コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
東京→日本。
都道府県×日本とかいうドマイナーCPです。
アメリカさんもまるでお前は彼氏かよと思うくらいに出しゃばりますが、それでも良い方はお進み下さい。
ずっと、好きな方がいる。
その方は誰からも愛される天性のタラシで、
一緒に居るだけで太陽の下にいるかの様な安心感を覚えさせてくれる。
大好き、敬愛している、貴方が欲しい。
そんな薄っぺらくお安い言葉では表現しきれないくらい、私はあの方に狂ってしまったらしい。
そして、そんな自分の想いにも気付かず、
今日もあの方は鈴の音の様に優しい声で私の名前を呼んでくれる。
『東京さん!』
あぁ、あぁ。
ドックンドックンと高鳴る心臓に、外まで音が漏れていないか心配になる。
いや、そんな事も気にならないくらい嬉しいのだ。
あの方の部下として生きている今が、
東京都というあの方にとって必要不可な存在でいられる今が。
私にとって、世界一幸せな瞬間。
「日本さん、何か御用ですか?」
はぁ、自分なんかの事で用事を作って下さるなんて舞い上がりそうな気分だ。
この方になら、月を取ってこいと言われたってやり遂げてみせる。
『ちょっとお仕事に空きができたんです。
折角東京にいるんですし、もんじゃ焼きとか浅草観光とか色々!東京さんと遊びに行きたくて!』
あぁ、そういえばこの方は食べ物に目が無いのだった。
貴方の為なら熊の手だろうがエスカルゴだろうが完璧に調理してお出しするのに。
そんな簡単なこと、喜んで引き受けますよ。
「….!!是非。
我が都で日本さんに満足して頂けるのでしたら、光栄の極みです。」
『ふふっ、もう。東京さんったら大袈裟ですねぇ』
口元を隠して笑う仕草すら、他人がやれば背景の一部。この方がおやりになると花すら霞む。
この方を見、声を聴き、お話できる事が私の生まれてきた意味。
私にとっての、唯一の光──────。
でも、光は永遠には続かない。
「あっ、見つけたぜ!
おーい!!Japanーーーー!!!!」
ガバッ!と不躾に祖国を抱き込む大柄な男。
この国ではあまり付けている者を見かけないサングラスに、フワフワの首元が特徴的なダウンジャケット。
世界の全てを気取る、横暴な最強の男。
『あっ、アメリカさん!?』
「よう!!Japan、久しぶりだなっ!」
『貴方っ何で此方に!?ボディーガードは!?上司にも報告したんでしょうね?!?!』
慌てる祖国様の声と、小さなことだと笑い飛ばす覇権の男。
傲慢な奴、その御方に御心配を掛けておきながらよくもそんな態度でいられるものだ。
私なら二度と同じこと轍は踏まないが、この男ならまたやるだろう。
つくづく、忌々しい。
「………..アメリカさん。
あまり祖国様を困らせないで頂けませんか」
「ん?あぁTokyoか。久しぶりだな!
悪ィ悪ィ、Japanが困ってんの面白くてつい(笑)」
『もうっ…アメリカさん!!』
ぷくーっと頬を膨らませて怒る祖国様。
愛おしすぎる。近くにカメラ屋は無いのか。
何百万でも払うから今すぐ一眼レフを買いに行かせて欲しい。
『それと、お誘いは嬉しいのですがまた今度にしてくれませんか?』
「Huh? 何でだよ?」
「だって、今日は……」
アメリカから目を離した祖国様は、カラスの羽の様な神秘性に満ちた瞳でこちらを見る。
『今日は、東京さんとデートですからね!』
一瞬、夢かと思った。
祖国様と…あの祖国様と、デート?
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
この上なく、嬉しい!!!!
