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#ゲーム部屋
(株)姫神V
52
586
#曲パロ
玲奈
148
翌朝。
神代朔夜は、いつもより早く警察署へ来ていた。
正確には。
眠っていない
昨夜、ベランダに現れた蝶。
その隣に残されていた青い染み。
あれが偶然だったのか。
誰かが意図的に置いたものなのか。
判断できない。
だからこそ、気になった。
朔夜は自分の机に座り、
昨夜撮影した写真を確認する。
青い染み。
蝶。
ベランダ。
何度見ても、ただの一滴にしか見えない。
「……考えすぎか」
そう呟いたとき。
「何がですか?」
「……」
顔を上げる。
小宮透が立っていた。
「おはようございます」
「おはよう」
「神代さん、昨日帰ったんですよね?」
「ああ」
「ちゃんと寝ました?」
「寝た」
「何時間ですか?」
「……」
「神代さん?」
「忘れた」
小宮は眼鏡を押し上げた。
「それ、寝てない人の答えですよ」
「少しは寝た」
「何分ですか?」
「……小宮」
「はい」
「朝からうるさい」
「すみません」
小宮は苦笑した。
そのとき。
「おーい、神代」
橘恒一が入ってくる。
手にはコンビニの袋。
「朝飯」
「いらない」
「そう言うと思った」
橘は袋からパンを一つ取り出し、 朔夜の机に置いた。
「食え」
「必要ない」
「俺の勘では必要」
「お前の勘は信用しない」
「ひどくない?」
橘は笑った。
だが、その目は笑っていなかった。
「……まあ、食っとけ」
朔夜はパンを見る。
「あとで食べる」
「絶対今食わないやつじゃん」
橘がため息をついた。
そこへ。
「朝から騒がしいな」
黒崎玲司が入ってきた。
その瞬間。
橘が姿勢を正す。
「おはようございます」
「おはようございます!」
小宮も続く。
朔夜は立ち上がる。
「おはようございます」
「座れ」
黒崎は短く言った。
全員が席につく。
「鑑定結果が出た」
黒崎が資料を机に置いた。
「青い液体についてですか?」
小宮が聞く。
「ああ」
全員の視線が資料へ集まる。
「現時点では、一般的な薬品とは一致しなかった」
「毒物ですか?」
橘が聞く。
「それも断定できない」
黒崎は資料を開いた。
「複数の成分が検出された。だが、その組み合わせが特殊だ」
「特殊?」
澪が会議室へ入ってきた。
「私から説明します」
全員が振り向く。
澪は資料を持っていた。
「今回の液体には、植物由来と思われる成分が一部含まれていました」
朔夜が顔を上げる。
「植物?」
「はい。ただし、一般的な植物毒そのものではありません」
「どういうことだ」
「まだ詳しくは分かりません」
澪は資料を見る。
「毒性を持つ植物から抽出したものにしては、構成が不自然なんです」
「不自然?」
「普通なら、植物由来の成分がある程度まとまって検出されます。でも今回のものは……」
澪が言葉を選ぶ。
「一部だけが、まるで抜き出されたようになっています」
「誰かが加工した?」
「可能性はあります」
朔夜は写真を見る。
「つまり、自然に存在するものではない」
「少なくとも、そのままの状態ではないと思います」
部屋が静かになる。
黒崎が口を開いた。
「被害者の家族から、追加情報が出た」
「何ですか?」
橘が聞く。
「被害者は、事件の三日前に知らない人物と会っていた」
「誰です?」
「分からない」
黒崎は一枚の写真を取り出した。
被害者が駅前を歩いている。
その後ろに。
黒い服の人物が写っている。
顔は見えない。
「防犯カメラの映像から確認した」
朔夜は写真を手に取る。
「時間は?」
「午後六時十二分」
「被害者が誰かと会ったという証言は?」
「妻からは出ていない」
「仕事関係は?」
「調査中だ」
朔夜は写真を見つめる。
黒い服。
少し長めの髪。
だが。
それだけでは何も分からない。
「この人物を追います」
