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蒸し暑かった。
蝉の声は煩くて、じっとりとまとわりつく夏の暑さは、僕とは正反対だと感じた。
君がいなくなってからもう数十年たった。
生きていたとしてもきっと寿命で死んでいる。
美しいこの景色も、君がいた頃のように、輝いては見えない。
これじゃあまるで、昔の奏みたいじゃないか。
奏はさくらを、僕を求めてた。
僕はひかりを、奏を求めてる。
ピアノは埃をかぶっていて、あの頃のものとは到底思えないくらい汚れていた。
サッと埃を手で払い、蓋を開けた。
「ドレミファソラシド」
意味もなくその音階を辿る。
なんでもよかった。
音を奏れば、君が戻って来る気がした。
そんな確証なんて、どこにもないのに。
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もう桜の花は散ってしまったのね。
あの人は、素敵な女性を見つけたかしら?
何故かは分からないけれど、咲藍 奏としての記憶を持ったまま生まれ変わった私。
今は白瀬 光という名前で生きている。
咲藍 奏はピアニストという夢を追いかけていたが、白瀬 光はミステリ作家として有名になった。
君の好きなミステリを書けば、きっといつか私を見つけてくれるんじゃないかって、ありもしない妄想を並べてた。
でもそれももうおしまい。
私はこの話に幕を閉じようと思う。
未練しかない。でも、恋愛においてそれは面白いのかもしれない。
だから私はこの小説を書く手を止めて、中途半端なまま終わりにする。
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光(続き………続きは……
私にもわかんないや。
この小説は没かな……
この校舎ともお別れ。
最後にピアノだけ弾いて帰ろう。
君との思い出を噛み締めるように、階段を一歩ずつ進んだ。
今まで綴ってきた文章が、本当のことだっていうのは私だけが知っていればいいこと。
もう会えないと思うと、知らないうちに涙が溢れてくる。
力を抜けばその場に倒れ込んでしまうほど、泣いていた。
そっと微かにピアノの音が聞こえた。
光(都市伝説?ベートーヴェンか。
ミステリの執筆に使えそうだな。
悲しい笑みだった。困り眉の。
こんな時でも、小説のことを考えてしまう私は、所謂小説馬鹿なのかもしれない。
◆
扉に手をかけた。/ピアノを弾くのを止めた。
自分の目を疑った。/後ろを振り返った。
「「大粒の/一筋の涙が頬を伝った。」」
光(……….桜空……….?
湊(……….奏………..?
光(今は光。
生まれ変わったの。でも貴方のことは忘れなかった。
言ったでしょう、運命は変えられないって。
湊(あはっ……!なにそれ…..ふふっ
そうだね、確かに言ってた。
私たちは見つめあった。
そして、深い深いキスをした。
「「二度と離さない。」」
第10話「epilogue」
[追記]
書き直し+上げ直し