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『黒い百合』の本拠地が崩壊してから一ヶ月
横浜の埠頭で見た朝焼けは、束の間の休息に過ぎなかった。
志摩が海に捨てたハードドライブ。
それは組織を無力化するための「盾」を捨て、自らの身一つで闇と戦い続けるという宣戦布告でもあった。
俺たちは、新宿の喧騒から離れた古びたアパートの一室に身を潜めていた。
山城は傷を癒しながら、かつての伝手を辿って街の不穏な動きを探り
志摩は「死人」扱いとなった自らの立場を利用して、警察内部に残る組織の狗を一人ずつ炙り出していた。
「……兄貴。妙な噂を聞きました」
買い出しから戻った山城が、重い口調で切り出した。
「歌舞伎町の裏通りで、最近『顔のない男たち』が急増しているそうです。三和会の生き残りでも、阿久津の残党でもない。ただ、無機質に、目的を持って街の利権を塗り替えている……」
「……『黒い百合』はまだ枯れてねえってことか」
俺は窓の外を眺めながら、右手の拳を固く握りしめた。
拓海という「個」を失っても、組織という「システム」は止まらない。
それどころか、リーダー不在の組織は
より機械的に、より非情に、この国の『浄化』という名の虐殺を加速させようとしていた。
その夜、志摩が血相を変えてアパートに飛び込んできた。
「黒嵜、最悪の報せだ。……警視庁の公安部が、正式に『新宿一掃作戦』を閣議決定した」
「一掃作戦?」
「表向きは治安維持だろうが……中身は違う。組織にとって不都合な人間を、街ごと焼き払うつもりだ。標的リストの筆頭には、お前の名前がある」
志摩が差し出したタブレットには、衛星写真でマーキングされた新宿の地図が映し出されていた。
そこには、俺たちが育ったあの路地裏も、親父の事務所跡地も含まれている。
「……100日後に、この街は消える」
志摩の言葉が、冷たく室内に響いた。
組織は、自分たちが支配できないのであれば、すべてを無に帰す道を選んだのだ。
残された時間は、100日。
俺たちの戦いは、一組織との抗争から
この街、そしてそこに生きる「名前のない人間たち」を守るための聖戦へと変貌していく。
「……上等だ」
俺は壁にかけていた黒いジャケットを手に取った。
「100日かけて、奴らの根っこを一本残らず引きずり出してやる」
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