テラーノベル
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ジージー、ジリジリー…
うるさい
ジリジリジリジリ…
うるさい、静かに寝かせてくれ
ジージー、ジリジリ…
「これは×××ゼミといってね。
今は絶滅してしまったけれど、昔の日本には×××××××くらいいたんだよ。ほら、よく聞いてごらん…」
聞き馴染みのある声が聞こえる。
───父さんだ。
父さんが何か話しているのか…?
「父さん、そこに居るのか!?
ずっと謝りたかったんだ!あの時から、ずっと…ッ!」
気がつくと、そこには見慣れた景色が広がっていた。
「父さんは…?
───あぁ、全部夢…だったのか。」
あれからどれほど時間が経ったのだろうか、辺りはとっくに暗くなっていた。
─それよりも気になるのは…
「なんで俺、生きてんだ…?」
脱水症状になって気を失ったのにも関わらず、自分は今生きている。それどころか、なぜか喉の乾きが無くなっているのだ。
「一体どうして…?」
色々と疑問は残るものの、まぁ考えてもしかたがないので、とりあえずチャットAIロボットを起動した。
『おはようございます。現在時刻は午後6:24分、です。今日の天気、は、晴れ。です。気温は…』
俺が使っているロボチャ(ロボットチャット)は百均の安物なので、話し方が独特だ。可愛いだろ?
『ニュース速報、を、お届けします。本日午後6:00頃、青森県青森市で強盗殺人事件が発生し、47歳の女が現行犯逮捕されました。』
「青森市って…俺が今住んでる所じゃん……」
そんな物騒な事件があったんだな〜と、呑気に聞き流していると、耳を疑うような内容が聞こえてきた。
『今回逮捕された”佐藤 リリア”容疑者は、本日午後6:00頃、一人暮らしをする男性のマンションに、合鍵を使って侵入し、金品を盗んだ後男性をナイフで殺害した所を家族が目撃し、逮捕に至ったとの事です。』
そのニュースを聞いた瞬間、部屋に鳴り響いていた一切の音が聞こえなくなった。
オバチャンが…?
“佐藤リリア”
─俺がいつもオバチャンと呼んでいる人物だ。
この嘘で塗りつぶされた世界で、唯一嘘をつかないのは”テレビニュース”。その中で信憑性が最も高いのは、誰かが逮捕されたという内容だ。
「そんな訳がないだろ!」
と、いくら主張してもそれがフェイクニュースに変わる事なんてない。…なぜならそれは事実だからだ。
「…
……
………はは、
…やっと、やっと見つけた居場所だったのになぁ〜」
俺は4歳の頃に父親が戦死、そして14歳の頃に母親が病死した。
クラスメイトや先生も最初は心配してくれたが、やがて気にもとめなくなった。
「親が居ない一条 シン」
その肩書きが当たり前になったのだろう。
そりゃそうだ。世の中もっと辛い人なんてたくさんいるし、誰かを常に気にかけてやれる程、心に余裕がある人間なんて居ない。
─分かってる、ちゃんと分かってる。
だが、当時の俺にはそれを完全に受け止められる精神力が無く、引きこもりの不登校になった。
そんな俺を支えてくれたのは、”佐藤 リリア”さん。…オバチャンだった。
母親の葬式の時、奇声を上げながら泣いていたオバチャン。最初は「なんだコイツ頭おかしおかしいんじゃないのか…?」と、子供ながらにもドン引きした記憶がある。
慰めがてら話を聞いてみると、酷い喘息で、生前に内科医をしていた母の元へよく通っていたのだそうだ。
その事をオバチャンはニコニコしながら話してくれた。
「ほんとに優しくてねぇ〜、…まるでナイチンゲールのようだったわ。」
そんな事を簡単に言ってしまうオバチャンが可笑しくて、母が死んだ悲しみも忘れて、笑ってしまった。
───それから「近所だから」と言って毎日のように家に遊びに来てくれた優しいオバチャン。
「そんな人が強盗殺人なんてするはずない。」
そう思い、俺はオバチャンが今留置されている刑務所へと足を運んだ。
「面会がしたい」という申請を出すと、意外とあっさり許可を貰えた。
一歩、二歩と無機質な廊下を重い足取りで進むと、面会室が見えた。
