テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件
やっぱり大好き 文章がいつも通り神ってるね😊😊
他に上げるところが無かっただけでSSです
⚠軍パロ、微血要素
室内は妙に静かだった。
重たい扉の向こう側には、何人もの兵士が並んでいる筈だが、ここまで届く音は一つとしてない。
分厚い絨毯が足音を殺し、壁に掛けられた古い絵画が、まるでこの場の空気を見張るかのように沈黙している。
長い楕円形の卓。
その周囲を囲む各国の代表たち。
誰もが表情を整えながら、しかし視線だけは互いを探り合っていた。
この会談が失敗すればどうなるのか、皆自ずと気付いて居るようだ。
矢張りというか、なんと言うべきか
最初に沈黙を破ることになったのは私だった。
「……残念ながら」
低く、よく通る声が室内に響き渡る。
「貴殿と私の意見は、どうやら上手く噛み合わないようだ。」
この部屋の空気とは違い、案外穏やかな声色で語られるその言葉は、まるで単に意見の相違を残念がっているように聞こえた。
対面に座る代表が、思わず顔を顰める。
「それは、貴国があまりに強引な条件を押し付けてくるからでしょう」
軽い嘲りを含んだ声。
数人の代表が息を詰める。
空気が、ほんのわずかに軋んだ。
暫くの間、狼狽えながらも懸命に私を見詰める汚い豚をにこりと笑みを浮かべながら見詰め返す。
やがて、小さく息を吐き
「……そうか。」
と一言。
そして続ける。
「交渉決裂で構わない。」
その言葉が落ちた瞬間、斜め後ろに立っていたオスマンが何も言わずに手を動かした。
黒いハンドガンが、静かに差し出される。
あまりにも自然な動作だった。
まるで、ここでそうなることを最初から知っていたかのように。
一人の代表が眉をひそめる。
「……何のつもりです?」
誰かが小さく椅子を軋ませた。
それは、ある冬の日。
外は一面雪に覆われていて、空が今にも降ってきそうな、そんな、一日。
顔を歪ませながら、何度も制止の言葉を続ける醜い政治家。
私は何も答えずに、親指で安全装置を外した。
カチリ
小さな金属音が、その場を制す。
遂には神に祈り始めた其の哀れな人類に、思わず頬が上がる。
「頼む、辞めてくれ!! そうだ、金ならいくらでもやる、人は? 女、女はどうだ…!!」
哀れにも命乞いを続ける様が不愉快で、思わず別れの言葉も告げずに引き金を引く。
__パンッ。
乾いた音が、重たい室内を蹂躙する。
弾丸は正確に男の額を貫き、椅子の背へ赤黒い飛沫を散らす。
一拍の間。
それから、崩れる。
糸の切れた人形のように、男の身体が横へ倒れ込んだ。
椅子が床に倒れる鈍い音が、妙に大きく響く。
血が、ゆっくりと絨毯へ染み込んでいく。
誰も、動かなかった。
悲鳴すら上がらない。
ただ、凍りついたような沈黙だけが、その場を支配していた。
私は煙の細く上がる銃口を一瞥し、軽く手首を振る。
そして後ろへ差し出した。
何事も無かったかのようにまた安全装置を取り付けるオスマン。
「さて、私からは以上だが何か他にあるか?」
当然、返事はない。
誰も口を開かなかった。
いや、開けなかったのだろう。
卓を囲む代表達は、まるで時間が止まったかのように固まっている。
青ざめた顔。
震える指先。
必死に平静を装おうとして、しかし隠しきれない恐怖。
その全てが、ひどく滑稽に見えた。
私は椅子に背を預け、小さく息を吐く。
「無いのなら、会談はこれで終わりだ」
淡々と告げる。
会議の終了を宣言するような、あまりにも事務的な声音だった。
誰かが喉を鳴らす。
その小さな音が、やけに大きく響いた。
「オスマン」
「ん~」
「準備は」
短い問い。
この場に全く合わない返事。
優秀な側近は、一切の迷いなく答えた。
「第一艦隊は出航しとるし、国境の部隊も予定通り展開済みやで」
その言葉が落ちた瞬間。
何人かの代表が、はっきりと顔色を変えた。
理解したのだろう。
これは衝動ではない。
怒りでもない。
最初から決まっていたことだと。
私は卓を囲む彼らを一瞥する。
「安心しろ」
穏やかに言う。
「貴殿らの国が次とは限らない」
数人が息を呑む。
私は窓へと視線を向けた。
外では雪が降り始めていた。
白い粒が、静かに世界を覆っていく。
その光景を眺めながら、小さく笑みを浮かべた。
「さて」
ゆっくりと振り返る。
「諸君、戦争の時間だ」
遠い国境から、開戦の発砲音が鳴り響いた。
終