テラーノベル
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屋敷に帰ってきた僕は、約束通りシュメリの頭を撫でていた。
魔術師団から遅れて帰ってきたバルスが、微妙な顔をしていた。
「何、してるんだ?」
「あのね、僕がシュメリにいい子いい子してるの」
「あぁ、それは見ればわかる。シュメリ?」
バルトがシュメリに視線を向けた。
「リンネがどうしてもというから、仕方なくね」
「その割に、嬉しそうな顔だな」
バルスにツッコまれても、シュメリが笑っている。
困った顔をしているけど、嬉しそうだ。
「明日、クロノアさんに話すんだ」
「それは、控えてほしいかな」
シュメリが本当に困った顔になった。
「明日? 明日も魔術師団に行くのか?」
バルトの顔が訝しげになった。
「明日も明後日も行くよ。僕、魔術師団に入るんだ」
訝しげだったバルトの顔が険しくなった。
「シュメリ、どういうことだ」
「リンネが望んだんだ。だから、受け入れた」
僕に撫でられたまま、シュメリが静かに答えた。
「だからって」
「精魂師は国にたった一人の希少な魔術師だ。私の個人的な事情で独占はできない」
「そうじゃねぇだろ!」
バルトが早足に歩み寄った。
「お前はそれでいいのか」
バルトがシュメリの肩を掴んだ。
勢いで、僕は手を離した。
「バルト、怒らないで。僕が自分から入りたいって言ったんだよ。シュメリは反対したけど、どうしてもってお願いしたんだ」
「リンネ……」
バルトが僕の肩に手を置いて、向き合った。
「魔術師団に入るのがどういうことか、わかっているか? 危険な魔獣の討伐も、戦闘だって駆り出されるんだぞ」
「わかってる。それでも僕、シュメリの隣にいて恥ずかしくない大人になりたいんだ」
シュメリが、息を飲んだ。
同じように、バルトが口を引き結んだ。
「僕は獣人だから、もう成人してるよ。自分ができること、自分で決めて、やりたいんだ」
僕はバルトを真っ直ぐに見た。
バルトの目が、ジワリと潤んだ。
「リンネの意志を蔑ろにするのは、大切にするのとは違うだろ」
シュメリがバルトの肩を叩いた。
僕から顔を逸らして、バルトが後ろを向いた。
「はぁ……いつの間に、大人になりやがって」
バルトが鼻を啜っている。
「感慨深いかな、お父さん」
「うるせぇ」
ぶっきらぼうに言い捨てた声は、涙を含んで聞こえた。
「明日は、バルトが一緒に魔術師団に連れて行ってくれ。リンネは真っ直ぐクロノアの部屋に行けばいい」
「わかった」
シュメリの言葉に頷いて、バルトに駆け寄った。
「ねぇ、バルト。一緒に行けるの、嬉しいね」
「ったく、人の気も知らねぇで」
バルトが、ぐしゃぐしゃと僕の頭を乱暴に撫でた。
「こんな日が来るなんてなぁ」
そう呟いたバルトは、嬉しそうだった。
その横顔を眺めて、僕の胸がじわりと熱くなった。
夕飯の後、お風呂に入った。
今日はシュメリと一緒だ。
僕の髪を乾かしながら、シュメリがぽそりと言った。
「髪が伸びたね、リンネ」
「言われてみれば、そうかも」
両脇はそうでもないけど、後ろの髪が肩に付きそうだ。
「今までは、どうしていたんだい?」
「バルトに切ってもらってた」
「またバルトに切ってもらう?」
「うん、そうする」
シュメリが、クスリと笑んだ。
「出会った頃も、これくらいの髪だったね」
シュメリに言われて、あの時のことを思い出した。
「そうだね。僕の髪が長いからって、シュメリが縛ってくれたんだよね」
あの時、シュメリがくれたリボンも水色だった。
僕のアイスブルーの瞳と同じ色を選んだって言って、リボンをくれたんだ。
(あのリボン、森の家に置いてきちゃった)
僕だけの宝物を入れておく小箱の中に入っている。
(取りに行きたいな。ダメかな)
ちらりとシュメリを振り返る。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
魔窟の森の家に戻りたいと、何となく言いづらい。
前に勝手に帰って、心配をかけちゃったから。
「明日はとりあえず、縛っていこうか」
「シュメリが縛ってくれる?」
「綺麗にしてあげようね」
「わぁい、やった」
またシュメリに髪を綺麗にしてもらえる。
それが嬉しい。
だけど、僕の心の隅っこに、最初にもらったリボンが引っ掛かっていた。
(もし、行けそうだったら、取りに戻ってみよう)
あの時より今のほうが魔力が多い。
速く走って帰って来られるはずだ。
シュメリに髪を乾かしてもらいながら、そんなことを考えていた。
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく胸にきました……。リンネが自分の意志で魔術師団に入ると決めた場面、バルトが「いつの間に、大人になりやがって」って涙を飲み込むところ、もうお父さんだなあって。シュメリも反対しながら最後には背中を押して、一緒にお風呂で髪を乾かしてくれる優しさ。あと、最初のリボンの話が出てきたのも、何だか切なくて温かかったです。リンネの成長がこんなに愛おしく感じられるなんて……いいお話でした🤍
お股ポテト
29
はるにし
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