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月白
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耀聖(ようせい)
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「──あれ…ここは…」月二夜
いつの間にか私は外にいた、芦兆さんの家の前の庭のど真ん中、そして満月の夜。
でもなにか雰囲気が違う、一瞬でわかった。
芦兆さんの家の前だと言うのはわかるけど妙に現実味のない世界、そう思えた。
道路の向こうから足音が聞こえてくる、足音がだんだん近付いてくる。
それよりもその近付いてくる何かがとても恐ろしいものだと感じた。
夜の静けさのせいかもしれないけど。
理由は曖昧だが家の角に隠れ、片目だけ出して向かってくる者の方向をじっと見つめた。
姿を捉えた時、私は息が止まった。
そいつは芦兆さんと違い橙色の脈の模様が右腕に宿り、右手から何本か橙色の触手が飛び出し無造作にうねっている。
そして何より、そろそろ人間をやめていそうなぐらい体が大きい、目測で身長2m以上は確実にあった。
そのほぼ巨人と言える人がこの家の敷地に入ってくる。
そのタイミングで家の玄関から二人の大人が出てきた。
男性と女性一人ずつ。
「俺はあなたと戦う気はない、お引き取り願う」男性
巨人は男性の言葉に聞く耳も持たずうねる触手のようなもので二人に殴りかかった。
「龍ノ脈ノ者ハ見ツケ次第殺ス、消エルベキナノダ…」巨人
二人は軽やかな動きで巨人の猛攻を避けるも反撃の余地が与えられていなかった。
それほどあの触手群の動きが早く力強く洗礼されていた。
「私達はただ脈の力に関係なく平和に暮らしたいだけ!共存の道はあなたに無いの?!」女性
「一片ノ不安モ、俺ニハ不要!」巨人
もはや二人の声は届かない。
今ここにあるのは暴力と平和がぶつかっているだけだ。
「お父さん…お母さん…なに…してるの?」???
遅れて玄関から出てきたのはまだ小さな男の子だ。
「芦兆!なんで出てきたんだ!家に入ってなさい!」芦兆の父親
芦兆さんはもうすぐ20歳、身長は小さいがあそこまで小さくなかった、きっと園児程の年齢と見えた。
「…アレハ…オ前ラノ倅カ…」巨人
巨人はそう言うと一本の触手を芦兆さんに伸ばしていく。
「芦兆!逃げなさい!」芦兆の母親
「えっ…あ…えっと…」芦兆
「危ナイ!」月二夜
私は咄嗟に飛び込んだ。
芦兆さんを抱えその勢いで少しの距離を転がった。
まだ小さな芦兆さんが傷つかないように必死に抱き抱えて…。
「怪我…ない?芦兆さん…」月二夜
「???」芦兆
「???」巨人
「マァ良イ、オ前ラ二人ヲ殺シテカラ、アノガキノ四肢ヲモギ、痛ミニ叫ブ様ヲ踏ミ潰シテヤルワイ」巨人
「ひっ…」芦兆
巨人の言葉を聞いた芦兆さんは母親の言うことを聞くため立ち上がってどこかへ走っていく。
「あっ、待って!」月二夜
私はその場の激場に目もやれず、芦兆さんを追いかけてしまった。
芦兆さんが隠れたのは…初めて彼と戦った森の中。
彼はうずくまり酷く怯えていた。
「大丈夫?」月二夜
「………」芦兆
返事がない、さっきから私の存在が認識されてないみたい。
もしかして今私が見ているものは…。
「芦兆ー!」芦兆の父親
「芦兆ー!」芦兆の母親
しばらくして芦兆を呼ぶ両親の声が聞こえてきた。
芦兆は立ち上がりそのまま森を出て声のする方向へ駆け抜けた。
しかし…そこにいたのは巨人と巨人の触手に全身巻き付かれている両親の姿だった。
「ハハ…マヌケナガキメ…」巨人
「なんで…」芦兆
「パパトママノ声帯ヲ貰ッタゾ…モウコイツラハキヲ失ッテイルシ、起キテモシャベレナイ」巨人
そして二人の両親の頭部に触手が巻きつく
「ヨク見テロ…」巨人
巨人は見せつけるように両親を掲げ上げる。
次第に触手が筋肉を軋ませはじめ…
やがて…
グシャァ…
「──へ…?」芦兆
両親の頭部は潰れ内容物と大量の血液が飛び散る。
その一部が芦兆さんの方にも降りかかる。
「ハァ…コレデ邪魔者ガマタ減ッタ…次ハ…」巨人
そしてまた触手が芦兆さんの方向へ伸びていく。
私また自分の意思とは裏腹に芦兆さんに飛び付こうとした。
そこで私は長い悪夢から覚めた。
