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#ritt
食
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今 井
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ちょいちょい、と別に誰もいないのに内緒話のような声量で話しかけられる。
手持ち無沙汰でなんとなく石を積んでいた手を止め、声の主へと振り返った。
「なんや、どしたん佐伯」
「いやさ、そこに生えてたんだけど……食べられると思う?このキノコ」
手にはゲームで見るような明らかな毒キノコ!みたいなものではなく、見た目は全然食用になっていそうなキノコが握られている。けれど、見た目がイケそうでも素手で触るのは図鑑で調べてからの方がいいのでは???と思った。
多分、こういう好奇心旺盛なやつが毒キノコの前に倒れるのだと思う。
「あ~~~食べられんことはないと思う、けど食べん方がええね」
「ふ~ん、なんで?まずいとか、毒とかそういうこと?」
酒蒸しなら食べれるようになるかな…と段々思考が食の探求心にジョブチェンジしていくので、キノコを奪い、遠く彼方へと投げ捨てた。川に落ちたキノコがボチャン!と音をたてて沈んでいく。ああ~とか嘆いてるけど知らん。罪悪感はあるけど別にここならフードロスにもならんし。
「ちゃうくて、聞いたことないん?」
「なにを?」
「ほら、よくいうやろ」
ジメジメとした空気が肌にまとわりつく。見るからに己の立場を思い起こさせる白い着物が薄手なのが幸いだった。川のせせらぐ音もここがどこか忘れてしまいそうなほどののどかさである。
「あの世の食べ物食うたら、魂がそっちの世界に固定されて、二度現世帰れないって話」
足元の石が音をたてて崩れた。
川に映る死装束姿の僕たちは足はしっかりとあれども、なんとなく透けている気がする。佐伯の膝下まで川に突っ込んだその足が、水面によって揺れているのか、それとも幽霊よろしくゆらゆらとしているのかわらかなかった。
「しっかしまァ、こんな狭い小島が三途の川にあるとはねえ~今まで見たことなかったから驚きだよ」
「三途の川常連客の感想いらんわ。こっちは三途の川がとんでもなく広かったことに驚いてんねん。なんや真ん中に小島のある三途の川って。しかもここから陸が見えん」
「だはは!初見さんの感想ですわ」
「別に小島に関しては佐伯も初見やろ」
阿保らしい会話を繰り広げて約二時間。ずっと日が差して雲が流れぬこの地で、己の時間感覚がまだ正常でいてくれているなら先程の佐伯の笑い声で二時間ジャストである。これだけで、問題解決にはなにも至っていないことが察せられる。三途の川にいるということは、現実の僕らは気絶しているのだろう。二時間経ったのはちょーっと不味いかもしれない。
三途の川自体は残機使用のたびに訪れているからか、妙に落ち着いた様子の佐伯に頭を抱える。わたくもくんもおらんし、デバイスもない。まさか三途の川で遭難するとは思わなかった。
「……いつもはどんな感じなん?」
「え?なに、残機使ったときってこと?」
「おん、流石に三途の川は渡らんよな」
「そ~だね、怖いから一応水にも触れてないよ」
「今膝まで浸かっとるのはいいん?」
「それは兄さん、もう細かいことですよ。なんせ三途の川のど真ん中の小島ですからね」
「それもそうか」
しゃがみこんで、また石を積み上げる遊びをしていると、ちゃんと質問には答えようとしていたらしい佐伯からアンサーが返ってきた。
曰く、普段残機を使ったときは三途の川の現世側にいつの間にか立っているらしい。
