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まわりから大きな歓声があがった。
慌てて空を見上げれば、光の粒が落下するところで、そのすべて消えても、上を見たまま動けない。
彼が怒っていた理由を知ったせいで、どんな顔でレイと目を合わせていいかわからなかった。
レイはどこか遠くを見ていて、なにを考えているのか掴めない。
だけどやっぱり、私は言わないといけないことがある。
『……ごめんね。
あと……探してくれてありがとう』
彼の意識をこちらに向けたくて、ためらいがちに腕に触れた。
うつむきながら言ったから、ちゃんと聞こえたかはわからない。
だけどすぐレイのため息が降ってきたから、たぶん聞こえたんだろう。
『さっき……私のクラスメイトとなにを話してたの?』
言いながら、三木さんと峰岸さんの顔を思い浮かべる。
ふたりがはしゃいでいたのは、遠目にもわかった。
『言われたのは、ひとりで来てるかとか、一緒に見ないかとか、そういうの』
(あぁ、なるほど……)
こんなところで偶然レイに会ったなら、言いたくもなる台詞だろう。
『それで、なんて答えたの?』
視界の端で、大きな白い花火が打ちあがる。
そこに黄色や赤、青が混じって、あたり一面が明るくなった。
『ひとりじゃなくて、今日は女神と一緒だって言った』
『……はっ?』
『まぁ、あの子たちはなんのことかわからないって顔してたけど』
『……そりゃそうじゃん! もう、なにを……!』
女神って、まさか私……じゃないよね。
いや、まさかそんなことあるはずないけど、なんでそんなこと言っちゃうの……!
その時のことを思い出したのか、レイは空を見上げたまま小さく笑っている。
それから勝手に真っ赤になった私を見て、手を伸ばした。
『ミロ』
『……もう!
だから、私はミロじゃないって……』
言ってすぐ、私は息をのんだ。
レイの手が私の頬に触れた時、彼の後ろで最後の光の花が咲く。
『女神とまではいかないけど。
今日の恰好、よく似合ってるよ』
辺り一面を照らした光が、数秒の時を止めて消える。
その短い間に、私を映す蒼い目が脳裏に焼き付いてしまった。
大きな歓声があがり、時間に取り残されたような私たちを置いて、まわりが動き出す。
『……も、もう!
レイのせいで、最後の花火見逃しちゃったじゃない!』
『俺のせい? ミオのせいじゃない?』
『違うよ、絶対私のせいじゃないもん』
まくしたてるように言い、私はすぐに顔を背けた。
だけど私がドキドキしてるなんてこと、きっとレイには見透かされている。
『行こうか』
笑みを含んだ声で言われ、私は目を逸らしたまま小さく頷いた。
人波に身を任せながら、私は三木さんと峰岸さんが、レイが言った言葉の意味に一生気付かなければいいと思った。
それから拓海くんを探しながら夜店を歩いた。
けれど結局見つけられないまま会場を抜け、後ろ髪をひかれつつも家路につく。
もしかしたら、拓海くんが先に帰ってるかもしれないからだ。
歩行者天国になっている大通りは、駅を目指す人で溢れていた。
数時間前に待ち合わせしたコンビニを通り過ぎ、さらに歩いているうちに、すれた鼻緒の部分がひどく傷んだ。
見れば、指の間の皮がめくれている。
『……ごめん、レイ。ちょっと待って』
道端で立ち止まり、巾着からばんそうこうを取り出した。
『足が痛くって……ちょっとだけ待ってて』
去年も痛くなったから用意していたけど、皮がむけたのは今年が初めてだ。
下駄を脱ぎ、ばんそうこうを貼って立ち上がる。
『よし、行こうか』
そう言って歩き出したものの、やっぱり痛みは気休め程度にましになっただけだ。
今日のレイは普段よりゆっくりだけど、頑張ってもその後ろにつくのがやっとだ。
住宅街に差し掛かり、喧騒がだんだん遠くなる。
ここから家まで10分ほどだろうか。
痛みを堪えて歩き続けていると、ふいにレイが立ち止まった。
それから無言で腕を差し出され、驚いた私の足も止まる。
『痛くて歩きづらいんだろ?』
言われて彼の意図を理解したけど、私は慌てて首を横に振った。
『い、いいよ! 大丈夫だから』
『大丈夫だと思ってるなら、腕なんて貸そうとしないよ』
『大丈夫! 本当に大丈夫だから……』
ここで彼に寄りかかれば、踏みとどまっているなにかが彼へ傾きそうだった。
『腕をとるのが嫌なら、俺の靴をはいて歩く?
それとも家まで俺に担がれるか、どっちがいい?』