テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――江戸界隈海峡付近――
※エルドアーク宮殿前荒野
「あれが……エルドアーク宮殿?」
「凄い……綺麗……」
ユキ、アミ、ミオの三人は、眼前の聳え立つ壮厳なエルドアーク宮殿を見て、この国では決して見られない煌びやかな建造に、思わず感嘆の声で呟く。
「マズイな……」
ユキは辺りを見回しながら、その宮殿の煌びやかさより、周りの状況と配置に危機感を覚えた。
辺りには身を隠す様な場所は一切無い荒れ果てた僻地に、宮殿は海をバックに聳え立っている。
まるで“逃げも隠れもしない”とばかりの見栄。
其処に建築されたというよりは、無理矢理宮殿を持ってきましたと云わんばかりの、煌びやかさとは対称的な不自然の対比となっていた。
「ここまで来たら、もう行くしかないわね……」
「はい姉様!」
アミとミオを尻目に、ユキは少しだけ後悔していた。
“出来れば此処から先は、自分一人で行きたい”ーーと。
だが二人は、梃でも共に行くつもりだろう。
「行きましょう。これが最後の闘いです」
ユキの号令で、眼前の宮殿入口に向かって歩を進める。
二人の気持ちが痛い程、分かっているから。だからこそ、この闘いは共に見届けなければならない。
「……入口が!」
進み行く合間にミオが声を上げる。
「勝手に……?」
頑丈そうな宮殿前の入口扉が、音を立ててゆっくりと開いていくのであった。
扉の奥から、ゆっくりと姿を現す人物。
「……やはり貴女が、此処の門番ですか?」
ユキはその人物を予想したかの様に口を開く。
「この人は、あのっ!」
アミにとっても忘れる訳が無い。
長老を惨殺して光界玉を奪い、恐山で冥王を復活させた張本人。
「ようこそ……エルドアーク宮殿へ」
その長い黒髪が美しい迄に靡く、狂座最高幹部である当主直属部隊。筆頭ルヅキ、その人で在った。
「姉様……怖い!」
ミオがルヅキの姿から発せられる邪気に当てられたかの様に、アミの腰に抱きついた。
ミオにとってもあの時、集落の者達を惨殺した光景を思い返したのだろう。
アミとミオが僅かに後退る中、ルヅキがそっと口を開いた。
「特異点ユキヤよ。冥王様がお前を御呼びだ」
「何っ!?」
意外なルヅキの一言に、ユキは思わず驚愕の声を上げた。
“――どういう事だ?”
「私の役目は、お前を冥王様の下に案内する事……」
これは本心なのか罠なのか。戸惑う三人を余所に、ルヅキは一呼吸置いて更に続ける。
「……だが、お前達を此処から先へ通す訳にはいかない!」
それは筆頭としてでは無い彼女の、はっきりとした拒否の顕れの言葉であった。
「話が噛み合っていませんね。何のつもりです?」
ユキにはルヅキの真意が理解出来ない。
「何のつもりも無い。冥王様はお前を求めている。だが私は違う」
とどのつまり、ルヅキは冥王の意に背いているという事になる。
「お前は此処から先に行く事無く、私が此処で殺す。これは私の独断と私闘だ」
彼女のはっきりとした意思表示に、戦闘は避けられない。
ユキも特に躊躇する事無く口を開く。
「分かりました。私も元よりそのつもりですから……」
対峙するユキとルヅキ。二人の距離は凡そ三間(約5.5m)
離れた二人の間には、確かな殺気で空気が張り詰めていく。
「ですが一人で、しかもそんな手ぶらでどうしようと云うのです? 大人しく其処を退けば、闘わずに済みますが?」
ユキの挑発にも近い一言に、ルヅキの無表情だが美しく精巧な顔が僅かに歪む。
「フン、私を……舐めるなよ!」
その切れの長い紅き瞳は吊り上がり、確かな怒気を含んでいた。
ルヅキは右手を翳(かざ)す。
「モード展開、マックスバトルフォーメーション(最終戦闘形態)」
その瞬間、ルヅキの身体は輝かしくも邪悪な光に包まれていく。
「こ……これは!?」
ユキは彼女のその異変に目を見張った。
巫女衣装を纏った無防備にも近かったルヅキの姿が、その衣装否、その形態そのものが変わっていく。
“最終戦闘形態”
全力で闘う、その為の姿へと。