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「ふぅ…しっかり育てよー」芦兆
今日は晴天、畑作業日和である。
最近雨が続いていたので張り切ってしまう。
この一手間がこいつらを美味しく育てると思うとやる気がむんむん湧いてくる、やめられないとまらない。
だがしかし、視線を感じる。
思わず家の方向を向くと窓から月二夜がひょっこり顔を出していた。
目が合うとスっとどっかに消える。
「…?」芦兆
畑作業を済ませ、水を飲む時も…完食する時も…テレビを見る時も…
ひょっこり顔を出して、目が合うと消える。
これまでそこそこ話しをした仲ではあるが、今更何を臆しているのだろうか。
台所にて…
「なぁ月二夜」芦兆
「ん゙っ…けほっ…げほげほ…」月二夜
「うおおい…大丈夫か…」芦兆
「水飲んでる時に…げほ…」月二夜
「ごめんごめん、話したいことがあるんだけどいいか」芦兆
「…なんでしょ」月二夜
いつもジロジロ見てくるのに今回は頑なに俺を見ようとしない。
「俺の顔になんかついてるか?それとも、俺悪いことしちゃったかな…」芦兆
「………」月二夜
顔が見えないから怒ってるのかすら分からないし余計怖いんだけど。
「私…あなたに好きって言った」月二夜
「ん?あぁ…あの時の…」芦兆
「気持ちが良くも悪くも、乙女の告白に黙ってるのはいかがなものかと…聞けるかなと思ってずっと見てた」月二夜
「…何か、受け入れ難い理由があるの?」月二夜
台所の前に立つ月二夜の姿は窓から淡い光を受け、似てる訳でもないのにどこか忘れかけてたお母さんの影を思い出す。
「すぐに答えが出なかった理由…『もの』ってのは、どれだけ大事にしていようと、ある日突然壊れて無くなるものなんだ…」芦兆
「もし俺も本気で好きで本気で守らないといけない人ができた時、俺の力は本気でその人を守れるかな…もし守れなかったら…俺はもう立ち直れないんじゃないかなって…それが…怖くて…」芦兆
「………少なくとも私の中の芦兆さんはとても強くてとても優しいよ、まだこの力に慣れてない私が言うのもあれだけど…自信もって」月二夜
「あと、私も強くなる、芦兆さんに守られるだけじゃ…芦兆さんに全部押し付けるのは嫌だ、一緒に守っていける存在になりたい」月二夜
「…もし、俺の過去を知ってしまっても…本気でそう言えるかな…」芦兆
「芦兆さんの過去はまだ知らないけど…だから知りたい、芦兆さんの迷いも私の想いもこの脈の力の持つ意味も全部確かめるために」月二夜
と言っても、まだ月二夜と出会ってから2週間程度…。
月二夜はこういうがなんとなく口が開く気がしなかった。
でも月二夜の言う通り一生懸命伝えた想いを無視するのも失礼とも思ってしまうから、求められることが余計苦しい。
無言の時間が続く。
月二夜は俺に尽くしてくれる、だから怖い。
俺は月二夜に尽くせるか不安だから。
それが脳内で何度も行き来する。
中々口が開かない。
そんな俺の様子をずっと眺めていた月二夜はなぜか微笑みながら近づいて
「…だから…これからもよろしくね、芦兆さん」月二夜
俺の耳元でそう囁いた。
俺が伸ばせなかった手を無理やり繋ぎにこられた感覚。
なんかなんとなくまた子供扱いをされたように感じてしまった。
「そういえば、今度ここら辺の道案内もしてよね!ランニングしたいけど迷子になりたくないし」月二夜
「お…おう…」芦兆
月二夜の声で震える鼓膜の余韻を残して、また1日が過ぎていく──
──深夜1時、昼間の話が頭から離れず中々寝付けない。
未だ決定的な答えが出せない。
月二夜は今日は大人しく寝てるみたいだし今のうちにこっそり外の空気を吸いに行くことにする。
月二夜の部屋は表玄関との距離が近く開閉にガラガラと音がして変にバレるのも嫌なので裏玄関から外に出る。
出るとすぐそこにはかつて先祖の誰かが建てた2階建て小屋がある。
