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#夢主
そら
255
みゅう

68
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「檻のない鳥籠」
〇〇が十八歳になった頃。
兵団の中で彼女を知らない者はいなかった。
元々目立つ存在だった。
東洋系の珍しい容姿。
柔らかな黒髪。
よく笑う明るい性格。
そして努力で積み上げた実力。
だが、大人になるにつれて、その魅力はさらに増していった。
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食堂では自然と人が集まる。
訓練場では男女問わず声を掛けられる。
新兵たちは憧れの目を向ける。
古参兵ですら彼女を気にかける。
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「〇〇さん!」
「今度訓練見てもらえますか?」
「また一緒に班組みません?」
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そんな光景は日常だった。
リヴァイはそれを見るたび眉をひそめる。
昔なら腹が立った。
嫉妬していた。
独占したいと思っていた。
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だが今は違う。
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その隣には恋人がいる。
自分ではない。
あの先輩兵士だ。
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だから嫉妬する資格はない。
そう言い聞かせていた。
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けれど。
半年ほど経った頃から違和感が生まれ始める。
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最初は些細なものだった。
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「〇〇」
先輩兵士が呼ぶ。
「何?」
「さっき誰と話してた?」
「え?」
「食堂で」
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笑顔だった。
声も優しい。
だがどこか圧がある。
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「ただ訓練の相談だよ」
「そうか」
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その時は終わった。
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だが。
そういう場面が増えていく。
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誰といた。
何を話した。
どこへ行く。
誰と任務に出る。
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最初は心配なのだと思った。
恋人だから。
好きだから。
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〇〇もそう思おうとしていた。
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しかし。
日に日に息苦しくなっていく。
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「その兵士と必要以上に話すな」
「え?」
「誤解される」
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「休日は一緒に過ごしてほしい」
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「髪を下ろして歩くな」
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「男が見る」
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少しずつ。
少しずつ。
自由が削られていった。
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ある日の夕方。
リヴァイは廊下で〇〇を見かけた。
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一人だった。
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珍しい。
いつもなら笑っている。
誰かと話している。
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なのに。
その日は違った。
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肩が落ちている。
目の下に薄く疲れが見える。
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「おい」
声を掛ける。
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〇〇が顔を上げた。
そして少しだけ笑った。
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「リヴァイ」
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その笑顔は。
昔よりずっと弱々しかった。
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胸が痛んだ。
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「どうした」
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「別に」
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嘘だった。
分かる。
十五の頃から見てきた。
〇〇は辛い時ほど笑う。
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「別にって顔じゃねぇ」
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沈黙。
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しばらくして。
〇〇はぽつりと呟いた。
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「私……変なのかな」
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「何がだ」
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「もっとちゃんとしなきゃいけないのかなって」
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リヴァイの眉が寄る。
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「何の話だ」
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〇〇は困ったように笑った。
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「私、人と話すの好きだから」
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「知ってる」
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「でも最近、それが駄目みたいで」
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リヴァイの胸がざわつく。
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「誰に言われた」
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〇〇は答えなかった。
答えなくても分かった。
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あの男だ。
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「私が悪いのかな」
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その言葉を聞いた瞬間。
リヴァイは奥歯を噛み締めた。
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違う。
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〇〇は何も悪くない。
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誰かに優しいのも。
笑うのも。
人に好かれるのも。
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全部。
昔から変わらない。
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そういうところを好きになったのは。
他ならぬあの男のはずだ。
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なのに今は。
その魅力を否定している。
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「お前は変じゃねぇ」
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低い声。
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〇〇が目を見開く。
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「リヴァイ……」
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「誰かと話しただけで責められる筋合いはねぇ」
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言葉が少し強くなった。
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自分でも分かる。
怒っている。
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あの男に。
そして。
何もできない自分に。
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〇〇は少しだけ目を伏せた。
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「……ありがとう」
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その声がひどく弱かった。
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リヴァイは胸が締め付けられる。
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本当なら。
抱き締めてやりたかった。
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大丈夫だと言いたかった。
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無理して笑うなと言いたかった。
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だが。
その権利はない。
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彼女の隣にいるのは自分ではない。
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だから拳を握ることしかできなかった。
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その夜。
兵舎の窓から外を見る。
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中庭を歩く〇〇の姿。
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そして迎えに来た先輩兵士。
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彼女は笑う。
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だが。
リヴァイには分かった。
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あれは本心からの笑顔ではない。
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昔のように腹の底から笑う顔を。
リヴァイは知っている。
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だからこそ。
今の彼女がどれほど無理をしているのかも。
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「……くそ」
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知らなければよかった。
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好きにならなければ。
もっと楽だった。
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それでも。
目を逸らせなかった。
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彼女が苦しんでいる。
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それだけで。
胸が潰れそうになるほど痛かった。
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そして初めて。
リヴァイは認める。
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自分はまだ。
〇〇を諦められていない。
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半年経っても。
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彼女が他人の恋人になっても。
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どうしようもなく。
好きだった。
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