結葉ゆいはの番号からの友達追加リクエストで。


美鳥みどりはソワソワと落ち着かない気持ちで「追加」ボタンをタップした。


そうしてそのまま、いま追加したばかりの結葉ゆいはにライン通話をしてみたわけだけれど――。


不安のあまり何の前置きもなく「ゆいちゃん、……何かあった?」と問いかけたみたら、明らかに愛娘の様子がおかしくて焦燥感ばかりが募った美鳥みどりだ。


何度か電話越し、結葉ゆいはの名前を呼んでみたけれど反応がなくて。


通話口からはカサカサという衣擦れの音が聞こえてきて、辛うじて切れずに繋がっていると思える感じ。


「ゆいちゃん?」


何度目かの声かけの後、やっと。


『――ごめんなさい、お母さん。心配を掛けて』


さっきまでは震えていた結葉ゆいはの声が、明らかに落ち着きを取り戻しているのを感じて、美鳥みどりはひとまずホッと胸を撫で下ろしたのだった。


でも――。



『ごめんなさい、お母さん。私、偉央いおさんと……離婚することになると、思う……の』


ゆっくりとこちらの様子をうかがうように。

美鳥みどりになるべく衝撃を与えないように。


結葉ゆいはがひとつずつ単語を選ぶようにしながら投げかけてきた言葉に、美鳥みどりはそれでも頭を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を覚えてしまう。


別れたりせずに、どうにかならないのだろうかと思って。


でも、と思い直した。


幼い頃から我慢強くて大抵のことは飲み込んで受け入れてしまうところのあった娘だ。


その子が、「別れるしかない」と判断を下したのだとしたら、それはもう本当に無理だったからに違いない。


いや、我慢強い結葉ゆいはだからこそ。


もしかしたら離婚を切り出してきたのは偉央いおの方かもしれないと、思い直す。

だとしたら結葉ゆいはにはどうしようもないではないか。


「そっか。ゆいちゃん、辛かったね。お母さん、鈍感で何も気付いてあげられなくてごめんね」


別れを切り出したのはどっちから?と聞けなくて、思わずどっちとも取れる当たり障りのない言葉を返したら、『そっ、そんなこと、ないっ!』という声とともに、カサカサという音が聞こえてきた。


きっと結葉ゆいはのことだ。


音声通話だから見えないのに。

結葉ゆいははきっと、必死になってフルフルと首を横に振ってくれているんだろう。


『お母さんのお陰でっ、私、辛かった時、すごく救われてたっ。こっちにいるときは……沢山他愛たわいもないお話に付き合ってくれてっ、本当にありがとう』


勢い込んだように言われて、美鳥みどりは自分が日本にいた時にはすでに結葉ゆいはの苦しみは始まっていた?と気付かされた。


「ゆいちゃん、お別れを切り出したのって……」


結局、聞かずにはいられなかった美鳥みどりだ。


『そ、それは……』


そこで言い淀んだ結葉ゆいはに、美鳥みどりはもしかして、と思う。


結葉ゆいはのことだから、自分の立場が悪くなる――偉央いおから離婚を切り出された――ことなら割とすんなり話してくれる気がする。


言い淀んだということは、娘からなんじゃないかと……母親の勘で直感した。



「言いにくいなら……無理に言わなくてもいいのよ?」


我慢強い娘が、耐えられなくなるような結婚生活とはどんな感じだったのだろう。


美鳥みどりが見る限り、御庄みしょう偉央いおという男性は、その美しい見た目通り、結葉ゆいはにとても優しく尽くしてくれているように見えた。


茂雄しげおがしてくれなかったような送り迎えまで、忙しいであろう仕事の合間を縫うようにしてくれていたくらいだ。


でも、家庭内では美鳥みどりには見えない何かがあったのかも知れない。


娘と偉央いおの間に、一体何があったんだろう?


結婚して三年。結葉ゆいはに子供が出来なかったこととも何か関係があるのだろうか?

結婚相手を間違えました

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

106

コメント

1

ユーザー

外面が良かったからわからなかったのよね。 それは仕方がないと思う。 結葉ちゃんの事を愛しすぎていて、自分だけの物にしたかったから行きすぎた行動に出てしまったんだから。 愛し方を間違えちゃったんだよね。 それを見せなかったんだから、お母さん達が気がつかなかったのも無理はないよ。

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