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#恋愛
水無月 京
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振り返れば、そこには紫水と梓が立っていた。
梓はいつも通りオフィスカジュアルだけど、紫水はパーカーにジーンズという超ラフな格好で。おそらく在宅だったのだろうけど、着替えてくるという選択肢は無かったのか。それともファッションで抗議の意を表明しているのだろうか。
「それについては申し開きのしようもございません」
そう。豆さんに聞かれて思い浮かんだのはこの2人しかいなかった。スキル面でも、この無茶振りを受け入れてくれそうなのも。
「まあまあ」
しかたないでしょ、と梓が紫水のパーカーのフードを引っ張って私から紫水を引き剥がす。
「まどかだって仕事なんだもん、仕方ないでしょ」
「そんなん他の誰か暇そうなやつ紹介しとけよ」
「今この会社でそんな人いる?」
どのプロジェクトだって人材争奪合戦じゃない、と小さくため息をつく梓は、きっとこういったイベントには慣れっこなのだろう。
「ま、嫌なら断ればいいだけよ」
あっさりと紫水の恨み言を交わして豆さんの個室の方へ歩き出す。
紫水も仕方なさそうについていきながら、最後にくるりとこちらを振り返る。
「弓家、万が一アサイン決まったら今度奢れな」
「仰せのままに。焼肉とかいかがでしょう」
「あ、俺渋谷の隠れ家的な店行きたい」
「チェーン店の食べ放題でお願いします」
ふざっけんな。
眉間に皺を刻んで吠える男は、「いいからさっさと行って終わらせるわよ」という梓のアシストにで連れ去られていった。
あの2人は本当に息がぴったりで。
紫水を手懐けられるのは梓しかいないだろうなあ、と2人が入っていったまめさんの個室の方を見る。
2人はちょうど私に背を向けているから表情は見えないけれど、ダラけた座り方からして紫水が不貞腐れているのは明白だ。
できれば、あの2人に面倒ごとが舞い降りてきませんように。
あの2人の名前を出したことを棚に上げて、私は2人の無事を祈った。
**
バタン。
私の祈りが通じたのか通じなかったのか。
2人はものの15分ぐらいで部屋を出てきた。あれ、確か打ち合わせ枠は一応30分用意していたと思ったけどな?
個室で再びパソコン画面を眺める豆さんの表情に特別な感情は乗っていなさそうで、話がどう決着したのか読めない。
「弓家」
いつも通りダウナーな紫水の声が聞こえてそちらを向くと、2人がそこにいて。
「お、お疲れ?」
「奢れ」
「え、ええ?あ、アサインされちゃう感じ?」
「そう、紫水が引き受けてくれたよ」
梓があっさりと答えをくれる。
「別にお前の代わりに引き受けたわけじゃねーわ。あの案件、優秀なソルジャーじゃないと務まんなくて詰むってだけだわ」
「私だって一応ソルジャー世代の育成を受けてる残党ですけど?」
「お前の今のプロジェクトの仕事量冷静に考えろよ、死ぬぞ」
「こっちだってその言葉、そのままそっくりお返ししますけどね」
この2人は相変わらず口喧嘩してるけど、よくよく聞けばどう考えてもお互いを慮ってる状況でしかない。何、惚気?
「…2人とも付き合ってるよねもはや」
思わず心の声が漏れてしまって、あ、と気づいた時には2人から睨まれていた。
「やめてよこんな変人」
「こっちだってこんな口うるさい女願い下げだわ」
どうしてこの話題になると2人とも結託するのかしら。
「弓家、絶対焼肉奢れよ」
今の発言で、数日以内にお前に奢らせることが確定した、と紫水がジトりとこちらを睨んでくる。おっかないな、この男。
「さーて次の会議あるし戻らないと」
「俺もちょっとタスク整理するかなー」
近いうちに私がお詫びの会を開くことを決めて、その場を解散する。紫水には悪いことしちゃったけど、紫水ならなんとかなりそうだなと若干の安堵感もある。多少こきつかったって倒れなさそうだし。
「弓家さん」
椅子にかければ、今度は豆さんの声が聞こえてくる。
声の出所を探れば、個室からふらりと豆さんが出てきたところだった。
「ちょっとコンビニ行くんだけど、なんかいる?」
「え!?」
数ヶ月一緒に働いてきて、そんな申し出を受けたのは初めてで驚く。
「あ、ちょうどコーヒーを買おうと思ってて…」
「じゃあ買ってこようか」
「いえ、それは申し訳ないんで私も行きます」
俺が言い出したのに申し訳ないとかないでしょ、と苦笑する豆さんをよそに、慌ててバッグから財布を探しだして立ち上がる。
私がお買い物頼んだら、一緒に歩くチャンスが減っちゃうじゃないですか。
そんなことは、もちろん胸の中に留めておく。