三途の川を挟んであの世の閻魔とかあの世の食事とかを想像しているうちに、リトやらマナやらウェンやらの声が現世側から聞こえてくるそうだ。泣いている声やひたすらに己の名前を呼ぶ声に押されるようにして、残機猫が登場する。
この間は、残機にもっと早くこれないかってお願いしたら猫パンチされたよ、なんてケラケラと話すから佐伯の死に対する意識のズレを感じた。
「ほ~ん、Oriensも可哀想やな。佐伯が川遊びしてんの止められんくて 」
命を大切にしないで敵に突っ込む佐伯にちょっと色んな気持ちが溢れて、意地悪にそういえば、ヴッとあからさまにばつの悪い顔をしてすごすごと陸に上がってきた。
「……そうしたら、佐伯の川遊び、ってか川に流されてんの止めたのって僕が初めてか」
「えっ、いや、まあ…そっか…そうなるね」
「ふん、まあ友達やから当たり前やけどね」
カゲツくん!なんて言って口を手で押さえる佐伯を小突きながら、思い返す。あのときは必死なだけだったからよく覚えていないが、確か……佐伯が僕のことを庇ったんだったと思う。
「ッカゲツくん!!!」
東西合同任務中、そう叫んで体勢を崩して妖魔からモロに攻撃を食らうはずだった僕を佐伯が突き飛ばした。
それでも範囲が広かったのか、意識を飛ばしてしまって、気が付いたらチラホラと彼岸花が咲く、現世側の砂利の上に立っていた。
きっと、佐伯に庇われなければ三途の川の前にも行かずあの世へ強制送還されていただろうから本当に助かった。して、佐伯はどこだろうと見渡しているときに川へと歩みを進める佐伯を見つけた。
「はっ、あ!?なに、なにしてんねん佐伯!!!」
無我夢中で駆け寄り、引き止める。残機ちゃん!残機ちゃんとめて!と叫んでみても申し訳なさそうな〈なーん〉という声が響くだけで、姿を現してはくれない。
佐伯があの世逝っちゃう!!!という焦りだけで動いて、引き止めようと足に力を込める。でも、佐伯は意思もなにもなく、するべきことをこなそうとする、みたいにズンズン前へ進んでいった。
「佐伯ぃ!!!」
胸まで浸かった辺りで、ふと佐伯がピクリと動いた。そこでやっと歩みを止め、静かになる。どこか、どこでもいいから水から上がらなきゃ、という思いで周囲を見渡し、見つけたのがこの小さい島だった。
ほどなくして、佐伯は目覚めた。
正方形にあてはめて、百メートルもないくらいの島にパチクリと目を瞬かせ、ふざけ合いつつ今に至る。
「……なんで、佐伯は今残機使って戻れんのやろ」
「う~ん、それ考えてるんだよね。残機とか呪いとかと妖魔の相性悪かったのかなあ」
「あ~あり得るな、変に成長して強くなってたから術の一つや二つ持っててもおかしくないし」
「そう、今も呼び掛けてるんだけど、なーんっていうだけなんだよね。声だけ」
「僕も聞いたわ、それ。ご主人はよ目覚めろ~って泣き声」
「はは、アイツらにそこまで可愛げないよ」
「そうか?」
「うん」
にしても溺れなくて良かったな~と思う。三途の川で溺れたなんて、どこにいくのか想像もつかない。だからこそ、この大海原ともいえる川を泳いで渡るわけにもいかず、ここで駄弁っているのだが。
そういえば、石を積むのもあの世ではなんか意味あったっけと思い出したので、一応蹴って壊しておいた。
あの世に関係することなんて全てやらないほうが吉である。
……ふと、朧気で思い出せない微妙な存在のなんかを脳が引っかける。
なんだか無性に大切な気がして、うんうん唸りつつ考えてみた。
あの世、現世、三途の川、渡る…
佐伯からチャリと、頭の三角の布を調節しようとしてピアスを触った音がする。
あの世、現世、三途の川、渡る、チャリ?チャリン?
