テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
もちぷよ
46
やわしゅん狂
247
はる☻
45,450
「じゅう、ほんまに大丈夫なん? 気分悪ない?」
心配そうに何度も何度も尋ねてくるしゅんに、僕は繋いだ手に少しだけ力を込めて、小さく頷いてみせた。
しゅんは本当にホッとした顔をして、空いた片手で僕の髪を愛おしそうに優しく撫でてくれた。
やがてはやちゃんが息を切らせてお医者さんと一緒に病室へと戻ってくる。
「山中さーん、大丈夫ですか? 意識ははっきりしていますか?」
「………はぃ、……」
この後、お医者さんが僕の目の前にライトを当てたり、いくつかの反射の検査をしながら、昨夜の詳しい症状を説明してくれた。
倒れた衝撃で頭部を切ってしまい、数針縫ったこと。
その時の出血がひどかったために、急遽輸血を行ったこと。
軽い脳震盪を起こして一時的に意識を失っていたこと。
精密検査の結果としては、脳には特に大きな異常は見られず一安心だということ。
そして、このまま何日間か入院して様子を見て、何もなければすぐに退院して家に帰れるとのことだった。
お医者さんの言葉を聞いて、張り詰めていたすべての緊張が解けたのだろう。
医師と看護師が病室から出ていき、ふたたび部屋に三人きりになった途端、しゅんとはやちゃんは緊張の糸が切れたように同時に深くうなだれ始めた。
『はぁーっ、もう、マジで焦ったわぁー…。寿命が五十年は縮んだわ』
「うぅ、じゅう〜……っ。俺なんて、ほんまに生きた心地がせんかったんやからな……っ」
しゅんに至っては立ち上がる気力も残っていないのか、僕の寝ているベッドのシーツに頭を突っ伏してごにょごにょとずっと小さな声で文句を言っている。
「……しゅんも、はやちゃんも……心配かけて、本当にごめんね」
『もーう……ほんとだよ! マジで心臓が破裂するかと思ったわ、はぁ……。……なぁ? 舜太!!』
「ほんまやよ〜。もう、やっと見つけたと思ったら目の前で急に倒れるんやもん……ほんま焦ったんやからな!!」
はやちゃんに同意を求められ、しゅんはベッドに突っ伏したまま上目遣いで僕をじっと見つめてきた。
その大きな瞳には、また大粒の涙がじんわりと浮かんでいる。
「……なんか、急に身体の力が、すぅーっと抜けちゃって……」
「まぁ、こうして大きな後遺症もなく無事やったんやから……ほんまに良かったわ」
しゅんは僕の手を自分の頬にすり寄せるようにして、両手でぎゅっと大切そうに包み込んだ。
その大きな瞳から溢れた涙が、繋いだ僕たちの手の上にぽたりと零れ落ちていく。
しゅんはその涙を拭おうともせず、ただ僕が生きていることに心底安心したように、ひどく優しく笑った。
『こいつ土砂降りの雨の中、お前を走って探してくれてたっぽいぞ。……舜太が先にこいつを見つけてくれて良かったわ。まじでサンキュな、舜太』
「……何言うとんよ。俺のほうがありがとうやわ。へへっ」
しゅんは僕の手を頬に当てたまま、少し照れくさそうに鼻をすすって笑った。
「……二人とも、助けてくれて本当にありがとね」
ベッドの上から二人の大好きなヒーローたちを見つめ心を込めてお礼を言うと、二人とも世界で一番優しくて温かい微笑みを静かに僕に向かって返してくれるのだった。
病室の中に穏やかな笑い声が戻ってきた。
そうして僕たちの空気がようやく和らいだ、まさにその時だった。
しゅんがベッドに突っ伏したまま、思い出したように勢いよく顔を上げて唇を尖らせた。
「でもな? じゅう、聞いてや!! 俺な? 雨の中で、はやちゃんに思いっきり胸ぐら掴まれて怒鳴られてん!!」
「え……っ!?」
しゅんの言葉に驚いた僕は、大慌てではやちゃんの顔を鋭く見つめた。
いくら僕を心配してくれていたからって、流石にそれはやりすぎなんじゃ……。
『いや、だって……お前、前科あるだろ。だからてっきり、またお前に何か酷いことされたんじゃねぇかって思って……。舜太、まじでごめん。俺の早とちりだったわ』