もうかなり古いので1階を物置場にしか使っていない。
深夜の畑も景色が全く違って見えて新鮮な気分だ。
夜行性の動物の何かがいる気配がしたが、相手側も俺が近づいてきたと感じてすぐどこか消えた。
少しぐらいなら食われてもいい、そいつらも生態系を形作るこの世の生物だから。
そういえば家の前の敷地は辺り一面に小石が撒かれている。
一歩一歩の度にジャリジャリと音をたてる、こんな山の中みたいな集落で犯罪なんて起きっこないだろうに…。
敷地を歩いているといつも居間の大窓から見える小屋がある。
これは昔、家が火事で無くなった時、今の家が出来るまでの避難所としてここで雨風を凌いでいたという。
入って奥に行ってみると床のようなものがある。
現実逃避するかのように敷地を歩いて周り、 今度は敷地を出て近くの森へ。
風はほとんどなく、夜虫のさざめきが響く。
森というのはこの世とは別の世の世界と繋がっている不思議な場所と聞く。
この森は脈の力を持つものだけが干渉できる不思議な世界と繋がっている。
「…オイ、カミサマ………起キロ」芦兆
「………ナンダネ…人間界デハオ寝ンネノ時間ダゾ」カミサマ
「相談シタイコトガアルンダケドイイカ」芦兆
「ナンダ、アノ女ト喧嘩デモシタノカ」カミサマ
「違ウワ………」芦兆
傍から見たら森の中で独り言ぶつぶつしている変質者だ。
昼月二夜とした話を打ち明けた。
「ズバリ、ソノ女ニモオ前ノ過去ヲ晒セバイイ」カミサマ
「イヤ…ダカラマダ話セル程俺ノ覚悟ハマダ…」芦兆
「話セトハ言ッテイナイ、晒スノダ、オ前ノ記憶ヲ」カミサマ
「──ソウイウコト…デモ俺ガソレヲ出来ルカマダ分カラナインダケド…」芦兆
「ホトンドハ相手ノ意志ダ、オ前ハソノ意志ヲ許スダケ」カミサマ
「オ前ハ人間ダ、アマリ一人デ気負ウナ、頼レル者ガイルナラソノ者ニ委ネヨ」カミサマ
「ソロソロ寝テモイイカ、最近コノ時間ニ寝テイルノダヨ」カミサマ
「…起コシテスマナカッタ、オヤスミ」芦兆
一人で気負い過ぎるのはだめ…。
月二夜もそんな感じのこと言ってたっけかな。
森を出て家に帰るまでの帰路で考えが纏まりつつあった。
頼れるのはいつも言売で、その言売もほとんど家にいないから軽く話すだけになりがち。し
っかり自分の弱さに向き合うことが出来ていなかった。
俺はあの記憶の夢の度に強くありたい、 弱みを晒すことは相手にとって好都合、それだけだった。
家に入る時も裏玄関からこっそり入り、靴をこっそり表玄関に置いてから足音で起こさぬよう忍足で部屋に戻る。
そして床につき寝る前にもう少し考えた。
それでも俺からは月二夜にこの記憶を見ても良いとは到底言い難い。
月二夜には関係の無いものだがあまりにも残酷すぎる。
きっと見られてしまった、ばれてしまった、という感じに見せることになるだろう。
でもその代わりでカミサマとの話で色々と脳内の邪魔なものが省けた気がする。
本気で僕と向き合ってくれる月二夜と対等に向き合う覚悟が固められつつある。
記憶を知って改めて何が起こるかはまだ未知数だがそれでも今はそれに対して不思議と怖くはない。
〈解説〉
・カミサマ
…性別、誕生日、年齢、身長全て不明。
…この世ではない世界の民。
…人間達(脈の力を持ち認識出来る者)からは大層な名前で呼ばれがちな民だが当の民は自分の立場そこまで偉いものではないと思っている。
コメント
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月二夜ちゃんの「だから…これからもよろしくね」が沁みたな…。自分の弱さを認めるのって一番怖いことだと思うけど、芦兆くんが人に頼ることを選べそうな兆しが見えたのが嬉しかった。カミサマの言葉も重かった。「頼レル者ガイルナラ委ネヨ」って、簡単そうでできないことだよね。次、月二夜ちゃんに過去を晒す覚悟ができるのか、どうしても気になる…。