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翌日の訓練後、瑛斗は咲莉那に関する記述を見つけたことを秋穂に報告した
「すごいよ瑛斗!それで、どんなことが書いてあったの?」
瑛斗は事細かに話し始める。
「書かれていたのは、白華楼での咲莉那さんのこと、全てでした。咲莉那さんの入隊直後から関わった任務、討伐されるに至るまで全部、中には咲莉那さんがいた隊の隊員たちが書いたと思われる、言葉までありました。」
秋穂は驚きの表情を浮かべながら
「そんなに詳しく…」と呟いた。
瑛斗は頷くと一呼吸置いてからまた話し始める。
「その中に妙なことが書いてあったんです」
「妙なこと?」
「はい、咲莉那さんが入隊してから三年が経った頃、時々、咲莉那さんは任務が終わると、隊の誰にも言わずにふらりとどこかへ行くことがあったそうです、しかもそれが頻度を増していったと…」
秋穂は眉を寄せながら、「ふらりと…どこに行ってたんだろうね?それに、誰にも言わずにって、なんだか怪しいね」とつぶやいた。瑛斗は頷きつつ、「その記録にはどこに行ったのかまでは書かれていませんでした。きっと、隊の人達も分からなかったんだと思います。でも、どうしてそんな行動をしていたのか、その理由が重要なんじゃないかと思います」と語った。
「そうだね、瑛斗。その手がかりをつかむためには、さらに調べる必要がありそうだね」と秋穂は真剣な表情で答えた。
その直後、妖だ!という声が聞こえ、瑛斗が急いで扉を開けると妖怪たちが村人たちに襲いかかっていた。
瑛斗はすぐに刀を抜き、村人たちを守るために駆け出した。目の前で妖怪が鋭い爪を振りかざし、村人を襲おうとしているのを見て、瑛斗は体が先に動いた。「やめろ!」彼の叫び声とともに、誓鋒が妖怪の爪を弾く音が響く。
秋穂は混乱の中で泣き声を耳にし、思わずそちらに向かって駆け出した。瓦礫の隙間にうずくまっている幼い女の子が、震えながら涙を流していた。秋穂はその場に膝をつき、穏やかな声で「大丈夫?」と声をかけた。
「グスッ、うん、だいじょうぶ」
女の子が答えた。
「だって…食い物が見つかったからぁ!!!」
それは女の子ではなく、女性の姿をした妖怪だったのだ。
秋穂は恐怖で動けずにいた。
「この女…肉付きが良いねぇ…」
妖怪は「やっぱり…旨そうな女だ…」とよだれをたらしながら言った。
瑛斗は声に気付き秋穂に駆け寄ろうとしたがすでに妖怪が秋穂を襲おうとしている。この距離では間に合わない。
「秋穂さん!」瑛斗はたまらず叫んだ。
秋穂が殺されてしまうそう思った刹那、秋穂から炎が現れ、妖怪をはね除けた。
「き…き…貴様、なぜ”それ”を持っている!」
妖怪が”それ”と言って秋穂を指差した、指指していたのは秋穂ではなく、秋穂の前に現れた赤く輝く美しい羽だった。
「これって咲莉那からもらったお守りの羽…?どうして…」
昔咲莉那から「もし秋穂に何かあったらこの羽が守ってくれる。肌身離さず持っていて」そう言われたのを思い出した。
突如、羽は炎に包まれ、やがて美しい燃える鳥へと変わった。
妖怪は何かを思い出したような表情を浮かべ突然笑いだした。
「アハハッ残念だったねぇ、そいつは咲莉那の試作途中のもの、その術は一回しか発動しない。だから術が切れたらあんたはおしまい。アハハッ」
瑛斗は妖怪の言葉を聞き、刀を握りしめながら心の中で叫んだ。「一回しか発動しない?そんなことは関係ない。この状況を乗り越えるために、俺たちにはまだやれることがあるはずだ!」
燃える鳥は妖怪を威嚇するようにひと鳴きすると、妖怪に向かって翼を一回羽ばたかせた。すると炎が妖怪に向かって飛んでいった。妖怪は「ギャッア」と声を上げ燃え盛った。
妖怪は炎の中で苦しみながら、「貴様ら…よくも…!」と呻いた後、その姿を消していった。燃える鳥は静かに瑛斗と秋穂の方に目を向け、翼を閉じると羽の形に戻った。瑛斗は息を整えながら、「この羽、一体何なんだ?」と呟く。秋穂はまだ震えていたが、「咲莉那が私を守るために…残したものなのかもしれない」と語った。
その瞬間、周囲が再びざわめき始めた。瑛斗は鋭く耳を澄ませ、遠くから重い足音が響くのを感じた。新たな妖怪たちが現れたのだ。
瑛斗は刀を構え直し、秋穂に向かって叫んだ。「秋穂さん、すぐに逃げてください!」その言葉を聞いた秋穂は立ち上がろうとしたが、恐怖で足が動かなかった。妖怪たちは鋭い爪を振りかざしながら二人に迫ってくる。
「間に合わない…!」瑛斗は歯を食いしばりながら、必死に刀を振りかざした。しかし、次の瞬間、目の前に強烈な閃光が走り、瑛斗の動きを止めた。その閃光が消えると、そこには咲莉那の姿が立っていた。
「もういい。」彼女の声は低く、力強く響き渡った。咲莉那は冷静な目で妖怪たちを見据え、袖の中から呪符を数枚取り出すと妖怪たちに向かって飛ばした。呪符から放たれた光は妖怪たちを包み込み、炎のような輝きとなってその動きを止めた。
