テラーノベル
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一行が食堂へと向かうと、そこには花影の戦士達が集まっていた。テーブルには出来たての料理が湯気を立てながら並んでおり、そのテーブルを囲むように戦士達が座っている。食堂の前に立っていたサザンカに促され、3人も席に着いた。
テーブルに並んでいるのは豪華な料理で、どこか見覚えのあるようなものから全く見たことのないものまで様々だった。しかし、そのどれもが美味しそうな見た目をしており、凄腕の料理人が作ったのだなとすぐに分かるほどだった。未知の料理も、全てが美味しそうなものに見える。
その時、傍に居たサザンカが口を開いた。
「お腹がすいているでしょうから、どうぞいただいてください。料理人が腕によりをかけて作ったものです。お口に合うといいのですが……」
ヴィアはナイフとフォークを手に取ると、まずローストターキーを切り分け、口に運んだ。絶妙な焼き加減でとても柔らかく、いわゆる催事の時に食べるようなものだった。もちろんヴィアも何度か口にしたことはあったので、ただ美味しいローストターキーだなと思いながら咀嚼し飲み込んだ。
他にもシチューやスパゲッティなど、元の世界でも食べたことのある料理を食べてみた。味はどれも絶品で、サザンカの言う「料理人が腕によりをかけて作った」ということは嘘ではないことが分かる。
(そして、これは……)
ヴィアは見たことのない料理に視線を向ける。その料理は、見た目はただの魚のグリルだった。だが、見たことのない種類と大きさの魚だった。数品食べてみて、料理人の腕が一流ということは分かった。しかしこれがどのような味付けなのかは分からない。意を決して、ヴィアは魚を一口食べた。
「……!」
やはりと言うべきか、その魚も絶品だった。身は柔らかく、味付けはピリ辛程度のものと言ったところだろうか。隣では、初めて見る料理に手をつけるべきか迷っていたであろうサウカとアスターがヴィアを見つめている。それに気付いたヴィアは、魚を飲み込むと口を開いた。
「この料理、とても美味しいですよ」
ヴィアの言葉を聞いた2人は、しばらく顔を見合わせる。しかし、どちらもすぐに魚のグリルを恐る恐るといった様子で口に運んでいた。サウカはぱっと目を見開き、アスターはうんうんと頷いている。そして、2人は魚を咀嚼して飲み込んだ。
そんな様子で3人の周囲のテーブルでは食事が進む。段々とその場に慣れてきたのか、ぽつりぽつりとだが会話も交わしていた。
食事が終わると、サザンカから「良ければどうぞ」と紅茶が出てきた。あんな話をした後では何か薬を盛り込んでいるのではと疑いたくなってしまい、3人は手をつけられずにいた。
その時、真後ろから足音がする。食堂の中の喧騒にかき消されそうな程小さなものだったが、ヴィアの耳はその音を拾った。振り返ると、そこにはレイラが立っていた。
「紅茶、飲んでいないんだな。あの女が疑わしいのか?」
テーブルに置かれている、全く減っていない様子の紅茶を見たのであろう。ティーカップを見ながら、彼女はぽつりと呟いた。どうしてそう思ったのか、とヴィアが問いかけると、レイラは客人は大体サザンカのことを疑うから、と答えた。それに、どうやら花影の戦士──主に下級戦士の中では、サザンカを疑っている者達が一定数居るらしい。
「花影の戦士の中にも、あいつを疑っている人間はそれなりに居る。お前達がそう思うのも当然かもしれないな」
「なるほど……」
その事実がヴィアは少し意外だった。全員が彼女に忠誠を誓って彼女の部下となっているとばかり思っていたのだ。レイラの話を聞くには、サザンカ自身が、自分への評価をあまり気にしないタイプだからそうだ。
「何の話でしょうか? わたしも混ぜてくださりませんか?」
「うわぁっ!? サザンカさん!?」
突然ふらりと現れたサザンカ。話題の中心に居た人物の登場に、サウカが驚いて声を上げる。サザンカは笑みを浮かべながら「何の話でしょうか」と言ったが、話の内容を聞いていた、もしくは理解していることはすぐに分かった。それに気付いたのか、レイラは眉をひそめながらサザンカをじっと見つめる。
「……盗み聞きなんて趣味が悪いな」
「おや、人聞きが悪い。わたしは盗み聞きなんてしていませんよ。ここを通りかかったら、たまたま皆様の話が聞こえてきただけです」
レイラがぼそりと呟く。すると、それを聞いたサザンカはわざとらしく肩をすくめた。日中の彼女は凛としている女性のような印象を抱かされたが、今の彼女はやけに陽気に見える。
サザンカは紅茶が注がれているティーカップへと目を向ける。その中身が全く減っていないことに気付いているのだろう。
「要らないのであれば下げましょうか? 疑心暗鬼の状態でわざわざ飲む必要もありませんし」
サザンカは相変わらず感情の読めない笑みを浮かべている。怒っているようにも悲しんでいるようにも見えない。それどころか、レイラの言う通り、ヴィア達から見たサザンカの印象を全く気にしていないようだった。
茶を出した本人からそのように言われたからか、ヴィア達は紅茶を下げてもらうことにした。そのことを伝えられた彼女は微笑み、静かに頷く。3人分のティーカップをトレーに乗せると、そのまま厨房の方へと去っていった。その時、今度は近くで何やら談笑していたハドレアとテリオスがその様子を見て近づいてくる。最初に口を開いたのはハドレアだった。
「貴方達、サザンカさんが言ってた人達だよね! さっきぶりだね、こんばんは! ねぇ、テリオスはもう会った?」
