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「っていうか、樹、子供の頃からやっぱりそんな感じだったんだね」
「あの家族だからさ。子供ながらに当時からいろいろ気にしてたんだろうね」
「そっか」
「だからオレにとっては、きっと透子のその明るさが眩しかったのかも。今思えばあの店で家族みんなでアットホームに楽しんでた姿も小さいながら羨ましかったのかもね。オレん家には昔からそういうのなかった光景だったからさ」
「うちはどんな時もみんな仲良かったからね」
「オレん家は家族一緒に過ごす時間自体、ホント数えるくらいしかなかったから」
きっとオレにとっては、透子が透子の家族が、あの店が、すべてが眩しかった。
いつも家族みんな一緒で仲良くて。
オレはきっとその頃から透子に憧れていたんだ。
「だからさ、なんとなくまたあの店に行くことが楽しみになってたんだよね」
「そうなんだ。それは嬉しいかも」
「だけどさ、いつからか透子あんまりお店来なくなってさ」
「あっ、高校生だったから勉強だったりいろいろ忙しくなってきたからかも。お店が落ち着き始めたら、なかなか手伝いに行けなくなってたから」
「うん。だからさ、正直それオレ子供ながらにガッカリしてたんだよね。今日はあのお姉さんに会えないんだって」
「そこまで?」
今思えばあんなガキが高校生のお姉さん気にかけてるとかマセガキだよな。
なのに自分から声かけていくようなガキ特有の素直さも持っていなかった。
だから、ただ恋しがって、寂しがるだけ。
「そう。母親以外の女性に懐くとかそもそもなかったし、心開くとかそういう気持ちになったのって、その時だけなんだよね」
「そんな昔から?」
「だからオレにとってはきっとその頃から特別だったんだよね、透子っていう存在が。なぜかまた会いたくなって、あの笑顔にまた微笑んでほしかった」
「そんな頃から自分が存在してたなんて変な感じ。でも、嬉しい」
そう。オレの中では、もうそんなずっと昔から透子はオレの中で存在し続けてたんだ。
優しくオレだけに微笑んでくれるあの笑顔がずっと忘れられなくて。
微笑んでもらう度、胸の奥がキュッとして温かくなって。
ガキのオレはそれがどんな感情かなんて気付くはずもなかったけど。
でも、修さんの店で初めて透子と言葉を交わした時。
オレを見つめて、笑いかけてくれた時に、実はその感情をまた感じてて。
そんな感情感じたことなかったはずなのに、だけど、なぜかそれがどこか懐かしく感じたのは、そういうことだった。
ずっと誰かを好きになんてなれないと思っていた。
そんな相手現れないと思っていた。
本気になるほど惹かれる感情だなんて、オレには縁のないことだと思っていた。
だけど、それは透子をすでにガキの頃に好きになっていて、それがその感情だなんてわからなかっただけ。
同じように感じる相手が現れなかっただけ。
だけど確かに透子の前ではあんなに胸が高鳴ってドキドキして。
そんな気持ちになるのは、生涯ただ透子一人だったというだけ。
きっとそれがオレにとっての運命で、透子との運命なのだと思う。
「オレさ~やっぱあんなドキドキしたのも透子だけなんだよね」
「ん? いつの話?」
「ガキの時に目の前で笑ってくれた時も、大人になってまた透子に出会ってからも。透子だけにはさ、このオレの心臓がさ反応するんだよね。すげードキドキしてパニクったり、すげー胸が苦しくなったり」
「樹でもそんなこと感じるんだ・・・。ホントに私だけ・・・?」
「そう。透子だけ。ガキの時に感じたその気持ちなんてさ、当時はそんなのもよくわかんなったし、会えなくなったらいつの間にか忘れてた。そしたら、それからそんな気持ちも感じなくなってさ。そんな気持ちになれる自分がいるってことも、もう忘れてて。ちゃんと透子にはそんな気持ちになれてたのに。ちゃんと誰かを好きだと感じる気持ち持ってたのに」
「今も・・・?」
「もちろん。今でもすげードキドキしてるから。透子前にして余裕な時、オレ本当は一回もないよ」
「そんな素振り全然見せないくせに」
「そりゃそうでしょ。そんなのカッコ悪いし。透子の前では常にカッコいいオレでいたいに決まってんじゃん」
「いつでも樹は余裕で私だけ振り回されてるのに」
えっ、何透子そんな可愛いこと言って。
透子の方こそ、そんなことサラッと言ってオレをもっとドキドキさせてるくせに。
だけど、拗ねるようにそんな風にオレをそれほど好きだと伝えてくれてるようで。
オレはそんな透子を見せられるだけで全然余裕もなくなるし、もっともっと好きになるのに。
「頑張ってそうしてるだけだよ。オレの方が透子に振り回されまくってる」
だけど透子をオレばっか求めるだけじゃ不公平でしょ?