「咲莉那さん!」瑛斗は驚きながら彼女の名前を叫んだ。咲莉那は振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。「秋穂、無事だった?」その声に秋穂は泣きながら頷いた。
妖怪たちは咲莉那の力を目の当たりにし、その場から退散していった。咲莉那は息をつきながら、「ここからは私が引き受ける。でも、瑛斗…秋穂のそばから離れないで」と静かに語った。彼女の決意と威厳が二人を包み込む中、瑛斗と秋穂は彼女を見つめるばかりだった。
いつの間にか咲莉那の隣には火龍の火楽おり咲莉那に「主様」と呼び掛けた。
「火楽、村人たちを守れ」
火楽にそう言い残し咲莉那は、妖怪たちの方を向いた。
妖怪たちの退散が終わらぬうち、空気が突然重く張り詰めた。瑛斗が振り返ると、咲莉那が静かに腰に掛けた黒色の横笛を手に取っていた。彼女の表情には冷静さと決意が宿り、笛を静かに構え、その音色が響き渡ると同時に、咲莉那の瞳は淡藤色から美しい紅の八塩に染まり、空気が熱を帯び始めた。音が重なるたびに、燃える鳥の姿が炎の中から現れ、その羽ばたきが空間を震わせる。燃える鳥の姿は美しくも威厳に満ちていて、その赤い光が妖怪たちを圧倒していく。
「これ以上は許さない。」咲莉那の冷たい声が響き渡り、燃える鳥が咲莉那の指示を受けて鋭く鳴いた。その音が波動となって広がり、妖怪たちを威嚇する。燃える鳥は翼を広げ、炎をまとった姿で力強く羽ばたき、妖怪たちに向かって炎を放った。
瑛斗と秋穂はその圧倒的な力に息を飲み、動きを止めるしかなかった。鳥は咲莉那の指示で翼を広げ、一瞬の輝きとともに炎を放ち、妖怪たちを焼き尽くした。燃え盛る炎の中、咲莉那は笛を下ろし静かに息をついた。
炎が消え去った後、鳥は再び姿を消し、静寂が訪れた。瑛斗は息を飲みながら咲莉那に、「咲莉那さん…あれは一体?」と問いかけた。咲莉那は静かに横笛をしまいながら「あれは私が火龍使いの力で鳥の式を私の炎華の音色で操ったの、すごいでしょ」
村人たちは咲莉那の姿を見つけると、一瞬静まり返った。しかし、その沈黙はすぐにざわめきへと変わった。
「なぜお前が生きているんだ!」一人の村人が声を荒げた。
「また俺たちを陥れようってのか!?」別の村人が咲莉那を指さしながら叫んだ。
咲莉那は村人たちの言葉を聞き、目を伏せた。その瞳には深い悲しみが宿り、「違う!私はそんなつもりはない」そう言った声はかすかに震えていた。
しかし、村人たちの不信感は簡単には消えなかった。「お前がいなければ、あの事件も起きなかったんだ!」と、さらに声を荒げる者もいた。瑛斗はその場に割って入り、「待ってください!咲莉那さんは僕たちを助けてくれたんですよ!」と必死に訴えた。
村人たちは瑛斗の言葉に一瞬戸惑ったような顔を見せたが、それでも不信感は完全には拭えなかった。「それでもお前が過去にやったことが消えるわけじゃない!」と、また別の村人が声を上げた。
咲莉那は村人たちの視線を受け止めるように一歩前に出た。その表情には悲しみが漂っていたが、瞳には揺るぎない決意が宿っていた。「みんなが私を責めても…私はみんなを守る。それだけは、忘れないでほしい。」その声は静かで穏やかだったが、しっかりと力強さを感じさせた。
村人たちはその言葉に一瞬言葉を失い、誰も咲莉那の背中に向けて何も言えなかった。咲莉那は静かにその場を去った。
その光景を見た瑛斗は拳を握りしめながら、「必ず、必ずこの誤解を解いてみせる」と心に誓った。
咲莉那の背中は夕陽に照らされ、その姿が村の広場から遠ざかっていく中、秋穂はそっと涙を拭って彼女を見送った。
村の広場に残された瑛斗は、咲莉那が去る後ろ姿をじっと見つめていた。しかし、その足はすぐに動き出した。秋穂が驚いて瑛斗に声をかけた。「瑛斗、どこへ行くの?」
振り返らず、瑛斗は決意に満ちた声で答えた。「彼女を一人にはできません。それに、誤解を解くには俺が動くしかないんです。」秋穂は瑛斗を見送りながら、「気をつけて…」と静かに言葉をつぶやいた。
瑛斗が咲莉那に追いついたのは、夕日が完全に沈む直前だった。
瑛斗は彼女の名前を呼んだ。「咲莉那さん!」
振り返る咲莉那の表情には驚きが浮かんだが、すぐに冷静さを取り戻した。「どうしてここに?村に戻って。」だが、瑛斗は首を横に振った。「俺が戻ったところで何も変わらない。それよりも、あなたと一緒に旅をすることで、俺にできることを見つけたいんです。」
咲莉那はその言葉を受け、ふっと微笑んだ。「でも…危険な旅になる。それでも良いの?」瑛斗は力強く頷いた。「覚悟はできています。」
その時、咲莉那の隣で静かに佇む火楽が口を開いた。「主様、この若者は信頼に値しますか?」咲莉那は一瞬だけ考え込み、そして火楽に向かって頷いた。「私はそう思うよ。」
こうして、咲莉那、火楽、そして瑛斗の三人の旅が始まった。夜空に浮かぶ月がその光で道を照らした。未来に待ち受ける運命はまだわからないが、それぞれの胸には新たな決意が刻まれていた。
だが一方で大きな影も動き出すのだった。
「やはり生きていたか、火龍使い・咲莉那よ」
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