テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
25
1,556
681
12
朝、目が覚めると、海幕高校オーケストラ部の新コンサートマスター・羽鳥葉の頭頂部には、ふさふさとした茶色いケモミミが生え揃っていた。触ればピコピコとリアルに動く。中身がどこまでも真面目な羽鳥は、大真面目に「コンマスの威厳に関わる」と考え、帽子を深く被って登校し、部活後までなんとか隠し通そうと決意した。しかし、放課後の旧校舎の陰。帽子を深く被り直そうとする羽鳥の前に、真面目な顔をした青野と佐伯が立ち塞がった。
「羽鳥先輩。さっきのフレーズ、ダンスのステップと連動させるってどういう感覚ですか?」
佐伯が至近距離で質問を投げかける。
あー、いや、今はちょっと手が離せねえっていうか……」
「あ、先輩の帽子、後ろのサイズ調整のベルトが外れかけてますよ。直します」
「え、待て、青野、後ろは触るな――」
羽鳥が止めるよりも早く、天然な青野の指先が帽子の後頭部に触れた。
その瞬間、指先が偶然、中で折りたたまれていた耳の付け根にツン、と鋭く触れてしまう。
「(口元を両手で抑えて)……っ、ひっ……!!」
予期せぬ神経への強い刺激に、羽鳥は短い息を呑むような悲鳴を漏らし、顔を真っ白にした。それと同時に、帽子が内側から生き物のようにピクピクッ、ピコッ!と激しく波打つ。自分の意志とは関係なく耳が跳ねてしまった感覚に、羽鳥は屈辱と焦燥でその場にガクンと膝をついた。
「す、すみません! でも今、先輩の頭、なんかピクピクって……動いて……?」
「……羽鳥先輩。もしかして帽子の中に、何か動く生き物でも隠してますか?」
心配のあまり同時に手を伸ばした2人と、それを防ごうとした羽鳥の手が交差する。その拍子に、青野の指先が再び耳の付け根を掠め、背筋を電撃が走ったような衝撃に、羽鳥の全身の力が一瞬で抜けた。――ぽろり、と。抵抗を失った帽子が頭から滑り落ち、床に静かに転がった。
「「「あ」」」
夕暮れの光に照らされた羽鳥の頭頂部には、ハネた髪の隙間から、茶色いふさふさとした耳が綺麗に2つ露出していた。刺激された余韻で、その耳はまだピコピコと小刻みに波打っている。
「朝起きたら勝手に生えてたんだよ! 別にふざけてコスプレしてるわけじゃねえ!」
顔を真っ赤にして大真面目に言い訳を始める羽鳥。しかし、見ればその耳はペタンと後ろに寝っ転がって、恥ずかしそうにシュンとしている。
「なるほど、感情と連動しているんですね。先輩、本当は僕たちにバレて、ちょっとホッとしていませんか?」
佐伯がニヤニヤしながら核心を突く。
「ハァ!? なんで俺がホッとするんだよ! お前ら今すぐ記憶消せ!」口元を歪ませ、ぶっきらぼうに「ツン」と突き放す羽鳥。しかしその瞬間、頭の上の耳は――パタパタパタッ!と、嬉しそうに激しく左右に振られていた。一人で抱え込んでいた秘密を共有できて、内心はめちゃくちゃ安心していたのだ。
「あはは、先輩、口では怒ってますけど、耳はすっごく嬉しそうですよ」
青野は無自覚に引き寄せられるように手を伸ばし、羽鳥の両耳を優しく包み込むようにしてガシッ、すりすりと撫で始めた。左右の耳を同時に揉まれ、羽鳥の喉からこれまでにない引き攣った高い悲鳴が飛び出した。
「ば、バカ、おま……っ! ひっ、ん…同時に触るな……ッ、頭がバカになる……っ、やめ、すりすりすんなよ!!」
「わあ! 両手で揉むとパタパタ動いて、本当に可愛い……!」
『みんなで集まってどうしたの? もうすぐ部活の時間だよ。」
原田先輩だ。
原田先輩はふわりと優しい笑みを浮かべて羽鳥の前にしゃがみ込むと、バイオリニストとしての綺麗な指先で、羽鳥のケモミミの付け根をすぅ……っと優しくよしよしと撫で回し始めた。
「へぇー、本物の耳なんだね。引っ張っても痛そうだし……うん、ふかふかでとっても気持ちいい。でも羽鳥、これヴァイオリンを構えるときに邪魔になったりしないかな?」
「原田先輩……っ! ひっ、笑いながら撫で回すの……っ、反則、ですから……っ! 脳みそ、溶ける……っ!!」
コツ、コツ、コツ……。静かな旧校舎に、やけに重々しく、聞き覚えのある革靴の足音が響き渡った。ドアの前に立っていたのは、海幕高校オーケストラ部顧問・鮎川先生だった。腕を組み、眼鏡の奥の鋭い眼光で、床に崩れ落ちて頭から茶色い耳を生やしている羽鳥をじっと見下ろす。その圧倒的な威圧感に、羽鳥は
「今度こそ大目玉を食らう……」
と完全に硬直した。鮎川先生はゆっくりと羽鳥の前に歩み寄ると、大真面目な顔のまま、その大きな手で羽鳥のケモミミをわしっ、よしよし……と静かに、しかし力強く撫で回した。
『ほう……これは可愛いな。』
「先生まで?!いい加減やめください!!!』
コメント
1件
うわ、めっちゃ面白かった……!(笑) 朝起きたらケモミミ生えてるって設定、もうそれだけでツボなんだけど、真面目なコンマスが必死に隠そうとするほど、周りにバレまくって撫でられまくるの、尊すぎる……。口では「やめろ」って怒ってるのに、耳がパタパタ嬉しそうに動くギャップがたまらんかった。最後の先生まで「可愛い」って撫で回すの、吹いた🤣 続き気になる〜!