「………」月二夜
夜、森の中、木々葉っぱの隙間から満月が見える。
強くもなく弱くもない月の光が夜の森の中を照らしている。
「お、やっと起きた」芦兆
傍には芦兆さんがいる、ちゃんと大人の芦兆さん。
「ここは…」月二夜
「月二夜のお願い通り案内してやったのにここに来るなり疲れたって言ってぱたんきゅーするんだからよぉ」芦兆
夢…なのか芦兆さんの記憶なのか分からないけど、あの世界にいた時は文字通り夢中で気付かなかった。
それに不思議な感じだ、急に芦兆さんとは遠い昔にあったことがある感じがしている。
(「危ナイ!」月二夜)
気のせいかな。
あれが…あの夢に隠された芦兆さんの言う「覚悟」の原因…。
そして巨人の喋ることからも、この力には因縁又はそれ以上の意味のようなものが入り交じっている。
芦兆さんの両親はその意味に巻き込まれ──
「どした?具合悪いのか?」芦兆
それでもこの人は、むやみに過去を口にしたり引きずったりしない。
その上、なんでも無いかのように私に振舞ってくれる。
…本人は「そうでもない」と言うけど、やっぱり強い人だ。
私もそんな芦兆さんみたいに…強くありたい。
「私さっき、芦兆さんの過去…?を見たの」月二夜
「お、おう…へー、ふーん、ほーん」芦兆
「何その反応」芦兆
彼の目がどんどん逸れていく。
見られたくないものを見られた、そして恥ずかしがっているような反応だった。
内容的にその反応は絶対違う。
「あなたが見せてくれたの?」月二夜
「さて、どうでしょう」芦兆
「…そっか」月二夜
「帰ろっか、ここにいても服が汚れる」芦兆
「そうだね」月二夜
「私が寝てる間、ずっと隣にいてくれたの?」月二夜
「普通に動物は出るし、見てないと危ないだろ」芦兆
そういえば昼間から道案内してくれて、そこから暗くなるまでずっと守ってくれたんだ。
「ありがとう、芦兆さん」月二夜
「おう」芦兆
「私モズット隣ニイルカラ」月二夜
「ん?なんか言ったか?」芦兆
森から出ようとする中、私の小さな告白は草や枝を踏む音にかき消された。
「………なんでもない」月二夜
なんで肝心なところは聞き逃しちゃうかな…。
「お、いつもの道が見えてきた」芦兆
森から出て、外の景色がいつもよりも鮮明に見える気がする。
見上げるとまんまると黄白色に輝く満月が夜を照らしている。
「綺麗だな、お月様」芦兆
「………」月二夜
サラッと言うのやめてねー。
「あなたと見るから綺麗なのです」月二夜
言っちゃった!言っちゃったよ!
芦兆さんにはそんな気はないと思うけどねぇ!
言ってみたくて言っちゃったじゃないかよぉ!
「俺とか?そんな変わんないってw」芦兆
ん”ん”ん”ん”ん”ん”ん”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!
そんな所も芦兆さん。
それでも近寄り難い存在には見えない、それでも伸ばせば届きそうで中々届かない。
でも、私を認めてくれる、見てくれる、許してくれる。
あと地味に小さくて可愛i──
脈の意味も芦兆さんの覚悟も全て突き付けられた今も私はこの人の隣にいたいと思えた。
暖かい季節になろうとしているのに夜はひんやりと肌が冷えた。
それでも芦兆さんの家までの帰路は長く感じられる。
〈解説〉
・謎の巨人
…おそらく男性、誕生日と年齢は不明、身長約250cm。
…13年前芦兆の両親を殺し、芦兆の運命を変えた張本人、現在消息不明。
…脈の色は橙色、一番の特徴は右手の指一本一本が太く蛇の尾のように変形する、一本一本を巧みに操り相手を翻弄する。
・過去の世界
…月二夜が見たのは芦兆の過去のようなもの。
…人物問わずどのような条件で見られるのか、誰視点のものなのか未だ不明である。
コメント
1件
もう…第10話、読ませていただきました……。 月二夜ちゃんが見た芦兆さんの過去、あの巨人の描写が凄く生々しくて、読んでいて息が詰まるようでした。特に両親の最期の場面は心臓がぎゅっとなりましたね…。 それでも「隣にいる」って決めた月二夜ちゃんの強さ、すごく好きです。ラストの月の下の会話、芦兆さんが「俺とか?そんな変わんないってw」って流すところも含めて、この二人の距離感が本当に愛おしいです。 あと「言っちゃった!」のくだり、思わず笑っちゃいました。いい塩梅の緩急ですね…🌷