敵
後日、隼夏の通う高校近くの喫茶店。
「で? なんで今日私はここに呼び出されたの?」
少々不機嫌な隼夏の前には、例の自称最強天使斉木とその弟子仲間がいた。
「いやなに、この間は話が途中になったからね。改めてと思ってね」
「途中になったって、そっちが言い渋ったんじゃない」
「それはね。まあ、完全には君を信用しきれていなかったからさ。でも、もう大丈夫だ。君は信用に値する」
「なんで信用できたの?」
「仲間くん。あれを」
「はい。先生」
仲間は数枚の写真をテーブルの上に並べた。隼夏はその写真を見て驚愕した。
「これ……全部私が写ってるじゃん! これは学校だし、これなんて家じゃない!」
「三堂さんのことはしっかり調査させて頂きました」
「これで君の疑いは晴れた訳さ。よかったね」
「警察行くか? お前ら」
隼夏の言葉に、斉木と仲間は顔を見合わせたが、斉木はやれやれとでも言わんばかりに顔に笑みを浮かべた。
「まあ、それはさて置き」
「置くなよ」
「この間の話の続きだ」
「マイペースかよ」
「僕が最後に言ったことを覚えているかい?」
隼夏は少し、先日のことを思い返した。
「あの天の声みたいなのを殺すってやつ?」
「そうだ。僕はやつを殺したい」
「あれは誰なの?」
「あれは天使長ミカエル。だそうだ。詳しくは僕も知らない」
「詳しくは知らない……?」
隼夏は首をかしげたくなった。
「詳しく知らないのに殺したいの?」
隼夏の問いかけに斉木は笑みを浮かべた。
「それには事情があるんだよ。非常にプライベートなことだからこれ以上は言えない」
斉木にも話せないことがあるらしいことに隼夏は少し驚いた。ただのおしゃべりだと思っていたが。
斉木の考えは分かった。しかし、そうなると疑問が浮かぶ。
「でも、天使は堕天使と戦うんでしょ? それなのに天使を殺すの?」
「ああ、確かにそうだ。真面目に堕天使と戦ってる馬鹿もいる。でも、僕たちは堕天使とは戦わない。まあ、避けられない時もあるだろうけど。僕たちは天使と戦い倒す」
「天使を倒すの? 私たちも天使なのに?」
「そうだ。今のところ、ミカエルを引っ張り出す手は思い付かないからね。むしろ、堕天使とはあまり戦っちゃいけないんだ」
それもまた分からない。
「本来戦う相手となんで戦っちゃいけないの?」
「それはねえ……」
斉木はそこまで言って、仲間と共におもむろに席を立った。
「この続きはまた今度にしよう」
「ええ?」
自分たちから呼び出しておいて何言っているんだ。さっきは話しそうだったのに。
「ちょっとどういうこと?」
隼夏は呼び止めようとしたが、斉木は軽く右手を上げただけで店を出ていった。
「訳分かんない。帰るか」
隼夏も少し遅れて店を出た。会計は斉木がすでに済ませていた。
「さっさと帰ろ」
隼夏は道中を急いだ。理由は特にないが、しいて言うなら何が気持ちに焦るものがあったからだろうか。
少し店から離れたところで謎の焦燥感は消えた。
「なんだろ? 今の。あれはまだ早いし」
少し気味が悪かったが、理由も分からないのでとりあえずは忘れることにした。
そこから少し歩いていくと地元の商店街に入る。
その入り口に制服を着た男が三人。
一人は隼夏と同じ学校の生徒だ。後の二人は、隣の高校の生徒だ。帰るかいかにも不良って感じの。あそこの学校は柄が悪いとよく聞く。
「オイ! てめえ、なめてんじゃあねえぞ!」
「やめて下さい。何もしてないでしょう?」
どうやらトラブルが起こっているらしい。無視すればいいのだが、なぜかできないのが、隼夏の性格だった。
「めんどくさ……!」
同刻。
「先生」
「ああ。君らかい? さっきの気配は」
斉木と仲間の二人は、近くの工場跡地に来ていた。そして、二人の後をつけてきたようすの男女二人。
「一応聞いておく。斉木誠だな?」
「そうだ。だったらどうした?」
「貴様を殺せと言われている」
それを聞いて、斉木は不敵に笑った。
「上等。殺ってみなよ」
続く