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第8話 条件は、まだ言っていない
その日、
学園の空気は少しだけ――変わっていた。
(……視線が、増えましたわね)
数が増えたわけではない。
質が変わった。
近づかない。
話しかけない。
けれど、確実に“意識されている”。
(殿下の動きが、伝播していますわ)
誰かが一線を測れば、
周囲もそれに倣う。
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昼休み。
中庭の一角。
リリアーナは、あえて人目につく場所に腰掛けていた。
(隠れる段階は、終わり)
そう判断したからだ。
「……やっぱり、いらっしゃいましたね」
声をかけてきたのは、ルークだった。
偶然を装っているが、
タイミングが正確すぎる。
「ここ、空いてますか」
「どうぞ」
(来ましたわね)
彼は隣に座るが、
距離は保つ。
――“触れない”ことを、選んでいる。
「昨日の件ですが」
切り出したのは、ルーク。
「殿下は、引いたようで引いていません」
「存じていますわ」
即答。
「むしろ、
“どう越えるか”を考え始めています」
ルークは、わずかに笑った。
「さすがですね」
(分析対象にしないでくださいませ……)
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「質問があります」
彼は、視線を外したまま言う。
「もし、誰かが
完全に“線を守った”場合」
一拍。
「それでも、
同じ距離に立ち続ける覚悟はありますか?」
(……鋭い)
これは、探りではない。
選別だ。
リリアーナは、静かに答えた。
「ありますわ」
「理由は?」
「私が選んだからです」
即答。
「選ばない自由を尊重する人は、
選ぶ価値があります」
風が、ふっと吹いた。
ルークは、
その言葉を噛みしめるように黙った。
(……この人、今ので一歩進みましたわね)
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そこへ。
「リリアーナ様!」
エマが、小走りで近づいてくる。
「生徒会から伝言です!
今夜、非公式の意見交換会があるそうで……」
(非公式)
リリアーナの指先が、僅かに止まる。
(堂々と来ましたわね)
「出席は、任意だそうです」
――“任意”。
だが、
出席しなければ意味を持ち、
出席すれば主導権を問われる。
(罠ではありません)
(これは……舞台)
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その夜。
リリアーナは、鏡の前でドレスを整えながら、
静かに思考を巡らせていた。
(殿下は、合法的に距離を詰める)
(ルークは、条件を満たしにくる)
(カインは……まだ動かない)
そして。
(私は)
微笑む。
(まだ、条件を言っていません)
拒否もした。
線も引いた。
――だが。
(“どう関わるか”は、
まだ誰にも許可していない)
扉の外から、
控えめなノック。
「……参りましょうか」
これは、
選ばれる側の集まりではない。
選ばせる側が、条件を置く夜。
そのことを、
彼らはまだ――知らない。
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