テラーノベル
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「なんだ。そんなことか」
あっさりと受け入れられてしまった。
「え? そんな簡単に?」
肩透かしとはこのことだ。
「あのぉー……本当にわかってます? 腐女子って存在を知ってますか? いわゆる男と男のラブストーリーです」
「知識として把握している」
超エリート男がなんの戸惑いもなく受け入れちゃっていいの?
もっとなにかあるでしょ。
ミニ鈴子たちが面白くなさそうな顔で現れた。
『順応しすぎぃー』
『ハイスぺで理解ある男。こいつは最高の男だぜ!』
『とりあえず、マイハートがミンチにならずに済みそうだ』
ミニ鈴子は肉屋モードのまま相談していた。
いや、私もその相談に加わりたい。
一野瀬部長は私の理解の範疇を越えている。
「で、でも、私のコレクションをまだ見てないから……」
さりげなくBL小説書いていることだけは隠した。
まだそこまで私の心のドアを開ききれない。
たとえ、唯一無二の恋人であったとしても守りたい秘密がある!
ここは絶対防衛ライン。
愛する人であっても踏み込ませはしないわ!
「よし、わかった。BLコレクションを見せてもらおうか」
「見せません」
即答。
ミニ鈴子達がひいいいいっと悲鳴を上げる。
『命知らずな恐ろしい男がいたもんだぜ』
『鈴子のBLコレクションは闇深い』
『あんなハードなBLエロを見せていいのか?』
『否ッ! あれは墓場まで持っていけ!」
汗をぬぐいながら、ミニ鈴子達は一野瀬部長を警戒する。
わかる、わかるよ。
この男がとんでもない男だということは。
じりじりと私の逃げ場を奪い、追い詰めていく。
「そっちだけ俺の趣味を知ってるのは、卑怯じゃないかな」
「卑怯!?」
「そうだろう? 俺のことだけを把握して、自分を隠す。それは浮気と同じだろう?」
「浮気!?」
そうなの?
正座していた足が痛くなってきた。
そろそろ足を崩したい。
そんな私に一野瀬部長は、スッと手を差し伸べた。
しかも、キラキラしながら笑顔で言った。
「行こう。鈴子のマンションへ。そして、すべてをさらけ出せ。この俺に!」
「いやいやいや!? 素敵なセリフっぽく言ってもだめですよ! 絶対に入れませんからね?」
「俺はお前の全てを受け入れたい」
手を握られて、色っぽい目で見てくる。
色仕掛けを使いますか!
心のドアを色仕掛けで無理やり開けようなんて、そうはさせん!
ミニ鈴子たちが怯えている。
『狼の前の兎同然!』
『肉食動物の狩りだ』
『こっちは肉屋(処理済み)でしかない』
『形勢不利!』
どさっと押し倒された。
え? う、嘘っー!
ミニ鈴子達が大混乱に陥った。
『撤退せよ、撤退せよ!!』
『我々では対処しきないぞ!』
『ひぃー! 存在を消されるぅー!』
私の心のドアの中へ逃げていく。
「全部、俺に教えてくれよ」
耳元に息がかかる。
これ以上は危険だってわかっているのに足が痺れて逃げられない。
正座なんかするんじゃなかった。
ま、まずい。
この状況、私はとうとういたしてしまうの?
一野瀬部長の顔が迫ってくる。
至近距離に耐えられるレベルのイケメンは卑怯だと思う。
――人生初の三次元男に誘惑されてしまうの? この男の沼にハマる予感がした。
私の服に一野瀬部長の手が触れた瞬間、ハッと我に返った。
今日の下着は何色ですか?(自問自答する。変態ではない)
セールで買った色気のない下着だった気がする。
「待ってください!」
「う、うん……? どうした?」
今日の下着がセール品だと言えず、なにかうまい言い訳を探す。
なにか言い訳、言い訳をっ!
部屋をぐるりと見渡すと、一野瀬部長のゲームコレクションが目に入った。
懐かしのゲームが揃ってる。
――こ、こ、これだぁ~!
「一野瀬部長! じゃなくて、貴仁さん。ゲームをしてもいいですか?」
「今?」
「そうです。こんなたくさんのゲーム機とゲームソフトを目にしたら、気になってしかたがありません」
「ん? 気になるか?」
いや、あなたは確かにこの部屋に慣れ親しんでいますが、一般人にしたらゲームショップにきたくらいの量が揃ってますからね?
「ちょっとそこに座ってください」
「わかった」
私が言うと、一野瀬部長は渋々、起き上がり、ソファーにどさっと座った。
あ、正座じゃないんだ……(私は正座だったのに)。
「私の部屋に来て、BL本に囲まれ、気にならずにいられますか?」
想像してみてほしい。
BL本に囲まれた男女がキスする姿を。
「……無理かもな」
「それと同じです」
しかも、ネットオークションで取引されているようなレアソフトばかりじゃないですか。
大切にしているらしく、販売店並みの美しさで透明なビニールで梱包されている。
落ち着かないにもほどがある。
いそいそとゲームソフトを手に取った。
「このパズルゲーム流行りましたよね。鬼のような連鎖で相手を邪魔して潰すっていう」
「詳しいな」
「流行りましたからね。父はオタクではありませんが、流行りものには弱いタイプなので、ゲーム機はあったんです。カセットはセーブデータがとんで泣いた記憶があります」
「それが嫌で徹夜でクリアしたな」
「わかります」
一野瀬部長がノリノリで話し始めた。
心のドアは全開。
私もそれが嬉しかった。
お互いを深く知れたような気がして、l私と一野瀬部長は微笑みあった。
けど、これは恋人同士というよりオタク同士の仲が深まっただけのような気がしたのは、気のせいだろうか……
「そのパズルゲームをやるか?」
「ふっ。うけてたちましょう。私の腕前もなかなかなんですよ?」
今はもう売られていない貴重なパズルゲームを手にし、私と一野瀬部長の戦いは始まった。