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――エルドアーク宮殿――
※王の間前回廊
「ルヅキ……どうして?」
冥王の下へと走る、ユーリとハルの二人。
「急ぎましょう!」
突然のルヅキの命令違反とも取れる行動に、二人は焦りを隠せない。
冥王の意に背く事は赦されないからだ。
二人は王の間の重厚な扉を開け、玉座に続く間を走る。
ノクティスは相変わらず、玉座に頬杖を突いたまま居座っていた。
二人は冥王の眼下に急ぎ跪く。
「申し訳ありませんノクティス様! どうかルヅキの勝手な行動を御許しください!」
「お願いします! ルヅキを許して!」
二人は額を擦り付ける勢いで懇願した。
「謝る必要は無いよ二人共。ルヅキを咎めるつもりは無い。彼女の気持ちも分かるからね……」
ノクティスは玉座に居座ったまま、その寛大とも云える懐の深さを見せる。
「特異点が此処で死ぬなら、その程度の事だったという事」
もしかしたら試しているのかも知れない。特異点の真の力を。ノクティスから、その真意の程が伺える。
「では……我々も加勢を!」
「それはいけないよ」
ハルのその提案を、ノクティスは遮る様に咎める。
「これはあくまでも、ルヅキの私闘……尋常の勝負。その想いを無下にしてはいけない」
ノクティスはそう言いながら、指先を横に向ける。
「ルヅキ!?」
その瞬間、ユーリが思わず声を上げた。王の間の側面には、対峙するユキとルヅキが映し出されていたからだ。
それはさながら映画館のスクリーン。立体映像中継を見ているかの様に。
「ホウ……」
映し出された光景を眺めながら、ノクティスが感嘆の声を紡ぎ出す。
「いきなり羅刹姫(ラセツキ)モードで勝負を賭けるとは……。それ程の相手か。ルヅキの羅刹姫の姿を見るのは、幾星霜振りだろうね」
そうノクティスは昔を懐かしかむ様に、感慨深く変わりゆくその姿を眺めている。
「ルヅキの……本気?」
ユーリにとっては、ルヅキの本気を見るのは初めての事。彼女にとってルヅキが圧倒的に強い事は知っていても、更にその上が在る事は知らなかった。
直属に於いて何故、ルヅキが筆頭で在るのかを。
「羅刹……地獄の鬼をも喰らう鬼神。ルヅキは正にその化身たる鬼姫だ」
ノクティスはその理由(わけ)を語り始めた。
「ルヅキとアザミの双子の兄妹……。兄であるアザミの方がフィジカル面で上回っていたが、その潜在能力に於いては妹の方がずば抜けていた……」
ノクティスはそう呟きながら、左手首に装着してあるサーモを操作する。
「ルヅキのマックスレベルは通常で『203%』。だが羅刹姫の姿となった時、その潜在値は限界をーー兄をも超える」
“生体測定機サーモ 終焉型 Ω(オメガ)”
ノクティスの持つサーモは、警告音を鳴らす事無く通常と裏のモードを自在に変換可能。そして遠隔可能な最新鋭。
その液晶画面には、二人の臨界突破レベルが映し出されていた。
――――――――――――――
※裏コード~臨界突破
※モード:エクストリーム
対象level 209.96%
※危険度判定 SS
※対象Name -YUKIYA-
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――――――――――――――
※裏コード~臨界突破
※モード:エクストリーム
対象level 219.33%
※危険度判定 SS
※対象Name -LUZUKI-
――――――――――――――
*
「ノクティス様から見てこの勝負、どちらに分が有ると?」
ハルのその問い掛けに、ノクティスは映し出された映像を眺めながら、暫し考え込む仕草のまま口を開く。
「そうだね……。マックス値は僅かにルヅキが上。そして経験面も考慮して、総合的にルヅキが僅かに有利だろう」
ノクティスのルヅキが有利という判定に、ユーリはほっとした安堵の表情を見せる。
“勝ち負けよりルヅキが無事ならそれでいい”
直属三人がかりなら、確実に特異点を倒せるだろうが、ノクティスがそれを赦さぬ以上、そしてまたルヅキもそれを望まぬ以上、此処で見守る以外他は無い。
ルヅキが無事に戻って来る事。それだけがユーリの願い、切望そのものだった。
「だがこの領域の闘いともなると、どう転んでもおかしくないのは君達も分かるだろう? それに特異点のあの子には、数値だけでは計り知れない何かを感じさせる……」
“一体どちらの味方なのか?”
ノクティスの言葉には、特異点を擁護している様にさえ聞こえる。ユーリの心配は尽きる事が無い。
「さあ……刮目して見ようじゃないか。これ程の闘い、探しても滅多に見られないカードだよ」
ノクティスはそう映像を凝視し、そのヘテロクロミア(金銀妖眼)をよりいっそう輝かせた。
それはこの勝負の行方がどう転ぼうと、その過程を本当に楽しむかの様に。
『ルヅキ……お願い勝って!』
ユーリにとっては、この闘いの過程に於ける楽しみ等、どうでも良かった。
“もう二度と大切な者を失いたくない”
その想いは言葉となって口には乗らず、切願の瞳でただ映像を見詰めていた。