はやちゃんは耳の後ろを赤くしながら、本当にバツが悪そうに、素直に頭を下げてしゅんに謝罪した。
「前科って……。そ、それはほんま、そのことは自分でも申し訳ないと思っとる。ほんまにごめんなさい。でもな、俺、もう二度と同じ事はせんよ。約束する」
『まあ、最初はお前にキレちまったけどさ。あの後、お前がなりふり構わず、一刻も早く柔太朗を温めて救おうと必死になってる姿を見てさ。……あぁ、こいつも俺と同じくらい、命がけで柔太朗を守りてぇんだなって分かったからよ。もう、心配はしてない』
「はやちゃん……ほんま、ありがとう。……俺、じゅうを傷つけてまったこと、ほんまに一生忘れられんくらい後悔しとる。やから……もう二度と、あんな悲しい思いはさせん。俺が、じゅうを世界一幸せにするんや」
しゅんの声は、さっきまでの茶化すようなトーンとは違って、ひどく低く熱を帯びていた。
自分の犯した過ちから目を背けず、真っ直ぐに僕の未来を背負おうとしてくれる彼の言葉に、胸の奥がキュンと甘く弾けた。
『お前、マジでそれだけは死んでも守れよ? もし次、こいつを傷つけるようなことをした日には……俺、お前のことマジで一生許さねぇからな!』
「わかっとる。約束する。絶対に、俺がじゅうを守る」
しゅんの瞳に昨夜の狂気とは違うどこまでも真っ直ぐで強い決意の光が宿る。
「あの〜……、」
僕はベッドの上から、少しだけ遠慮がちに大きな声を出す二人の男の間に割って入った。
僕のその掠れた声に、しゅんとはやちゃんがまるで打ち合わせでもしていたかのように同時にピタッとこちらを振り返る。
昨日まであんなにバチッバチに火花を散らして睨み合っていた二人が、一体いつの間にこんなにお互いを認め合うような仲になっていたのだろう。
「あ、いや……なんかね?二人とも、いつの間にか凄く仲良くなったなって思って……」
『……あ〜、まぁな!! 俺、舜太のことは普通に気に入ったわ。お互いお前のことで熱くなりすぎてただけで、話してみたら普通に性格も合うしな!』
「え、はやちゃんにそう言ってもらえるん、めっちゃ嬉しいわぁ〜。実は俺も、はやちゃんとは根本的な性格が合うと思ってたんよ〜」
二人して少し照れくさそうに顔を見合わせて、にこにこと笑い合っている。
……うん、それなら良かった、のかな?
僕にとって大好きな2人がこうして笑い合ってくれているのは、僕にとっては奇跡みたいに嬉しいことだった。
でも、僕が意識を失って運ばれている間、この二人は一体どんな話をしたのだろう。
「ねぇ。二人で、一体何を話してたの?」
「え〜、それはじゅうには内緒やなぁ〜。なぁ? はやちゃん」
しゅんは楽しそうに悪戯っぽく笑うと、はやちゃんに同意を求めるように視線を送った。
『おう! じゅうちゃんには絶対内緒だな! ふははっ! まあ安心しろ、お前の悪い事は一言も言ってねぇから〜』
「ねぇ、気になる! やだ、教えてよ! 隠されると逆に怖いんだけど〜……」
「な〜んもないで? 俺らはただ、じゅうの事が世界で一番大切やってことを、男同士でじっくり話しただけやしな! なぁ?」
しゅんが何でもないことのようにさらりと口にした言葉に、今度ははやちゃんの方が大慌てで顔を真っ赤にした。
『お、お前……! それ、結構重要なところ言っちゃってんだけど!!』
「え、これ言ったらあかんかった?」
『いや、まあ……。……まあ、そういうことだからさ。柔太朗、何も心配すんな』
はやちゃんはぶっきらぼうに僕の頭を優しく撫でる。
「え〜、……うん。ありがとね」
なんだか有耶無耶に誤魔化されたような曖昧な答えだったけれど。
でも、大好きな二人がこうして仲良くなってくれたことがただ純粋に嬉しかったから、僕は一旦、それ以上追及するのをやめた。
to be continued……
コメント
1件
このままなごやかに終わるのか、、 それはちょっとさみしい、、 続編とか書いていただけるのなら 嬉しいですでもはやちゃん視点はみてて 心が痛いかも、、、、