テラーノベル
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翌日になっても、頭から離れない若井の事。
周りからすれば、ほんの些細な出来事に過ぎないたった一言。
その一言が深く刺さって抜けずにいる。
隠してきたのに、隠していたいのに、想いは強くなるばかりで。
頭が上手く回らず、仕事が手に付かない。
「元貴?」
「……っ、なに?」
若井の手が肩に触れ、我に返る。
何回も名前を呼ばれていたようで。
あぁもう。調子狂う。
「大丈夫?体調良くなさそうだけど」
よりによって、一番心配を掛けたくない相手にバレてしまった。
「…あー、寝不足。ちょっとだけ。」
「早く寝なよ?倒れられたら困るからね」
呆れたように溜息をつかれるけど、声には心配の色が滲んでいる。
「あれ、心配ですか?」
誤魔化すように、笑う。
「いや、当たり前でしょ」
「メンバーなんだから心配ぐらいするってば。」
今1番聞きたくない言葉を、1番言って欲しくない相手から。
そりゃそうだよね。
10年やってるバンドのメンバーで、友達。
それ以上でもそれ以下でも無いもんね。
こんな事で傷付いている自分が嫌になる。
メンバーとしてでも、友達としてでも。
傍に居てくれるなら、それで充分なのに。
充分なはずなのに。
その関係を壊したいと願っていることさえもが、どうしようもなく辛い。
「はいはい。ありがとね」
言葉を、想いを飲み込んで、少しも頭に入らないパソコンの画面に目をやった。
夜。自室に戻り、スマホに映し出された通知を見つめる。
表示される若井の名前と、メッセージ。
心配、してくれてるんだろうな。
既読を付けるか迷った末、通知をタップしてトーク画面を開いた。
「体調平気?何かあったら言いなよ」
特に、何も言うつもりは無かった。
メッセージ欄に「大丈夫」と打ち込んだものの、送信ボタンを押そうとした手が止まる。
“メンバーなんだから心配ぐらいするってば。”
俺達の関係は、バンドのメンバー。
どれだけ”変えたい”と願っても変わることの無い関係で。
メンバーの体調に異変があれば、そりゃ
心配ぐらいするだろう。
なら、本当にそれでいいのか。
このまま気持ちを隠しきればいい、誤魔化し続ければいい。
それが互いにとって最善だ、そう思っていたけど。
今この状態は、大きくなりすぎた感情を隠せていると言えるのだろうか。
実際、若井に心配をかけてメッセージまで送らせて。
ただ、自分が傷付きたくないだけだった。
もう終わりにすればいいのかな。
全部伝えれば、諦めがつくのかな。
気付けば、メッセージ欄の文字を打ち直していた。
「話したい事、ある。」
若井のメッセージに既読を付けてから数十分。
震える指先で送信ボタンに触れた。
コメント
5件

ちょっと大森さんに感情移入しすぎて今、とても胸がドキドキしてます。 感情移入のしすぎですね、最後の「送信ボタンに触れる」時に思わず自分の携帯をぎゅっと握ってしまいました。笑 このままメッセージでのやり取りなのか……はたまた若井さんが家に来るのか?!続きが凄く楽しみです。