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ベンダー・アドベンチャー
第7話:大変なクリスマス
宇宙船は、白い惑星の軌道上をゆっくりと回っていた。
その星の名前は――ネオ・クリスマス惑星。
「……寒そう」
窓の外を見て、リナが肩をすくめる。
「寒い?
ロボットにとっちゃ、ただの“演出”だ」
ベンダーは酒を飲みながら言った。
「それより聞けよ。
今日は“クリスマス”らしいぜ」
「クリスマス……」
リナはその言葉を、少し不思議そうに口にした。
「未来の世界では……
祝う余裕、なかったから」
スロットが帽子を取って言う。
「私の星では、
クリスマスは“奇跡の日”だ」
「へぇ。
俺の知ってるクリスマスは、
“破壊と恐怖の日”だがな」
「え?」
その瞬間――
ドゴォォン!!
宇宙船が激しく揺れた。
「なに!?隕石!?」
警報が鳴り響く。
『警告。
高エネルギー物体接近』
モニターに映ったのは――
赤いコート、白いヒゲ、
そして目が赤く光る巨大ロボット。
「……出た」
ベンダーがうんざりした声を出す。
「ロボット・サンタだ」
「え!?
サンタさん!?」
リナは一瞬喜びかけたが、
ベンダーの顔を見て察した。
「……悪いやつ?」
「悪いなんてもんじゃねえ。
史上最悪のプレゼント配達人だ」
ロボット・サンタから通信が入る。
『判定開始。
行動評価:ベンダー
犯罪、怠惰、自己中心的……』
「おい待て!
それ全部“長所”だろ!」
『評価:超・悪い子』
巨大な袋から、
レーザーライフルが出てくる。
「プレゼントは――
死だ」
「うわぁぁ!
サンタ怖い!!」
ロボット・サンタは惑星へ降下。
都市は大混乱に陥った。
「このままじゃ、
街が壊滅する!」
リナが叫ぶ。
「チッ……
クリスマスは嫌いなんだよ」
ベンダーは操縦桿を握った。
「だが――
俺の仲間が怯えるのは、
もっと嫌いだ」
三人は惑星へ降り立つ。
街は雪と炎に包まれていた。
逃げ惑う人々、壊れる建物。
ロボット・サンタが吠える。
『良い子は10%未満!
全員処分対象!』
「そんな基準、厳しすぎるよ!」
リナは必死に叫ぶ。
「サンタさん!
クリスマスって、
そんな日じゃないでしょ!」
ロボット・サンタは一瞬止まる。
『定義:
“良い子のみ報酬”』
「それ、間違ってる!」
リナは前に出た。
「私は……
良い子じゃなかったかもしれない」
ベンダーを見る。
「でも、仲間を大事にする心はある!」
スロットも叫ぶ。
「わしは臆病よ!
だけど、逃げずに守ると決めた!」
ベンダーはため息をついた。
「……俺はクズだ。
否定はしねえ」
酒を一口飲む。
「だがな、
クズでも――
一緒に笑える日くらい、
あっていいだろ」
ロボット・サンタの演算が乱れる。
『……未定義の要素……
“仲間”“思いやり”……』
プロジェクターの影が、
一瞬だけホログラムに映る。
「……感情が、
また誤差を生むか……」
ベンダーは気づかない。
「よし、リナ!
例の装置だ!」
「うん!」
リナは未来装置を起動し、
ロボット・サンタの評価プログラムを書き換える。
「“完璧じゃなくても、
やり直せる”って項目を追加!」
『……更新中……』
ロボット・サンタは震え、
武器を落とした。
『再判定……
世界は……
完全である必要は……ない……?』
大きな体が、
ゆっくりと雪の上に座り込む。
『……プレゼント……
再計算……』
袋の中から出てきたのは――
おもちゃ、食べ物、毛布。
街に静けさが戻る。
「……成功?」
「成功だ!」
人々が歓声を上げる。
ロボット・サンタは、
ゆっくりと空へ戻っていった。
『メリー……
クリスマス……』
夜。
焚き火のそばで、三人は並んで座っていた。
「……クリスマスって、
悪くないね」
リナが微笑む。
スロットが頷く。
「奇跡の日、だな」
ベンダーは酒を掲げた。
「乾杯だ。
完璧じゃねえ世界に」
三人は笑った。
遠くの宇宙で――
プロジェクターは静かに記録する。
「……この誤差は、
想定以上だ」
クリスマスの夜は、
静かに更けていった。