テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
58
40
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エレベーターを降りてからも、佐野勇斗はずっと静かだった。
というか、静かになるしかなかった。
もっと甘やかす
その一言の破壊力が強すぎる。
「……」
「勇斗」
「……はい」
「魂抜けてる?」
「半分くらい」
吉田仁人がまた笑う。
そして部屋の前で立ち止まり、鍵を開けた。
ガチャ、と音が響く。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
恐る恐る中へ入る。
最初に思ったのは――
「……めっちゃ仁人の匂いする」
「あはは、何それ」
「いや、なんか……落ち着く匂い」
言った瞬間、仁人がぴたりと止まった。
「……勇斗」
「ん?」
「それ無自覚?」
「何が?」
仁人は数秒黙ったあと、片手で顔を覆った。
「……無理」
「え!? 何が!?」
「メロすぎる」
「だからそのメロいやめろって!」
仁人が肩を震わせる。
勇斗は靴を脱ぎながら部屋を見回した。
シンプルで綺麗な部屋。
でもちゃんと仁人っぽさがある。
ソファ、クッション、テーブル。
全部新鮮で、なんだか変にドキドキした。
「適当に座ってて」
「お、おう」
勇斗はソファに座る。
落ち着かない。
恋人の家。
二人きり。
しかも泊まり。
「……」
「飲み物いる?」
キッチンから仁人が聞く。
「なんでも!」
「ざっくりすぎ」
「じゃあ仁人と同じので」
「……またそういうこと言う」
「え?」
「なんでもない」
仁人は冷蔵庫からペットボトルを取り出した。
その後ろ姿を見ながら、勇斗はぼんやり思う。
……好きだな。
ほんとに。
その瞬間。
「勇斗、今また変なこと考えてたでしょ」
「は!?」
「顔に出てる」
「出てない!」
「出てる」
仁人が飲み物を渡してくる。
指先が少し触れただけで、勇斗の肩が跳ねた。
「びっくりしすぎ」
「だって……」
「だって?」
「近いんだもん……」
仁人が一瞬固まる。
そして、ゆっくり勇斗の隣に座った。
「じゃあもっと近く行く」
「は!?」
距離が縮まる。
肩が触れる。
太ももまで当たってる。
「ちょ、仁人!?」
「勇斗がかわいいから悪い」
「それ今日何回目!?」
「ほんとのことだし」
仁人は楽しそうだ。
完全に。
絶対楽しんでる。
でも――
その横顔は少し赤い。
「……仁人」
「ん?」
「ほんとは仁人も緊張してる?」
その瞬間、仁人がぴたりと止まった。
「……してない」
「嘘」
「してない」
「耳赤い」
「勇斗のせい」
「またそれ!」
勇斗が笑うと、仁人は少しだけ目を細めた。
「……今日さ」
「うん?」
「勇斗、ずっと笑ってる」
「楽しいから」
「……その言い方ずるい」
「何が?」
「嬉しくなる」
仁人の声が少し小さい。
勇斗はじっとその顔を見る。
すると仁人がふっと目を逸らした。
珍しい。
いつもは余裕あるのに。
「……仁人」
「ん」
「こっち向いて」
「なんで」
「いいから」
仁人がゆっくり振り向く。
その瞬間。
勇斗は衝動的に、仁人の袖を掴んだ。
「……っ」
「勇斗?」
「……好き」
空気が止まる。
言った本人が一番驚いていた。
でも止まらなかった。
「今日ずっと楽しかったし、仁人かっこいいし、優しいし……」
仁人が完全に固まる。
勇斗は顔を赤くしながら続けた。
「……あと、なんか今日の仁人、いつもより甘いし」
「……」
「それで、余計好きになった」
沈黙。
数秒。
いや、体感では数年。
そして。
「……待って」
仁人が片手で顔を覆った。
「え、何、変なこと言った!?」
「違う」
「じゃあ何」
「……好きすぎて無理」
「っ……!」
仁人がそのまま勇斗にもたれかかってくる。
珍しい。
こんなふうに崩れる仁人、初めて見た。
「仁人!?」
「勇斗が悪い」
「なんで!?」
「そんな顔で好きって言うから……」
耳まで真っ赤だった。
勇斗は思わず笑ってしまう。
「……仁人でもこんなんなるんだ」
「なる」
「かわいい」
今度は仁人が勢いよく顔を上げた。
「それ反則」
「仕返し」
「勇斗」
「ん?」
仁人がじっと見つめてくる。
その目が真剣で、勇斗は少しだけ息を止めた。
「……キスしていい?」
その瞬間。
勇斗の思考が真っ白になった。
𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