「当然だ」
黒崎が答える。
「橘は被害者の交友関係を洗え」
「了解」
「小宮は防犯カメラを追加で確認」
「はい」
「白瀬は液体の分析を続けろ」
「分かりました」
「神代」
「はい」
「お前は被害者の家族へ行け」
「分かりました」
全員が動き始める。
黒崎だけがその場に残った。
朔夜が資料を持って立ち上がったところで。
「神代」
「はい」
「昨日の夜」
朔夜が止まる。
「何かあったか?」
「……どうしてですか」
「顔に出ている」
朔夜は少し黙った。
「何もありません」
「そうか」
黒崎はそれ以上聞かなかった。
「ならいい」
朔夜が会議室を出る。
黒崎はその背中を見つめる。
「……嘘が下手だな」
小さな声だった。
その頃。
鑑識室では、澪が一人で顕微鏡を覗いていた。
「植物毒……」
昨日の黒い粒。
そして青い液体。
いくつかの資料を並べる。
「……でも、違う」
植物毒だけでは説明できない。
生物由来の何か。
それが混ざっている。
しかし。
それが何なのかまでは分からない。
澪は椅子から立ち上がり、窓を開けた。
冷たい風が入ってくる。
その瞬間。
一匹の蝶が室内へ入ってきた。
「……また?」
蝶は机の上を飛び回る。
そして。
昨日の黒い粒が入っている容器の近くへ降りた。
澪は眉を寄せた。
「あなた……」
蝶は動かない。
ただ羽を閉じたり開いたりしている。
澪が一歩近づく。
蝶が飛び立った。
窓へ向かう。
そのまま外へ――
行かなかった。
蝶は窓枠に止まった。
そして。
澪の方を向く。
「……何?」
もちろん答えはない。
次の瞬間。
蝶が飛び去った。
澪はしばらく窓を見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……気のせいね」
一方。
被害者宅へ向かう車の中。
朔夜は資料を読んでいた。
運転しているのは橘。
「なあ」
「何だ」
「お前、昨日何かあった?」
「ない」
「即答だな」
「本当にない」
「じゃあ、何でそんな顔してる?」
「いつも通りだ」
「いや、いつもより怖い」
朔夜は無視した。
橘もそれ以上は聞かなかった。
しばらくして。
「神代」
「ん?」
「蝶のこと」
朔夜が顔を上げる。
「何だ」
「俺は、あんまり気にしない方がいいと思う」
「……」
「蝶がいること自体は、偶然かもしれない」
「そうだな」
「でも」
橘は前を見たまま続ける。
「死んだ人間のそばに、毎回同じような蝶がいるなら……それは別だ」
朔夜は窓の外を見る。
流れていく街並み。
「……だから調べる」
「だよな」
車が赤信号で止まった。
そのとき。
朔夜は道路脇の電柱に目を止めた。
一匹の蝶。
黒い羽。
青白い模様。
「……」
蝶は車の方を向いている。
まるで。
二人が来ることを知っていたかのように。
「どうした?」
橘が聞く。
「いや」
信号が青になる。
車が動き出す。
蝶はその場に残った。
そして。
その日の午後。
被害者の妻は、警察に一つのことを話した。
「夫は、亡くなる前の日に……」
震える声。
「知らない人から、蝶の絵が描かれた封筒を受け取っていました」
朔夜の目が細くなる。
「封筒の中身は?」
「分かりません」
「封筒は?」
「……捨ててしまいました」
「いつ?」
「夫が亡くなる前の夜です」
朔夜は黙った。
そして、手帳に一行だけ書き込む。
蝶の絵が描かれた封筒。
まだ。
それだけだった。
コメント
1件
うわ、第4章、すごく引き込まれました……!🦋 青い液体の不自然な成分構成といい、防犯カメラに写った黒い服の人物といい、じわじわと核心に迫る感じがたまらないです。特に「蝶の絵が描かれた封筒」の情報が出たところ、鳥肌立ちました。単なる偶然では片付けられなくなってきましたね。澪さんの部屋にまた蝶が現れたのも不気味で、朔夜さんの眠れなさそうな様子にも胸がぎゅっとなりました。続きが気になりすぎます……!