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「えっ、嘘っ」
無情にも画面はすぐに真っ暗になった。
動かないスマホを見つめていても、途方もない気持ちが押し寄せるだけで、状況は変わらない。
私はため息をついて、後ろを振り返った。
鼻緒ですれた指の間がひりひりして、足自体もじんじんする。
痛さに無意識に下を見た時、ドンと大きな音が響いた。
(あぁ、始まっちゃった……)
歓声につられて花火を見上げたものの、気はそぞろだ。
もう一度あたりを見渡しても、やっぱり拓海くんもレイの姿も見えない。
しばらくふたりの姿を目で探していた私は、やがて諦め、掴んだままのベビーカステラをひとつ口に入れた。
久しぶりに食べたいなと思ったけど、こんなはずじゃなかったからか、ひどく味気ない。
それでもひとつ、ふたつと口に放り込むのは、寂しさを紛らわしたかったからだ。
最後のひとつを食べ終えた時、一際大きな花火があがる。
「わぁ、きれー……」
思わず呟いたけど、同時にさっきよりもっと寂しくなった。
こんなに人の多い場所にいるのに、寂しさで苦しいなんて情けない。
ひとりきりの心細さを噛みしめていると、突然肩を引かれた。
驚いて振り返れば、少し怒った顔のレイがいる。
『どうしてひとりで先に行くの』
レイと目を合わせた瞬間、私の後ろでまたひとつ花火が上がった。
『ど、どうして……。
どうして私の居場所がわかったの』
拓海くんには土手の上にいるとだけ言えたけど、言えなかったレイとはもう会えないと思っていた。
質問を質問で返した私に、彼は少し眉をあげた。
『ミオが先に行くのが見えた。
なにも言わず、勝手にね』
『だ、だって!
レイの傍に、私のクラスメイトがいたんだもん……!』
言い訳する私のうしろで、花火が何発も同時にあがった。
あまりにも音が大きく、これ以上はお互いの声が聞こえない。
どちらともなく言葉を切った私たちは、光に促されて空を見上げた。
この状況は……かなり気まずい。
だけど見つけてくれたことにはほっとしたし、感謝もしていた。
悪いのは私だってわかってる。
軽いパニックで自分のことばっかりだったけど、あんな場所で置き去りにされたら、だれだって怒って当然だ。
少し冷静になった私は、拓海くんが気になった。
次の花火との間に入ると、会場の空気が緩み、みんなが顔を見合わせる。
レイになにか言わなきゃと思った時、彼が先に尋ねた。
『それで、タクミは?』
『あ、それが……。
電話したんだけど、途中で私のスマホの充電が切れて……。
土手の上にいることしか伝えられなかったの』
言った途端、レイが短いため息をつく。
『……探してるだろうな』
(だよね……)
私はうなだれた。
拓海くんを思うと、申し訳なさで泣きそうになる。
それからまた花火があがり、私たちは視線をあげた。
花火どころじゃなくなり、私は上を見上げたまま小さく鼻をすする。
音が途切れた隙間、レイの声が聞こえた。
『たぶん、タクミはひとりじゃないと思う』
『……え?』
『ミオが追おうとした時、ちょうどタクミが見えたんだ。
さっきの友達と一緒に、きょろきょろしながら歩いてた』
『本当?』
それが本当なら、この気持ちもほんの少しだけ楽になる。
『まぁ、たぶんだけどね。
かといって、なにも言わずに勝手にいなくなっていいわけじゃない』
『ごめん……』
返す言葉がない。レイの言う通りだ。
口にした謝罪は、上がった花火の音が掻き消した。
やがてレイは小さな息を漏らして、視線を空へ戻す。
『もういいよ』
そう言っても、彼の横顔は険しいままだ。
どうすべきかわからないままレイを見つめていると、彼は花火を見上げたまま言う。
『たいていの人は、心配すると怒る。
少なくとも俺はそうだから。覚えといて』