テラーノベル
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ふと 目が覚めてここはどこだっけ、あ、ホテルかぁ、なんて考えながら目を開ける。
薄暗い部屋で目の前には若井の鎖骨が見えて、若井の腕を枕代わりにしっかりと抱き締められているのに気づく。
もしかしたら夜いなかった2人が帰ってきているかもしれないと若井から離れようとしたけどがっちりと抑え込まれていて逃げ出せそうにない。
「若井···起きてよ」
「ん···?なにぃ」
「こんなの見られたら···誤解されるって」
ヒソヒソと小さい声で話しているけど内心はドキドキとして少し焦る。
「あいつらなら夜中帰ってきてまだ寝てるよ···だから大丈夫」
「え!じゃあ起きる···から、離して」
何にも大丈夫じゃない、だって1つのベッドでこんなにくっついて寝てただなんて知られたら、なんてからかわれるか。
まだ眠そうな若井は、にやっと笑って俺を抱きしめる手にますます力を入れる。
「静かに···あいつら起きちゃうよ?」
「だから、離してって···」
「やだって言ったらどうする?」
心臓がドクン、と高鳴る。
この表情、知ってる···あの文化祭の時、キスしたあとに笑ったあの顔と同じだ。
俺よりずっと余裕そうな、少し大人びた顔。
「そんなこと言われても···」
なんて返事したらいいのかわからない。感じるのは若井の体温と抱きしめる腕の強さ。
「俺はずっとこうしてたいけど」
そう言って頭をぎゅっと若井の胸に押し付けられる。
若井の鼓動がどくどくとおっきく聞こえて、でも自分のもばくばくと煩くて、あのキスされた時みたいって思い出したとき、やばい、と思った。
「ゆるして···おれ、も、だめ···っ」
思わず泣きそうになる。
好きな人とこんな状況なら男だったら仕方ないんだろうけど身体が反応してしまって、密着している若井に気づかれるかも、恥ずかしい、と思うと思わず許して、という言葉が出た。
「···っ、ごめん」
若井が顔を真っ赤にしてパッと腕を緩めてくれて、ようやく俺は少しだけ若井から離れた。
「俺もごめん···その、ちょっと恥ずかしかっただけだから···嫌とかじゃないから···!」
必死に言い訳すると若井はポンポンと頭を撫でてくれた。
「わかってる、わかってるよ···ごめん、ちょっとからかいすぎた···元貴が可愛かったから」
時々、本当に時々だけど、若井と俺の間に少し友達とは違う空気感を感じるようになったのは俺だけだろうか?
俺が勘違いしてしまいそうなくらい、若井は優しくて、俺を大事にしてくれるから、そう勘違いしているだけだろうか。
「いいよ···昨日、若井が一緒にいてくれたからちゃんと眠れたし···その、ずっとこうしてて欲しいって思うくらい心地よかったから···」
これは俺の本当の気持ち。
それだけ告げて顔洗ってくる、と起き上がって洗面所に向かった。
顔が熱い、心臓がきゅっとなる。
そのあとは寝ていた2人も起きてきて皆で朝食を食べに行って、また観光して、2日目の夜は帰る用意で忙しく、皆出ていくこともなかった。
1人で入るベッドは昨日と同じのはずなのにやっぱりあんまり眠れそうになく、みんなが寝て静かになった部屋で目を瞑って寝返りをうった。
「···もとき、寝た?」
隣から若井の声が聞こえた。
「···ううん」
「眠れないならさ、ちょっとだけ、抜け出さない?」
若井がルームキーを持って静かに俺たちは部屋を抜け出した。
こっち、と歩いて行く若井の後を追いかける。
静かに廊下を歩いていった先はバルコニーみたいに出られるようになっていて、ドアを空けると少し熱い空気を感じた。けど、その次に感じたのは東京では見たことがないような満天の星空だった。
「うわ···星がすごく綺麗に見える!」
「ほんとだ···すごいな、めっちゃ綺麗」
しばらくそこから動けずに誰も居ないその場所で2人静かに空を眺めていた。すぐ後ろはホテルの明るい廊下なのに、ドアを挟んで外にあるそこは別世界のように静かで暗い、しっとりとした空間だった。
「ホテルのパンフレット見てたら出られるみたいだったから、元貴誘って行きたくて、ちょうど良かった」
いくつかテーブルと椅子が置いてあって俺たちは見つからないように一番端の椅子を更に端っこに移動させて外が見えるように並んで座った。
「星空ふたり占めしてるみたい」
「ほんと、この世界に2人きりみたいな気がする」
それくらい静かで周りは真っ暗で空にある星たちは輝いていた。
「ありがとう···最高の想い出になった···眠れなくて良かった」
「確かに最高の想い出だ···けど、寝てください」
明日起きれないよ、と若井の困ったような心配しているような声が聞こえる。
「だって···やっぱり違うベッドだと落ち着かないね、昨日は気づいたらもう寝てたのに」
「今日も一緒に寝る?」
笑ってるあたり冗談なんだろう、さすがに他の人がいるところでそれはしづらいものがあるのは俺も若井もわかっていた。
「きっと今なら眠れる気がする、目を閉じたらこの星空が出てきてくれそうだから」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか···朝も早いから······元貴」
「ん?」
椅子を戻したその時、若井に引き寄せられて俺より背の高いの腕の中におれは収まっていた。
「···本当に眠れなかったらいつでも来ていいから」
「う、うん···ありがと···」
抱きしめられたのは一瞬で離れたすぐの若井の表情は暗くてほとんど見えなかった。
廊下の明るさに眩しい、と目を細めながら見つからないようにそっと俺たちは部屋に戻ってそれぞれのベッドに入った。
「おやすみ」
「おやすみなさい···」
そっと目を瞑って思い出すのは満天の星空と若井に抱きしめられたこと。
ウトウトとしてきたこともあって若井のベッドにお邪魔することはなかった。
それに、どうしたって今そこに行けばこの気持ちが溢れ出てしまいそうだった。
若井のことが世界で一番大切で大好きだと、ハッキリと伝えたくなるこの気持ちは もうそんなに我慢はできないかもしれない、抑えられないかもしれない。
俺はあの星空の下で若井のことが好きだと伝えて若井は抱き締めてくれる夢を見た。
コメント
4件
お互いを思い合ってるのになぁ。切ない!
両片思いが極まってきていて、可愛いがすぎます!🙌🏻