テラーノベル
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夜だった。
シェアハウスは、静かだった。
時計の音だけが、
やけに大きく聞こえる。
こさめは、眠れなかった。
ベッドの上で、
目を開けたまま、
天井を見ていた。
「……」
らんの言葉が、
頭から離れない。
――弱いやつがいる場所じゃない
胸が、
少しずつ、
痛くなる。
ここにいていいのか、
わからなくなる。
コンコン
小さな音。
「……っ」
体がびくっとする。
「……こさめ」
なつの声だった。
「起きてる?」
「……」
少し迷って、
「……うん」
と答えた。
ドアが開く。
なつは、
いつもの無表情で入ってきた。
「……寝れない?」
「……」
こさめは、
頷いた。
なつは、
少しだけため息をついて、
壁にもたれた。
「……らんのこと、気にしてる?」
「……うん」
正直に答えてしまった。
隠せなかった。
なつは、
少しだけ、
遠くを見る目をした。
「……あいつさ」
静かに言う。
「昔は、あんなじゃなかった」
「……え」
こさめは、
顔を上げた。
「笑うやつだった」
「……」
「うるさいくらい」
「……」
「誰よりも、人に近かった」
その言葉は、
今のらんからは、
想像できなかった。
「でも」
なつの声が、
少し低くなる。
「壊れた」
「……」
「中1のとき」
「……」
「家で」
少しだけ、
間が空く。
「……毎日、殴られてた」
「……っ」
息が止まる。
「理由なんてなかった」
「……」
「ただ、そこにいたから」
「……」
「ただ、生きてたから」
こさめの指が、
震える。
それは、
自分と、
同じだった。
「ある日」
なつは続ける。
「学校に来なくなった」
「……」
「俺が見つけたとき」
拳を握る。
「……笑わなくなってた」
「……」
「何も感じてなかった」
静寂。
「だから」
なつは言った。
「ここを作った」
「……」
「行く場所がないやつのために」
「……」
「壊れたやつが」
少しだけ、
目を伏せる。
「完全に消えないための場所」
こさめの目に、
涙が溜まる。
「でも」
なつは続けた。
「ここは、治す場所じゃない」
「……」
「治すのは、自分だから」
「……」
「俺たちは」
少しだけ、
優しい声で、
「隣にいるだけ」
それだけ。
それだけなのに、
どうして、
こんなに、
救われる気がするんだろう。
「……こさめ」
「……」
「らんは、お前が嫌いなんじゃない」
「……え」
「怖いんだよ」
「……」
「昔の自分、見てるみたいで」
その言葉で、
すべてが、
繋がった。
冷たい理由。
拒絶する理由。
目を逸らす理由。
「……」
こさめの胸が、
痛くなる。
でも、
それは、
前とは違う痛みだった。
「……寝ろ」
なつは言った。
「明日も、いるなら」
「……」
「ちゃんと、起きろ」
そう言って、
部屋を出ていく。
一人になる。
でも、
さっきまでの「一人」とは、
違った。
ここは、
優しくない。
でも、
本当のことを、
教えてくれる場所だった。
同じ頃――
廊下の角。
そこに、
らんがいた。
壁にもたれて、
目を閉じていた。
さっきの会話を、
全部、
聞いていた。
「……」
拳を、
強く握る。
震えていた。
「……似てるんだよ」
誰にも聞こえない声。
「……あの頃の俺に」
目を開ける。
その目は、
少しだけ、
苦しそうだった。
コメント
9件
かっっかかかかっかっかかか感動(T_T)