[角名] 淡々と重い愛
休日の夕方。
🌸はのんびりテレビをつけていた。
ちょうどスポーツニュースが始まり、
画面の端にりんちゃんの姿が映る。
「ん?練習か取材かな…」
なんて軽く構えていたその瞬間。
「速報:オリンピック日本代表・角名倫太郎選手が結婚を発表」
「……………………………………え?」
次のカットで、
りんちゃんが落ち着いた顔でインタビューに答えている。
「お相手は一般女性で…」
ズルッ。
🌸はソファからひっくり返った。
「ちょ、ま、え、は? 結婚? え? なんで? え???」
頭が追いつかない。
りんちゃんが結婚した。それは理解できる。
でも画面に出たのは“推しの”結婚。
「あ……お、推しの…け、結婚って……きいてない……!」
胸がバクバクして、身体がふにゃふにゃになる。
そのまま床に仰向けで固まっていた、そのとき。
玄関の鍵がカチャッ。
「……ただいま。……え、なんで転がってんの」
ゆっくり靴を脱ぎながら入ってきたのは、
テレビと同じ顔――角名倫太郎だった。
「りんちゃん……けっ、結婚……テレビ……ひっくり返った……」
「うん、見た。今。俺の嫁、床に倒れてた」
スマホを取り出す。
パシャッ。
「撮った!?」
「うん。面白かったから。
『自分との結婚発表で倒れた嫁』って普段撮れないし」
いつもの無気力声で、にやっとだけ笑う。
その余裕がまた苦しい。
角名はゆっくり近づき、床に転がる🌸の隣にしゃがむ。
「……そんな驚く?」
「お、推しの結婚なんて……!心臓止まるかと思った……」
角名はふっと目を細め、ため息まじりに笑う。
「止まられたら困る。
俺、嫁いなくなったら死ぬから」
言い方は淡々としているのに内容が重い。
角名はそのままひょいと抱え起こして、
膝の上に座らせた。
「……テレビの前で倒れるの、反則。
可愛すぎ。
ずっと見てたかった」
「見てたかったって何!?助けてよ!」
「倒れてすぐ助けたじゃん、写真撮ってから」
スマホを見せつける。
「これ、待ち受けにしよ」
「やめて!?」
「無理。俺の嫁が俺の結婚発表でひっくり返るとか、
一生ものの可愛さだし」
🌸は耳まで真っ赤。
角名は小さく笑って、額にコツンと自分の額を当てる。
「……大丈夫。
俺が結婚するのは🌸だけ。
他は絶対ない。
ってか、俺を嫁以外に触らせる気ないし」
淡々と重い。
けれど優しい。
「次はさ、ちゃんと言うね。
“聞いてから倒れろ”って」
「倒れないもん!」
「うん、倒れる。
だって今日倒れたし」
にやっと笑いながら抱きしめてくる。
「……ひっくり返る嫁、可愛すぎ。
これからもずっと俺の横で転がってて」
低い声でそう囁いて、
角名は静かにキスをした。
コメント
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え、ここが天国?