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お股ポテト
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はるにし
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今日はバルトと二人で魔術師団に来た。
途中まで一緒だったシュメリは、騎士団の仕事に向かった。
バルトがしっかり手を握ってくれている。
「バルト、手を繋いでもいいの?」
「今日だけな」
前に魔術師団に来た時は、もう大人だからって繋いでくれなかったのに。
今日は良いみたいだ。
僕は嬉しい気持ちで、バルトの手を握り直した。
建屋の中に入ると、張り紙があった。
『リンネはこっち☚』
左に曲がれと書いてある。
「これ、クロノアさんだね」
「そうだろうな」
バルトが呆れ顔だ。
「バルト、クロノアさんに会った?」
「会ったよ。副団長だし、俺も魔種持ちだからな」
あんまり良い顔をしていないように見える。
「気を付けて行くんだぞ。迎えに行くけど、早く終わったら訓練室に来いよ」
「うん、わかった。バルトも頑張ってね」
僕はバルトに手を振って、左側の廊下を歩き出した。
しばらく歩くと、また曲がり角があった。
僕は首を傾げた。
「こんな曲がり角、前もあったかな」
初めて来た時も、二回目も、真っ直ぐの廊下の突き当りに部屋があった。
「もしかして、隠れてる?」
僕は廊下の突き当りの壁に触れた。
ぐにゃりと、壁が歪んだ。
「やっぱり、隠してたんだ」
僕は壁に飛び込んだ。
その先には、前と同じ長い廊下が続いていた。
「ここを真っ直ぐ歩けばいいんだね」
長い廊下をひたすら歩く。
向こう側が見えているのに、全然距離が縮まらない。
「歩いてるのに、変なの」
周囲をぐるりと見回す。
壁の魔導ランプが目についた。
触れようと手を伸ばすも、高くて届かない。
「んー、人の姿じゃダメかも」
猫の姿に変化して、壁を駆け上がる。
魔導ランプに触れると、やっぱりぐにゃりと歪んだ。
「うにゃ」
空間全体がグニャグニャとうねり始めた。
「にゃにゃ!」
僕は慌てて前に走った。
目の前の壁に、クロノアの部屋で感じた闇のベールが見えたから。
壁伝いに走ると、その闇に飛び込んだ。
「うにゃん」
飛び込んだ先で、コロコロと転がった。
何かにぶつかって、体が止まった。
「おや、随分と早かったね」
冷たい手が僕を抱き上げた。
「にゃ!」
クロノアが蛇みたいな顔で僕を見下ろしていた。
「さぁ、人の姿にお戻り」
僕はクロノアの腕から降りて、人に戻った。
「あの絡繰りって、クロノアさんだよね?」
「クロノアでいいよ。思ったよりあっさり解くから、詰まらなかったよ」
「僕は楽しかった。冒険みたいだった」
クロノアが、じっと僕を見詰めた。
「それは、良かったね」
その目を細くして、ニィと笑んだ。
最初は気味が悪かったけど、見慣れると平気だ。
「さて、魔力の出力はできるとわかったし、本題に入って良さそうだね」
「どうして、わかったの?」
「この部屋に来られたからだよ」
よくわからなくて、首を傾げる。
「壁の仕掛けも、ランプの仕掛けも、魔力を纏った手で触れないと、破れない」
「そうだったんだ」
クロノアが僕の手に触れた。
「リンネは魔力の出し入れが上手いんだ。時と場合に合わせて、強弱を付けている」
「そうなの? 意識していなかった」
「ククク」
クロノアが楽しそうに笑った。
「魔力が使えるようになったのは、最近だったね」
「うん、キノとカノに引き出してもらったの」
「普通は、自在に調節できるようになるまでに数カ月かかるんだよ」
「え! そうなんだ」
どうしてできるのか、自分でもよくわからないけど。
そのお陰で次のステップに行けるなら、良かったと思う。
「まずは、お座り。お茶でもしよう」
「え? はい」
促されるまま、ソファに腰掛ける。
隣にクロノアが座った。
テーブルの上に、コーヒーとクッキーが置いてあった。
「シュメリは紅茶が好きだろう。私はコーヒー派なんだ」
「コーヒー知ってるよ。バルトが好きなんだ」
朝に必ず飲んでいた。
僕も一緒に飲んでいたけど、ちょっと苦い。
「砂糖とミルクは?」
