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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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佳華先輩に何を吹き込まれたのか、山口さんはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべながら、リングへと上がって来た。


格闘技経験は無いと言う山口さん。高校時代は陸上部で長距離走と走り高跳びの選手をしていたという。なのでスタミナや基礎体力に大きな問題はなく、身体のバネも中々のものだ。

見かけによらず根性はあるし、素直で真面目な性格。なにより五人姉弟の長女で、女手一つで育ててくれたお母さんに、早く楽をさせてあげたいと毎日頑張っている健気な娘。


他の二人には悪いような気もするけど、一番応援したくなる娘である。


「優月さんっ!」

「は、はい!」


リング中央まで進み、大きな声でオレの名前――というか仮名を呼ぶ山口さん。


「全然敵わないとは思いますけど、胸を借りるつもりで頑張りますので、よろしくお願いしますっ!」

「は、はあ、これはご丁寧にどうも……」


深々と頭を下げる山口さんにつられて、オレも頭を下げる。

 てゆうか、こんなニセ乳の胸で良ければ、いつでも貸すよ……取り外せるから、物理的に。


「じゃあ二人共、準備はいいか?」

「はいっ!」


山口さんが返事をすると同時に、オレの返事を待たず鳴り響くゴングの音。


まあぁ、準備は出来ているし、いいんだけどね……


ゴングと同時に走り出した山口さん。勢いよく組み付かれ、そのまま後ろのロープまで押し込まれる。


「たぁぁああ!」


山口さんは押し込んだロープの反動を利用してオレを反対側のロープへと振ると、カウンターで|巻き投げ《アームホイップ》(*01)を仕掛けてきた。


「よっと」


オレは投げの勢いに逆らわず自ら投げられる方へと跳び、空中で一回転して脚から着地する。そしてその勢いを利用して、逆にアームホイップで投げ返す。


「きゃっ!」


背中からマットへ叩き付けられるように落ちて行った山口さん。それでもすぐさま起き上がり、自らロープへと走り出す。


「やぁああっ!」


ロープの反動を利用したドロップキック(*02)。


へぇ~、後方回転式か――形も綺麗だし、スピードもある。走り高跳びをやっていただけあり、空中でのバランス感覚もなかなかだ。


そんな事を思いながらキックの衝撃を受け流すように後ろへ倒れ込み、後転倒立で立ち上がる。そのまま後方のロープへ走って、山口さんの起き上がりざまに同じ後方回転式のドロップキックを叩き込む。


「ぐっ……まだまだっ!」


背中から勢いよく転倒したが、それでも直ぐに立ち上がってローリングソバットを放つ山口さん。


結構鋭い蹴りではあったけど……


オレは軽くスウェーバックしてソバットを躱し、山口さんが着地した瞬間に胸板めがけてローリングソバット(*03)を放った。


「がはぁっ!」


勢い余って頭からマットへと落ちる山口さん。


その後も彼女が仕掛ける技を躱し、そして受け流しながら同じ技を返していった。

そんな事を、どれくらい繰り返しただろう……体感時間では多分十分程度だったと思う。


殆どノーダメージのオレに対し、山口さんは大きく肩で息をしながらなんとか立っている感じだ。


「はあ、はあ、はあ……あ、あの~、優月さん……?」

「なに?」

「はあ、はあ……わ、わたしには、はぁ……ないんですか……?」

「なにが?」


両膝に手を着いて、息を調えながら話す山口さん。


「え~と……前の二人みたいに、『そこが悪いよー』とか『どこがいけないー』とか『ここをこーした方がいいよー』みたいなのは……」

「悪い所ねぇ…………ぶっちゃけ全部?」

「がぁーーーん」


涙目でショックを受ける山口さん。


ちょっと言い方が意地悪だったかな?

この娘の場合、前の二人と違って慢心に繋がるほど自信は無いみたいだし。


「まあ、三ヶ月も智子さんに鍛えられただけあって、基礎と基本はシッカリと出来てる。技の形も綺麗でスピードもあるしセンスも悪くない」

「えっ? あ、ありがとうございます……」

「ただ、その『全部』を台無しにしている悪い所があるんだけど――何か分かる?」

「全部を……ですか?」

「そう。同じ技なのに、なんでオレの技は決まって山口さんの技は決まらないのか? オレと山口さんでは、どこが違うのか?」

「優月さんとわたしの違うところ……?」


山口さんは、コメカミに指を充て『うんうん』唸りながら考え始める。


そして――


「おっぱいがムダに大きい?」

「ぶーーっ!」


ムダなおっぱいなんて、この世に存在しません。


「彼氏がいない?」

「ぶーーっ!」


そんなのオレにだっておらんわ! ってか、いらんしっ!


「分かったっ! 優月さんの方が美人で女らしいっ!」

「ぶぶーーっ!!」


お願いだから、そういう事は言わないで。心が折れそうだから……


「すみません、分かりません……」


ペコリと頭を下げる山口さん。

オレはその場で軽く三度ほど跳躍をしてから、腰を落として身構える。


「じゃあ、プロレスラーらしく頭じゃなくて、身体で理解してみようか」

「身体で……ですか?」

「そう。とりあえず胸の前で両腕を交差させてみて」

「は、はい!」


山口さんはオレの指示通りに、胸をガードするように腕を交差させた。


「じゃあ今からそこに、左右二発のローリングソバットを打ち込むから。腰を落としてシッカリとガードしてみて」

「えっ? は、はい!」


山口さんの表情が変わった――

歯を食いしばるようにして、真剣な視線を送ってくる山口さん。


「それじゃ、行くよ」

「はいっ! お願いします!」


返事と同時に間合いを詰める。そして右回りに回転しながら、右足でガードの上からソバットを打つ。


「くっ……!」


山口さんは後退りながらも、なんとか持ちこたえたようだ。

続いてオレは、着地と同時にさっきとは逆回り――左回りで左足のソバットを、さっきと同じ場所に叩き込んだ。




(*01)アームホイップ

画像 主に走りこんでくる相手に対し、自分の利き腕の対角線にある相手方の腋に腕を差し入れ、空中で相手を回転させ投げ飛ばす。



(*02)ドロップキック

画像 対戦相手目掛けてジャンプし両足を揃えて足裏で蹴る。

また、後方旋回式とは、相手にキックを当てた後、後方に一回転して前受け身を取る蹴り方である。



(*03)ローリングソバット

画像 横回転しながら飛び上がって、足裏で蹴る技。

レッスルプリンセス~優しい月とかぐや姫~

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