透子にもオレと同じようにもっともっとオレを求めてほしい。
「えっ!? どこが!?」
「透子のその全部」
「全部って・・・。私何もしてないし」
そんな風にわかってないとこも全部可愛くて愛しい。
オレの気持ち全然わかってないことが、たまにもどかしくもなるけど。
だけど、どんどんそうやって透子のことを知っていくのが嬉しいから。
「もう透子の存在だけでさ、オレはまともでいられないんだよね。自分が自分じゃなくなるくらい透子のことなら必死だし、透子の為ならなんだって出来るんだよね。もうオレの全部で透子好きで仕方ない」
「樹・・・」
もうどんな言葉並べたらこのオレの想いが全部伝わるのかもわからない。
だけど、多分それは不可能で。
一緒にいればいるほど、毎秒毎分、オレはその時の透子をどんどんもっと好きになっていくんだから。
だからオレなりに透子にこの想いを伝えていくから。
どれだけオレにとって透子は安心出来る心落ち着ける存在で、信頼出来る存在なのか。
どれだけオレにとって大切で愛しくてかけがえのない存在なのか。
透子にだけは、すべてのオレを知ってほしい。
ホントはカッコイイ自分を見せたいけど、だけどカッコ悪い自分を見せても、透子はきっとそんなオレでも受け入れて支えてくれるだろうから。
ドキドキも安心もすべて感じさせてくれるのは、透子だけだから。
「だからさ、きっと、最初の初恋だった透子がさ、オレの中で多分どうやったってもう絶対的で、忘れられなくて。うん・・・。そうかも。だからオレあんなんだったのかも」
「あんなって?」
「透子への感情とさ、多分その後出会った誰とも違ったんだよ。同じようなドキドキや恋しさを感じられなかった」
「それで他の女性も好きになれなかったってこと・・・?」
「きっとね。やっぱさ、最初のそういう感情ってさ、潜在的にもさ、ずっと残ってるんだよね。それが恋だと自覚していなかったとしてもさ。自分の中できっと何か特別なモノを感じていたような気がする。だから、きっと同じ感情にならない相手には心が動かされなかった。ずっとそれに気づかなかったけど、でもきっとどこかでそれを探してたのかも」
透子に出会ったからその違いにも気付けた。
「それで私に出会って、その感情は一致したの・・・?」
「まぁ最初はさすがにすぐには気付けなかったけど。なんとなく見かけてた時も結構あったし」
「あぁ・・・美咲の店で?」
「そう。でもさ、その時も透子に別の相手がいるのわかってんのに、なんか気になる存在だったんだよね。ふと目に入るというか、見ちゃってるというか」
「そうなの・・・? そんな時から・・・?」
「うん。オレ女性といい加減に付き合ってはいたけど、誰か相手がすでにいたりしたらさ、特に奪おうとかも思わなかったから。そもそもそんな状態で手出して面倒くさくなるの目に見えてるし、そこまでして執着して奪いたくなるほどの女性はいなかったし」
「樹からアプローチしたりしなかったの・・・?」
「全然。向こうから近付いてくるから相手にしてたってだけ」
「来るもの拒まず的な?」
「そうそう。今思ったらオレ最低な男だね」
「そこは否定はしない(笑)」
その当時は女性と仲良くするのは楽しかったけど、必要以上に深入りもしたくなかったし、面倒な状況も避けたかった。
だから自分からは絶対行くことはなかったし、求めもしなかった。
だけど、なぜ今まで誰にも何も感じなかったオレが、透子だけは気になって惹かれたのか。
透子に出会ったすぐは、オレも透子への感情がどういう感情なのかはまだよくわからなかった。
「だからさ、他の相手がいるのになぜか透子だけは気になるのが不思議だった。その後、新人研修で透子が言った言葉とかもすんなり自分の中に入って来たり。そっか、それは透子だからだったのかも」
「何回かそうやって出会ってたのにね。ずっと昔から。だけどここまで辿り着くまで案外長かったね」
「ホント。オレ透子に出会う度、他の人と違うってこんなにも自分でサイン出してたのにさ。オレもようやくここで全部繋がって納得した」
何度も何度もその度、オレは透子じゃなきゃダメだと自分で伝えていたのに。
何度離れたとしても、やっぱりオレたちは、どうやったって惹かれ合う二人なんだから。