中に入ると、既にオバチャンが1枚のプラスチックの壁を隔てて座っているのが見えた。
──聞きたい事は一つ。
俺の姿を見たオバチャンは、いつもと何一つ変わらない笑顔で迎えてくれた。
「あらぁ〜!シンちゃんじゃないの〜!…なに、寂しくなっちゃった?寂しくなっちゃったのぉ〜??」
「そんな訳ないだろ、普通に会いに来ただけだし。」
オバチャンの煽るような表情と言葉に少しムカついたが、同時に「元気そうでよかった」と安心したのも事実だ。
─さて、質問に移るか
「なんで金を盗もうとか考えたんだ。…お金に困っている訳じゃないのに。」
これが一番の謎だった。毎日ご飯が食べられて、病院に通うお金もある。…それなのに何故、金を盗むなんて行動を取ったのか。
──その答えは案外あっさりと、そしてすぐに返ってきた。
「…アンタも知っての通り、アーシはね、ある研究をしているの。」
初耳だ。
「…研究って?」
俺の質問に対する返答は、予想を遥かに上回るものだった。
「2xxx年。…今を変えるための研究よ。」
2xxx年。
現在の日本は地域紛争が絶えず起こっている。それに加えて地球温暖化の進行、移民の増加…などの問題が日本全体を圧迫している。
その影響により、かつて「世界三位の経済大国」と呼ばれていた2030年と比べて、日本経済は遥かに厳しいものとなった。
学校に通えない子供が増え、最近では食料問題が懸念されている。
───そんな日本を変えるには、何が必要なのだろうか。
2xxx年。
第1話 ケツダン
「今の日本を変えるための研究…ねぇ〜…」
そんな壮大な事を言われても分からない。…というか質問の答えになってなくないか、それ。
「そんな事考えた事も無かったな。…というか、それと今回の強盗殺人との関係性が分からないんだけど。」
「……そうね、結論から言うと…まぁ、研究費用が足りなくなっちゃったと言いますか…」
よくある話だ。
実際に大学でも、途中で研究費用が足りなくなってしまうケースなんてザラにある。
「でもそれってさ、途中で研究中断したり、実験回数減らしたりして対処するものじゃないの?」
「ん〜、まぁ確かにそうね。…でもね……」
その瞬間、オバチャンの目つきが変わった。
「研究期間を伸ばしたり、実験回数を減らしたりしたら真実に辿り着くまでの道のりが長くなるじゃない?
……そうなるくらいなら、アーシは人を殺してでも研究費用を手に入れる。」
「っ、」
毛が逆立つような感覚が全身に広がった。…人を殺した事を認めたのだ。
人は熱中すると周りが見えなくなるというが、これはそんな生易しい言葉じゃ言い表せない。
「狂ってる…」
「あっははは!そうね、アーシは狂ってるのかもね。」
そうゲラゲラと豪快に笑ったオバチャンは、先程のおかしな気配は完全に消え去っていて、いつもの柔らかい雰囲気に戻っていた。
「…でもね、シンちゃん。よく考えてみなさい。”本当にこのままでいいのか”ってね。」
ふぅっ…とため息をつくと、オバチャンは言葉を続けた。
「アーシはきっともう研究はできない。…出所後もアンタに会うのも控えるわ。変な目で見られたくないでしょう?」
「…」
オバチャンの言っている事は事実だ。出所後とはいえ、殺人鬼と話をしているところなんて誰かに見られたら、どう思われるか分からない。
─でも、正直言うと出所後はまた毎日話したいのだが、それが言葉になる事は無かった。
「じゃあ、アンタに人生の選択肢を与えるわ。」
「選択肢…?」
「働いて資金を貯めて、アーシの研究を引き継ぐか、今の生活保護に頼りきった引きこもり生活を続けるか。…アンタが生きている間に決めればいいわ、好きな方を選びなさい。」
そして、面会時間終了の知らせが届いた。
「じゃあね、シンちゃん。…愛してるわよ〜っ!」
そう言うと、オバチャンは扉の向こうへと消えて行った。
「愛してる…か。ははっ、相変わらずだなぁ、オバチャンは。」
刑務所の外に出たシンは、深く息を吸い込むと、覚悟を決めた。
「よし、まずは働くか。」
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