「あ!!!!!六文銭!!!」
「わ゛っあ!びっくりした」
そうだ、そうだ思い出した!すっきりした~と思いつつ、佐伯のほうに駆け寄る。
「佐伯、帰れるかもしれん!舟乗れたらこの大海原越えれるで!」
「ふ、ふね?あ、渡し船のこと?」
「おん、舟乗せてもらって、現世側まで帰れんかな」
「え、でも僕ら六文銭なんて持ってないけど」
「僕はもともと致命傷負っとらんから死なんし、佐伯は残機持ちやから顔パスで乗せてもらえんかな」
「え、もしかしなくても天才?」
キョロキョロと水平線の向こうを見渡して、舟の影がないか見渡してみる。
しかし、悲しいかな、美しい水面が広がるばかりである。
「……おわりや」
「そんな!」
「舟もおらん。六文銭もない。わたくもくんもおらん。詰みや。僕たちのヒーロー人生はこのちっさいキノコ島で幕を閉じるんや……」
「諦めるのは早いよカゲツくん!」
大袈裟にいじけて大の字に寝転がれば、佐伯がぐわっとまくし立ててきた。愉快な友人のほうに顔をやる。
「舟がないなら、作ればいいじゃない!」
「……佐伯…そんなこというて…やっぱり天才やん」
「へへっ、工作だけは任してほしいっすわ。」
「なんやっけ、ほーるど…」
「hold me 体くんね。作ってますから」
「頼もしくて草。ならはよ始めよ!」
夏休みの工作みたいだね、とかいうから笑った。緊張感など有りもしない。なんせ__
「さっきからうっさいねんアイツら!」
「だははっ任務終わったから来てくれたのかな」
現世のほうから、ずーっと皆の声が聞こえてきているからだ。『起きろイッテツ!カゲツ!』とか『起きなきゃ唐揚げなしだかんね!』とかもう好き勝手言っている。
「…これ、毎回聞いてるん」
「うん、そう。合同任務だから今日はいつもよりうるさいけどね。」
「そか、ならはよ帰らんとな。これマナ泣いてるわ 」
「あ~ライくんに相方泣かせたこと怒られる~」
「ライ怖いからな…まあ、諦めて怒られよ。はよ帰って、二人でな 」
「うん」
えっさほいさと流木を運ぶ。西は発展してないといっても、流石にいかだで川を渡ったことはないので、せめてアニメで見たような形になるよう適当に配置していった。
木と木を裂いた死装束で縛り付け、固定する。現実ではこんなものすぐに壊れてしまうだろうけど、呪いも呪術も結構イメージがあれば使えるものなのだ。概念さえハッキリしていれば、世界が補正をかけてくれる。だから、こんなもんでいいだろうという出来映えになるまでに時間はかからなかった。
「う~ん、舟だからあのデッカイ布必要なんかな?」
「あ~あれね、帆ね 」
「…もし作るとしたらやけど、どっちかが着物ひっぺがされるしかないよな?」
「え!!!」
「あの世って法とかあるんかな…」
「ヤダー!!!」
『もう待ちくたびれたって~』
「ほら、蛸が待ちくたびれたらしいから」
「いやいやいやいや…」
『おせーよカゲツもイッテツも』
「狼もこういっとるし」
「なんなの!?現世の言葉使って説得しないでください!?」
「ふふ」
声が聞こえてくる現世のほうの水面を眺めた。アホみたいにデカイ声で僕らの帰還を叫んでいる。
「も~しゃーないから、一旦舟だしてみよ。風もなんもないけど、最悪オールで漕げばいけるやろ」
「いやまあね、やるしかないよね」
うだうだ言っていても仕方ないかあと大きな声で渇をいれる佐伯を舟の後側に持ってきて、一緒に押していく。
やはりイメージというものは大切らしく、見た目だけは頑張った舟、現世帰るぞ丸はゆったりと水面に浮かんだ。
「おおーー!!!」
「第一関門は抜けたけど、こっからが勝負っすよね兄さん」
第二の試練、というか最大の目的である現世の岸まで辿り着けるか問題。
これに関しては気合いすぎるなと思いつつ、頼もしい現世帰るぞ丸に乗っかった。
「お、朗報や佐伯。乗っても何ともない。僕らの体重なら余裕で浮くわ」
「あ、本当だ。いや~極楽極楽」
「ふふ、多分今一番近いけどな極楽」
駄弁りながらも、さあ漕ごうというとき、ふと気がついた。風が、吹いている。
「かげっカゲツくん!なんかさあ」
前に進んでいた。
「うえっなんやこれ、何が起きとん」
「わっかんない!!!」
現世帰るぞ丸は勢いを増してぐんぐんと水の上を進んでいく。
『カゲツ!イッテツ!』
前へ
『帰ってこい馬鹿二人!』
前へ
『三途で駄弁ってんじゃねーよ!』
声のする方へ
「わぶっ」
いきなり視界が霧に覆われ、思わず目をつむる。振り落とされないよう舟と佐伯を握ってそれに耐えた。
「……あ」
目を開けば、見覚えのある赤い花の咲く陸が目にはいる。
「連れてきてくれたんか……?」
ぐんぐんとスピードを速める舟をそっと撫でた。少し愛着が湧いてきたので別れが惜しく感じる。
「……ん?」
ぐんぐんとスピードを速める?
