テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
5件
瑛斗の決心とそれに力になる父親との記憶めっちゃこころに残る。 これめっちゃ名台詞!!「戦うものとは、己のためでなく、大切にしたいものを守るために刀を握るのだ。」
白華楼に入隊してからはや一ヶ月、瑛斗は目まぐるしい日々を送っていた。そんなある日瑛斗は家に帰っていた。新人のうちは少しばかり休みがあり、休みの日は白華楼での訓練はしない、そのため瑛斗は家に帰ってきたのだ。瑛斗は少しくつろいだあと、立ち上がり、扉へと向かった。それに気づいた秋穂が「どうしたの」と声をかけてきた。
「両親のお墓参りに行こうと思って」
「そっか、気をつけて行ってきてね」
「はい、行ってきます」
そう言うと瑛斗は家を出て、静かに息を吐いた。冷たい風が頬を撫で、遠くで鳥のさえずりが聞こえる。両親のお墓へ向かう道は、かつて家族で歩いた思い出の場所だった。
「いつもこの道を、父さんと母さんと一緒に…」瑛斗は小さく呟いた。記憶の中では父親の力強い笑顔と母親の優しい手のぬくもりが鮮明によみがえる。
ふと立ち止まり、辺りを見回すと、木漏れ日がまるで導くかのように彼の進む道を照らしていた。「俺が今ここにいるのは、父さんと母さんのおかげだ。だから…」瑛斗は拳を握りしめ、静かに決意を固めた。「絶対に無実を証明してみせる。」
瑛斗は静かに歩を進め、目の前に見えてきたお墓へと近づいた。父と母の名前が刻まれた石碑が、穏やかな木漏れ日に照らされていた。
息を吐きながら膝をつき、手を合わせる。目を閉じると、幼い頃の記憶が頭の中をよぎった。父親の頼もしい背中、母親の優しい声、そのすべてが彼を支えていたことを今さらながらに実感する。
「父さん、母さん。白華楼に入ってから、あっという間に一ヶ月が経ちました。新しい生活にはまだ慣れないけれど、秋穂さんにはすごく助けられています。」瑛斗は声に出すことはなく、心の中で静かに語りかけた。
そして拳をぎゅっと握りしめた。「必ず俺が…咲莉那さんの無実を証明します。それが俺にできる、あなたたちへの恩返しだと思っています。」
その時、柔らかな風が吹き抜けた。瑛斗はふと目を開け、空を見上げる。「俺は絶対に諦めない。父さんと母さんの教えを胸に…進むよ。」
静かに手を合わせたまま、瑛斗は深く頭を垂れた。そして決意を新たに、立ち上がり再び歩き出したのだった。
そう、あれはまだ瑛斗が幼かったときのこと…両親は白華楼の治癒部門の主任で、母は治療を、父は治療もしながら、愛刀である誓鋒(せいほう)を持ち負傷者の護衛を、時には戦闘もおこなった。
そんな両親を瑛斗は尊敬すると同時に誇りに思っていた。
ある日、両親が任務で出かけることになったが、瑛斗が自分も連れてって欲しいと駄々をこねたのだ。そのため無理を言って、瑛斗も同行させることに、だがこれが悲劇の始まりだった。
任務の最中、状況が悪化し、隊員たちが次々と倒され、中には殺された者もいた。このままでは自分たちの息子である瑛斗までも殺されてしまう。そこで両親は、自分たちの親友でもあり、治癒部門の副主任でもある椿(つばき)に瑛斗を託したのだ。そして瑛斗には、母の耳飾りと、父の愛刀を渡し、前線へと戻っていた。その後、両親の活躍により妖怪たちは倒されたが、両親は深傷を追い命を落とした。
両親の死後、瑛斗は椿とその娘である秋穂の家に引き取られた。そこは白華楼から離れた、静かな山間の村だった。
「ここが今日から瑛斗くんの家になるのよ。」椿は穏やかに微笑みながら、瑛斗を暖かい木造の家の中へ案内した。だが、瑛斗の瞳には涙が浮かび、何も言えないままだった。
秋穂はそんな瑛斗の様子に気づき、小さな声で「大丈夫だからね」とだけ呟いた。
新しい生活が始まったが、瑛斗の心はなかなか晴れなかった。夜になり、ふと目が覚めると、父や母がまだ隣にいるような気がして涙を流すこともあった。それでも椿はそんな瑛斗に寄り添い、彼が少しずつ笑顔を取り戻せるよう、温かく見守り続けた。
ある日、瑛斗は父の刀「誓鋒」を手に取り、じっと眺めていた。その手に感じる冷たさの中に、父の想いが宿っているような気がした。
瑛斗の頭の中に、父がよく言っていた言葉が浮かんできた。
「戦う者とは、己のためではなく、大切なものを守るために刀を握るのだ。覚えておけ、瑛斗。」
幼い頃、父が誓鋒を手に語ったその言葉を、瑛斗はその時ただの憧れとして聞いていた。しかし今となっては、その言葉が胸に強く響いていた。
「父さん、俺、強くなるよ。そして二人が守ってくれたものを…守れるようになる。」その日瑛斗は白華楼への入隊を決意したのだった。
あの日から十年が経った。瑛斗もすっかり成長し15歳。
瑛斗は、いつものように白華楼の訓練場で刀を握り締めていた。誓鋒の冷たい刃を通じて、父の言葉がいつも心の中に響いている。
「戦う者とは、己のためではなく、大切なものを守るために刀を握るのだ。」
瑛斗はその言葉を胸に、今日も訓練や勉学に勤しむ。すべては咲莉那の無実を証明するために…。
瑛斗は刀術の基本を鍛えるため、誓鋒を握りながら訓練場で繰り返し型を練習していた。その汗ばむ手から刃の冷たさが伝わるたび、父の背中を思い出していた。「父さんなら、こんな時どうするだろう…」瑛斗は刀を振りながら、自問自答する。
勉学の時間には、白華楼の図書室で古文書を紐解きながら、妖怪の知識や歴史を学び、咲莉那が抱える謎の手がかりを探していた。椿の助言を受けながら、瑛斗は一つ一つ自分で理解を深める。
時には、瑛斗が壁にぶつかり、思うように進まないこともあった。そんな日は訓練場で夜遅くまで汗を流し、悔しさを刀に乗せるように振り続けた。「咲莉那さんのために、俺があきらめるわけにはいかない。」
そんなある日、瑛斗は図書室の片隅で古びた書物をめくりながら、息を詰めていた。白華楼の任務や妖怪の歴史に関する記録が並ぶ中、ふと目に留まった一節があった。それは咲莉那に関する記述だった。
瑛斗はその瞬間、胸の鼓動が速くなるのを感じた。「これが…手がかりになるかもしれない。」一枚一枚慎重にめくりながら、その言葉を深く読み込んだ。
彼はすぐに秋穂に報告しようと決意し、記述の内容を忘れないように頭の中に刻みつけたのだった。
瑛斗は書物を閉じ、息をついた。頭の中で咲莉那の姿が浮かび上がる。
「これでやっと…真実に近づけるかもしれない。」
彼の握る拳には、力がこもっていた。それは、咲莉那を救いたいという決意と、彼自身の成長への一歩でもあった。
静かに立ち上がり、図書室の静寂の中を歩き出す瑛斗の姿を、月明かりが照らしていた。