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桜が散りきる前に、想いは終わってしまった。
彼の声を、最期まで受け取れなかった。
教室に響くその声はいつも誰かに向けられていて、自分には決して届かないもののように思えたから。
片想いは、最初から終わりを知っている物語だった。
目が合えばすぐに逸らし、隣を歩けば息を潜める。
近づきたいのに、近づくほど失ってしまいそう。
それでも、春は残酷なほど優しい。
新しい始まりを連れてくるくせに、何も告げずに別れを置いていく。
放課後の帰り道、彼は私と同じ帰り道と知ってから背中を眺めるために
彼より少し短い歩幅で歩く。追いつく気はなかった。それからしばらくして、 2つの別れ道で別れる。
電車がすぎるのを待つ時間、いつもは何も出来ない。
足に鉛があるみたいで、心まで沈む。
でも今日は違う。 昨日までの億劫な気持ちは、金曜日の暖かな風と共に消えたようだ。
最後の花吹雪が吹く。まるで声援が目を覆うように感じて、少し安心した。
1歩踏み出す。そして眺めていた背中に触れた。
「あの、」
やっと声がかけられた。それだけでも充分頑張ったし、幸せだった。
けど、背中に手は届いてなかった。
いや、正確には届かない位置。線路の真ん中にあった。
理解する前に、音がすべてを奪った。
数秒後、彼は視界の中にいなかった。
叫ぶ時間も、走る時間も、 私には与えられなかった。
__ああ、終わったんだ。
それは恋の終わりじゃない。 誰かの人生の終わりだった。
涙も出なかった。一瞬の出来事だった。
泣く理由なんていくらもあった。
胸を抉られるようにさっきまでの胸の高まりが緊張と罪悪感に変わる。
数分後、電車が止まって人集りができた。
そこからまた数分後、警察と救急車が来た。
私はもう前が見えないくらい泣いていた。声はでなかった。
震える手と重い足を一生懸命動かして、警察署で見たままのことを話した。
警察の人は慰めてくれた。でも、それすらも悲しく思えた。
今日のHR、彼の席は空いていた。教室で響く私に向けたものじゃない声も今日は聞こえない。いつもは悔しくて無気力な自分を恨むけど、今日は違う。
まるで私が殺したみたいだった。空いた席を眺めていると、自分が大嫌いになりそうでもう見るのをやめた。
帰り道、彼と通るはずだった桜並木を一人で歩いた。
踏みしめる花びらはもう色褪せて、かつての美しさを思い出すことさえ嫌になるけど、
美しかった記憶だけが、 やけに鮮明だ。
「好きだったのに」
想いを確かめるように小さく声に出した。
誰にも届かず、 誰にも拾われず、
静かに死んだ。
報われなかったのは多分私じゃない。
もし、ほんの少し勇気があったなら。
もし、もう1歩だけ踏み出せていたら。
そんな「もし」は、散った花びらと同じで、もう戻らない。
踏まれて破けて、黒くなっていつしか風に飛ばされて知らない場所で朽ちる。
いつもだったら何もなかったふりをして、日常に戻れた。
もう春は終わる。私は生きている。それだけでも重い罪を背負っているみたいだった。
風に舞う何かを見るたび、 心の奥の醜い感情がペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされていく。
来年の私は、彼を羨んでここに立つだろう。
感情を隠すように歪笑顔を浮かべて、彼との別れ道を昨日よりも早く通り過ぎた。
今度は、誰の背中も見ないように。