「うわあああカゲツくん!!ぶつかるぶつかる止まんない!!!」
「なんっなんやあ!!」
ボートレースみたいなスピードで進む舟にしがみついて叫ぶ。佐伯なんか隣で泡吹いてる。まずい、このまま だと舟はもう数秒もしないで砂利に乗っかる。そうなったらどうなる。え今度こそ死ぬかも
「「わ゛あ゛ーーーーー!!!!」」
__ちらほらと、人の声がする。
まぶたの裏が赤くて、少し眩しい。眉をしかめれば、人の声はよりいっそう大きくなった。
「ん…んあ?」
「!起きた!カゲツきゅん起きた!!」
「イッテツも起きました!」
「んええ?」
目を擦りつつ起き上がろうとすると、全身に痺れが走る。ばかお前寝てろ寝てろと狼に倒されて、またごろりと寝転がった。
「……砂利じゃない」
「砂利?」
大規模な戦闘だったからまだ医療班はついていないのだろう。倒れたところの近くで寝かされていた。コンクリと土の匂いがする。顔を動かして下をみれば、見覚えのあるマントを枕にしていることに気がついた。あと上着を体の下にしいて、ちょっと重い服を上にかけている。
ああ、なんか薄着だと思った。
ちら、とあいつらを見れば少し寒そうにしていた。夏の終わりは近年まだまだ暑かったはずだが、今年は台風の影響か少し肌寒い。
へーんという目で見れば伊波につねられた。
隣の佐伯も黄色い枕とピンクの掛け布団、白い敷布団の上で騒いでいる。
「ふ、なあ佐伯」
「え何カゲツくん」
胸の辺りが少し痛かったが、なんとか佐伯のほうに体を向けた。
「これからお前が三途の川行ったら、僕が一番でかい声で呼ぶことにするわ」
「えっ」
東の三人に撫で回されながら寝ている佐伯をみて、小さく笑う。
あまりに平和で、馬鹿みたいに騒いでいた。
そう、だってきっと、うるさすぎて閻魔がうんざりして舟を押したに違いない
コメント
4件
あらすじに読了後推奨のお話があります🙌❤️ 連載もちまちま書いているのですが、なかなか時間が取れず読み切りから投稿することになって申し訳ないです。春ごろには安定すると思うのでよろしくお願いします🙏🍀
読了。重すぎず軽すぎず、でも確かに“死”を背負ってる感じが好きだった。カゲツと佐伯の掛け合いがテンポよくて、笑えるのに三途の川っていうロケーションがじわじわ効いてくる……。特に「キノコ投げた」と「舟でぶつかる」の流れ、最高にかわいくて草。ラストの閻魔うんざり説、すごく腑に落ちた。続きが気になるよ。おつかれさま。