いつも私以上の存在に囲まれている祖国様。
誰よりも近い距離にいるけれど、決して隣に立つことは許されない祖国様。
国と都道府県の関係上、キスどころか想いを伝えることすらはばかられる雲の上の存在。
そんな祖国様と、二人っきりのデート。
「祖国、様。」
私の醜い感情に気付いていないであろう祖国様は、何も知らずに無垢な瞳をこちらに向ける。
ずっとこのままなら良いのに。
『何ですか?東京さん。』
「いえ、その….私めとデートなんて、祖国様はお嫌では無いのかと…」
『えぇ!?そんな事ないですよ、寧ろデートという表現は東京さんが嫌でしたらすぐにやめ「そのままで大丈夫です、ハイ。」そ、そうですか…?』
チラッとアメリカの方を見ると、かなり不服そうな顔をしている。
いくら祖国様とのでで、デー….ト、とはいえ、アメリカ相手に外交で差支えがあるのも困る。
後で菓子折りか日本限定のハンバーガーでも送っておいてやるか。
「はーっ、仕方ねぇな。今回だけだぜJapan」
『申し訳ありません、先約でしたので。』
「その代わり次は何が何でもオレ優先にしろよ!
あ、でもその前にちょっと貿易関連で話し合いたいことあるからそこのカフェで話そうぜ」
『う…承知しました。すみませんが東京さん、すぐ戻りますので少し待って頂けますか?』
「はい。
ここから最寄りの霞ヶ関駅におりますので、終わりましたらご連絡下さい。」
祖国様、祖国様。
この想い届かずとも、私はずっと貴方を好いていますよ。
カフェ内:
白を基調としたスタイリッシュな雰囲気のカフェで、日本とアメリカは向かい合って座っていた。
幸い大したものでもなかった為、簡単な確認事項だけ済ませて終わった。が……
「なぁー、日本。」
『何ですか?アメリカさん。』
アメリカの “日本” 呼び。
重要な話がある時は自然とこの呼び方に変わる。
「お前、東京のことどうするつもりだよ」
『何のお話でしょうか』
「とぼけんな。あいつがお前のこと好きなのは一目瞭然なんだよ。
おまけに、それはお前も同じなんだろ?」
黒いサングラスの隙間から、碧い眼光がギラリと光る。
…そんなに怖い顔しないで欲しい、こっちだってそれなりに悩んでいるのだから。
『……..どうするか、ですか』
「想い伝えるくらい何だってんだよ。
イタリアとかフランスは自国民にすら手出してる位だぜ?」
『あの辺の方々は最早そういう文化ですので…私には到底真似できないかと』
「多様性は今や世界の主流だ。ちょっとは素直になっても良いんじゃねぇの」
『駄目なんです。』
カップを持つ手が震える。
絞り出すように、日本は告げた。
『迷惑、なんですよ。私なんかに告白されたって』
「……….」
『分かるでしょう?国と都道府県は、同じ化身でも立場も全然違うって。』
想いの丈を伝えるという行為自体は非常に簡単だ。たった4文字「好きです」を言えばいいだけなのだから。
難しいのは、それができる状態になるまでの工程全てである。
そして、国と都道府県という変わることの無い主従関係の前では、愛し合うなど決して許されない。
しかし日本にとっては、
想いを拗らせて歪んでいく東京の姿が哀れで痛々しく、段々彼を直視出来なくなっていきそうだった。
『….ねぇ、アメリカさん。』
ぽつり、日本が呟いた。
『私が消え去ってしまえば、あの人は救われると思いますか?』
「…..ッ!おい、そんな事冗談でも言うなよ」
気色ばむアメリカに対し、日本はいつもの底の見えない顔で笑う。
アメリカもアメリカで、徐々に表情が複雑なものになる。そして語りかけた。
「…………そんなに、好きなのか」
思いもよらない問いかけに、日本は一瞬目を丸くする。
しかし、すぐに切なげな表情で微笑んでみた。
『そりゃあもう、狂ってしまうくらいには。』
泣き出しそうになりながら笑う日本を前に、アメリカはそれ以上何も言うことは無かった。
一言、頭の中でこう思った。
(難儀な奴らだよな、お前らも。)