「あぁ。……話し合いをしていた時にな」
ハドレアは人当たりのよい笑顔で3人に向けて挨拶をする。そして、テリオスの方を振り向きながらそんなことを尋ねた。テリオスは、3人をじっと見つめながらも頷く。
「実はさっきちらっと見たんだけど……紅茶、飲んでなかったの? 勿体ない! サザンカさん、紅茶淹れるのすごく上手なのに!」
飲まないんだったら私が欲しかったなー、と言いながらハドレアはがっくりと肩を落とした。彼女にとってサザンカの淹れる紅茶はそんなに特別だったのか、とヴィアは少しばかり驚いた。先程、庭園に案内されたばかりの時に飲んだものは確かに美味しかったが、それでもそこまで変わるのだろうかとヴィアは不思議に思った。そこで、ヴィアは単純な疑問を2人にぶつけた。
「お2人から見たサザンカさんは、どのような方なのですか?」
「それは私も気になるね。一介の客人である私達と、長い間一緒に居る貴方達とでは、大分抱く印象が違うだろうから」
「あ、そうだね。僕も気になるな」
アスターもその話に食いつき、興味津々といった様子で2人を見る。すると、ハドレアはしばらく考え込んだ後に口を開いた。
「ん〜、印象か……。私から見たサザンカさんはとってもいい人だよ! すっごく頼もしいし!」
頷きながら、テリオスもハドレアのその言葉に続く。
「あぁ、同感だな。しっかりしているし、信頼できる。問題も起こさなそうだしな」
「なるほど……」
2人から語られるサザンカへの印象を聞き、ヴィアは深く考え込む。一部の戦士達がサザンカへと疑いの眼差しを向けているのも事実だが、それ以上に彼女を信頼し慕っている者達も居る、ということだ。2人の話を聞き、ヴィアは尚更サザンカという少女の人間像が分からなくなっていく。
そこで、ハドレアはハッとしながら呟いた。その目は、レイラの方をじっと見つめている。
「そうだ! レイラはサザンカさんのことどう思ってるの? この際だから聞いてみたいなぁ!」
「は? ……いや、なんか居るな、って。それだけだ」
「そう言っちゃって、本当はそれなりに信頼してるんじゃないの? 素直じゃないんだから!」
突然自分が話題に上がったことに驚いたのか、レイラはしばらくの間硬直する。次の瞬間にその口から飛び出てきたのは「無関心」とも取れる言葉だった。しかし、ハドレアは本当はそんなこと思っていないのではないか、と疑いをかける。
いつの間にか、ハドレアとレイラによる口論(とも言えない何か)が始まる。ヴィアはどこかで試合開始のゴングが鳴ったような気がして、ひとまずこの場を離れておこうと2人に目配せをする。2人も同じ気持ちだったようで、こくりと頷くとそっと席を立った。テリオスを置いていくのは少し憚られるような気もするが、彼なら大丈夫だろう。否、大丈夫であると信じたい。
食堂を出ると、廊下は心地よい程度に冷えていた。食堂は明るく暖かい場所だったので、その冷たさが丁度良い。扉を一枚隔てるだけでも、食堂の喧騒が随分遠くに感じられた。
「──ないです。──は──ですから……」
「それじゃあ、──は? ──して──すると、その場合の──は……」
廊下に出ると、何やら誰かが話し合っているような声が聞こえてくる。周囲を見回すと、そこにはルーファとフォーリーフが居た。2人は食堂から出てきたヴィア達に気付き、ルーファがひらひらと3人に向けて手を振った。
「あ、サザンカさんのお客さん達じゃ〜ん。元気元気〜? 俺は元気〜」
「こんばんは、皆様。どうかされたのですか?」
フォーリーフからそう尋ねられ、ヴィアは正直に食堂でのちょっとした出来事とそこから気になったことを話した。すると、ルーファが興味津々といった様子で両目を光らせたのが見えた。まるで、面白いことを聞いた、とでも言わんばかりに。そして彼が口を開く。
「なんか面白そうな話してんな〜! ね、俺も混ぜて? サザンカさんへの印象についてでしょ?」
ルーファは首を傾げながらそう言うと、しばらく考え込む素振りを見せる。そして、「あ!」と声を上げながら言った。
「やっぱ一番信頼できる人かな〜! ちょーっと怪しく見えるかもしんないけど、俺は困ったことがあったらひとまずサザンカさんのところに相談しに行くかも。あの人、めちゃくちゃ聞き上手だからなぁ。フォーリーフはどう思う?」
「……私、ですか? 私も、サザンカさんのことは信頼できる方だと思っていますよ。頼りになる方ですしね」
ヴィアは彼ら──特にルーファがサザンカのことをとても信頼しているように見えたのが少し意外だった。信頼していたとしても、何かあった時に真っ先に相談をするとは思っていなかったのだ。やはり、数の多い花影の戦士達をまとめ上げるリーダーであるからか、とても頼りになるのだろう。ヴィアはそんなことを思った。3人はルーファとフォーリーフに礼を言い、客室へと戻っていく。一行は途中でレインにも尋ねてみようかとも思ったが、彼の姿が見当たらなかったため諦めた。
コメント
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みんなの個性的なキャラめっちゃ好き!!! 続き楽しみ!
今回もめちゃくちゃ良かったです!!!! そんな風に主人公達が言っているのなら きっと…その並べられた料理達は とても美味しそうに見えますし 美味しいのでしょうね…!!! あー…本当に一度でも良いから 食べてみたいです…(?) なるほど…強い?有名?な戦士達には とても信頼されている様ですね!!! 一部の人が疑っていたとしても 本当にサザンカさんは慕われてますね〜 次回も楽しみに待ってます!!!!