青井がもう寝よう、おやすみと声をかけたがつぼ浦はずっと青井に抱きつきほぼ一睡もできないまま青井が起きるのを待った。
「…ん、ふぁ〜ぁ…」
「アオセン起きた!?おはよ!」
「おはよ、朝から元気だな。」
痛くなる程ギュッと力強く抱き締めてくるつぼ浦の頭を撫でる。調子を聞こうとしたが逆に思い出させてしまうかも、と口をつぐんだ。
「…はぁー、アオセン…」
「なに、どうした?」
「んーん、なんでもない。好き。」
「俺も好きだよ。なんかしたい事とかしてほしい事とかある?」
「してほしい事?んー……ギュッて、いっぱいしてほしい…」
「そりゃもういくらでも。」
少しでもあの事を忘れてほしい、記憶から消し去りたいと思いながら抱き締める。嫌な感情を塗り替えようとめいいっぱい甘やかす事にした。
「今日はワガママなんでも言って。なんでも叶えたい。」
「ワガママ?そんなん急に言われても思いつかないすよ。」
「じゃあまずは、ご飯何食べる?」
「ご飯…食べたくない。」
「えっなんで?お腹空いてない?食欲無い?」
「…分からん、けど…」
「体調悪い?熱は…ちょっとあるか?体温計どこだったっけ、探してくる。」
「やだ、いかないで…」
「ちょっとだけ待ってて。大丈夫だよ、戻ってくる。」
「…わかった…」
そうは言ったがすぐに追いかけてリビングに入ると俯きながら青井に抱きついた。
「あれ、もう起きる?身体しんどかったりしない?」
「全然平気、元気す。」
「元気…うーん…まぁとりあえず熱測るか、座って。」
「別に大丈夫なのに……ほら、騒ぐ程じゃないすよ。」
「見せて…微熱か。頭痛いとか喉痛いとか、そういうのは?」
「なんもない。」
「まぁこれから悪化するかもしれないし、安静にしないとな。何なら食べれそう?」
「いらない、食べたくない。」
「ちょっとでも何か食べて、お願い。残ったら俺が食べるから。」
「…FBナゲットなら。」
「分かった、用意してくるから待ってて。」
自分の分も一緒に温めながらつぼ浦の症状について色々調べてみたがあまり有益な情報は得られなかった。
「お待たせ、できたよ。なんでそんなとこに…つぼ浦!?」
ソファの影に座り込んで自身の肩を抱きながら小さく震えている。
「つぼ浦、大丈夫だよ。」
「…あお、せん……こわい…いやだ…」
「ごめんね、俺が代わってやれたら良いのに。」
青ざめながら震えているつぼ浦を見て想像以上に心の傷が深い事を思い知らさせた。犯人をどうにかしてやりたい、そんな感情が過ぎるが取っ払って抱き締める。
「ソファ座ろう。よいしょ、っと。」
「…こわい…」
「大丈夫だよ、頼りないかもしれないけど俺がいるから。これからは絶対守るから。」
「…あおせん…ごめん…」
「謝らないの。つぼ浦が悪い所なんにも無いって言ったでしょ。辛くなったらすぐ言って、1人で抱え込まないで。」
「うん、分かった…」
「ありがと、お願いね。……落ち着いた?ご飯食べる?」
「ん、もうちょっと…」
いつもなら可愛く甘えてくる嬉しい場面だが、今は傷付いた心を少しでも癒す為に縋りついてくる様子に青井も心を痛める。
「…もう平気。アオセンお腹空いてるしょ、食べようぜ。」
「本当に平気?無理してない?」
「してないす、これ冷めちゃったかな…」
「いや元々温めすぎちゃってアツアツだったから今は丁度良くなってるんじゃないかな。いただきます。」
「…んー、やっぱいらないや。」
「1個も?スープは?」
「あーじゃあちょっと飲むか。」
「これは?1口食べる?」
「いや、いらない。」
ほぼ何も食べずに青井が食事を終えるのを待ちごちそうさま、と言った瞬間無言で抱きついた。起きた時からずっと暗い顔のままだった。
「何かする?気分転換になるかも。」
「ううん、ずっとこれが良い。」
「じゃあ膝乗るか?」
膝に乗せて抱き締め、背中を擦りながら話しているとつぼ浦の身体がだんだん暖かくなり力が抜け、瞼が閉じていく。起こさないようにそっとソファに寝かせた。
「…ごめんね。完全にトラウマ植え付けられちゃってるよな、これ俺どうすれば…誰かに相談…いやつぼ浦が嫌がるかも。なんでこんな肝心な時に何にもできないんだよ…」
自分の無力さを憎みイラついてしまうがそんな場合では無いと冷静さを取り戻す。とにかく今はずっと傍にいなきゃと寝ているつぼ浦の手を握った。
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