「いっぱい欲しい」
「それじゃ、ミルクコーヒーにしてあげようね」
クロノアが指をクルクルと回す。
角砂糖が自分からコーヒーに飛び込んだ。
ミルクポットが宙に浮いて、カップにミルクが注がれる。
銀のティースプーンがクルクルと回る。
「どうぞ」
「ありがとう」
こくりと一口、飲み込む。
「甘くて美味しい」
思わず、いっぱい飲んだ。
「クッキーも、どうぞ」
「いただきます」
口の中でホロホロ崩れるクッキーは優しい甘さで、これも美味しい。
二個、三個と食べ進む。
「いっぱい食べちゃった」
「構わないよ。好きなだけお食べ」
お言葉に甘えて、いっぱい食べた。
コーヒーもおかわりした。
「この食べ物を美味しいと感じるのは、魔花が欲しているからだよ」
「そうなの? 魔花って甘いお菓子が好きなの?」
クロノアが吹き出した。
「リンネが好きだから、魔花が育つ」
「そうなんだ」
「魔花が開けば、今より魔力量が増える。高位の術も使えるようになる」
僕はミルクコーヒーをじっと見詰めた。
「僕って、どんなことができるの?」
「精魂師は、魂を活性化する。つまり、元気にする。魂の治癒師だ」
「魂を元気にする」
自分の中に刻むように繰り返した。
「魂に刻まれた記憶を読み解いたり、引き出したりもできるね」
「記憶……」
僕の中に眠っていた、前世の記憶。
もしかしたら、自分の能力で引き出したんだろうか。
「仕舞い込むことも、できる?」
閉じ込めたのも、自分だろうか。
「できるよ。それは反転術だ」
「反転?」
「正規の術を逆に使う。記憶を封じたり、魂を衰退させる」
ぞくりと、寒気が走った。
そんな恐ろしい術も、僕は使えるんだ。
「反転術は高位術だが。魔花が開けば、リンネなら簡単にできるだろうね」
「簡単なのかな。僕、まだ何もわからないし、できない」
クロノアが鉢植えの花を差し出した。
僕は無言でそれを受け取った。
「そのまま、咲けと念じてごらん」
「そうすると、花が咲く?」
「成功すればね」
花はまだ蕾だ。
僕は蕾を見詰めた。
「綺麗に咲きますように」
蕾の先を額に当てる。
ふわりと甘い香りが薫った。
固く閉じていた蕾が見る見る開いていく。
水色の綺麗な花が咲いた。
「お花が咲いた」
自分でビックリしたけど。
僕はお屋敷の庭で、花を摘まんだ時のことを思い出していた。
あの時も、指で摘まんだだけで枯れた花が綺麗に蘇った。
「クク……簡単にやってくれる。これも中々に難しいのだけどね」
「そう、なの?」
「普通はね、訓練が必要だ。リンネは息を吸うようにやってのけるね」
そんな風に言われると、僕のほうがビックリする。
「今までも、無意識に術を使っているだろ?」
「何回か、使ってる」
「その時に、共通した何かがあったはずだ。それがリンネのトリガーだ」
「トリガー?」
「術を発動するきっかけ、かな」
「きっかけ……」
庭の花の時は、枯れた花を摘むのを可哀想だと思った。
(三人でお昼寝してた時も、僕はシュメリとバルトに魔力を流したって)
後からシュメリが教えてくれた。
あの時は夢心地だったけど。
シュメリとバルトの魂が元気でありますようにって願ってた。
「気持ちが、動いた時?」
「気持ちか」
「可哀想とか、元気でいて、とか」
「なるほど、感情がトリガーか。そういう術者は強いね」
「そうなの?」
「同時に、脆くもある。気持ちが折れれば、使い物にならない」
「……そっか」
それは怖いと思った。
気持ちなんて流動的で、いつも強くなんかいられない。
落ち込んだり泣いたりする日だってある。
クロノアの手が、僕の髪を撫でた。
「リンネは大丈夫だよ」
「僕、泣いたり落ち込んだりするよ?」
「心の強さは、表層の意識とは別物だ」
クロノアの言葉が難しくて、良くわからない。
「きっといい術者になる」
クロノアが柔らかく笑んだ。
その顔は、今まで見た中で一番優しかった
コメント
1件
なんだか胸がぎゅっとなるお話でしたね……。クロノアさん、最初は得体が知れなくてちょっと怖かったけど、ミルクコーヒー入れてくれたり「リンネは大丈夫だよ」って優しく髪を撫でるところ、すごく印象に残りました。感情がトリガーで、同時に脆さもあるっていう設定もすごく丁寧で、リンネの成長を静かに見守るような空気感が好きです。最後の「一番優しい笑顔」、染みました🌷