「で、真犯人も捕まって立花美希の潔白が証明された、と」
風紀室。
ソファーに座り報告を受ける春翔は、目の前の2人を見つめた。
並び立つ雪乃とチーノは、チラッとお互いを見る。雪乃はチーノを睨み、チーノはフンッと視線を逸らす。
真犯人とされる3人の男子生徒をあの後雪乃が捕まえ、真相を語らせた。
穂波を狙った訳ではなく、立花美希を狙った犯行だった。
立花美希に罪を被せるためにメタモンを変身させ、たまたま近くにいた穂波のポケモンに石を投げた。
そして立花美希を犯人に仕立て上げる為に噂を流したり、張り紙をばら撒いたりした、と。
立花美希を狙った理由は、恋心を寄せていたが一向に靡かなかった為腹が立った…というただの私怨らしい。
それが雪乃の提出した報告書。
「まぁとりあえず、うちに届いた2つの依頼は達成された。ご苦労だった。
が、お前ら」
ギロリと春翔が2人を睨む。
「騒ぎを起こしすぎだ、アホ!」
2人は何も言えず俯く。
「ったく、何であんな事になるんだか。おかげでその尻拭いでてんやわんやだ。余計な仕事増やしやがって」
「僕は何もしてないですよ草凪先輩。彼女が勝手に暴れていただけで」
「はぁ???そもそもそっちが立花さん連れてこうとするからややこしくなったんでしょ!」
「あれは罠や。俺だって真犯人くらい分かってた」
「嘘つけ!本気で立花さん検挙する気満々だったろ!」
「はぁ?俺が間違った犯人捕まえる訳ないやろ。俺はちゃんと立花美希の言い分も考慮しながら真犯人を炙り出そうと画策しとったんや。なのに自分が邪魔してきたんやろ」
「あーあーあー、そうやってそれっぽい言い訳して、手柄取られたのが悔しいだけのくせに」
「はぁ?何自分の手柄にしてんの、真相に最初にたどり着いたんは俺や。自分が気付く遥か前から俺は真犯人も犯行手口も分かっとったわ。それを慎重に擦り合わせしてから動いただけであって」
「嘘つけ!あんなに煽ってきたくせ…」
「うるっせぇ!!お前ら、反省する気あんのか!!」
バンッ!と春翔が机を叩く。
スッと黙る2人。
「…とにかく、この件の後始末は俺がやっとくから」
立ち上がり2人の肩に手を置く。
「お疲れさん、同期なんだから仲良くしろよ」
それだけ言い残し風紀室を出て行った。
「………」
「………」
沈黙が続く。
最初に口を開いたのは雪乃だった。
「今からバチバチの喧嘩することは可能だけど、また怒られそうだからやめとく。ムカつくけど」
「あーやめときやめとき。口じゃ俺に勝たれへんやろ」
「腕っぷしでなら勝てるけど?????」
ブンブン腕を振り回し青筋を立てる雪乃。
ほんっと人をムカつかせる天才だな、こいつ。
「ま、今回はお前の思惑通り行かなくて残念だったな」
立花さんを検挙して私の地位を危ぶませる計画だったのだろうが、それも破綻し今や内心穏やかではないことだろう。
ニシシ、と心の中で笑う雪乃。
「怒られたくせに何浮き足立ってんの、大丈夫?」
「っはぁ!?自分だって怒られたくせに!」
「巻き添えでな。ほんま余計なことばっかして」
「っ、」
言い返そうとしたが、このままではまた口論になるだけだ、と言葉を飲み込む。
「…そんな私のことが邪魔なら、さっさと立花さん捕まえればよかったのに」
立花を捕まえる時間はいくらでもあった。
無駄に人のこと踊らせて煽ってる暇があったらさっさとそうしてしまえばよかったのに。
自分の方が優位だと調子に乗って鷹を括ったばかりに。
ぼそりと呟いた一言に、チーノは背を向ける。
「そんな事したら、自分泣くやろ」
静かなトーンで、そう言い放つ。
雪乃はカチンと怒りを募らせる。
「何だそれ、泣く訳ないだろ馬鹿か!」
人のことナメ過ぎだ!と腹を立て声を荒げる。
フン、と鼻を鳴らしチーノはドアの方へ向かう。
「ま、せいぜいヘマして追いやられんように気ぃつけや?妹さん」
ベッ、と舌を出し挑発した後、チーノは部屋を出て行った。
最後までムカつく男だ。
いつか眼鏡ごと顔面粉砕してやる。
やり返すように、ベーッとチーノが出て行った方に向かって舌を出した。
しかし、と雪乃は窓の外を見る。
本当に真犯人はあの男子生徒たちだったのか?
何だかスッキリしない。
まるで、まだあいつの手のひらの上で踊らされているかのような。
そんな気がしてならない。
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