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もちぷよ
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やわしゅん狂
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はる☻
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不意に僕は、意識が遠のいていくの中で乗せてもらったはやちゃんの車のことを思い出した。
あの時はただパニックだったけれど、お医者さんから『急遽輸血を行った』と説明されるほどの流血だったということは、あの土砂降りの雨の中、僕を温めるために寝かせてくれたはやちゃんの車の助手席シートも、今頃きっと大惨事になっているに違いない。
「ねぇ、はやちゃん…。車さ、雨と俺の血で、すごく汚しちゃったよね? 本当にごめんね」
『え、お前、あの辺の意識あんの?』
「うーん、断片的にだけど……」
『てか車のシートなんて全然いつでも洗えるからいいわ!お前はまず自分の身体の心配をしなさいよ。なんで目覚めて一番にそんな心配してんのよ』
はやちゃんは呆れたように息を吐き出す。
「だって…、じゃあせめて車のクリーニング代は俺に出させてね?」
「ふふ、じゅうはほんまに、どこまでも律儀やなぁ」
隣で僕の手を握るしゅんが愛おしそうにクスクスと笑った。
『大丈夫だって! 車のクリーニング代はこいつに払ってもらうから!』
はやちゃんが不敵に笑って、しゅんの鼻先をビシッと指差した。
「え、俺!? あぁ、まぁ、そうやな。今回のことは全部俺のせいやし当然やな。はやちゃん、額が決まったら遠慮なくすぐに教えてな!」
しゅんは至極当然のように、真面目な顔をして真っ直ぐに頷く。
『お、おぅ……お前も引くほど律儀だな…。別に普通に冗談だっつーの!』
「え?いや、全然出すで?ほんまに助かったし、感謝しとるんよ」
しゅんのその言葉に、はやちゃんは少しだけ驚いたように目を見開いたあと、どこか降参したように優しく笑った。
『……じゃあさ。柔太朗が元気になって退院したら美味いメシでも食いに行こうぜ!もちろん三人でな!』
「おー ええやん! なぁ? じゅう、三人で行こうや!」
「うん! 俺も行きたい!!」
『おう、じゃあ日程はまた合わせような!とりあえずお前は早く元気になれよ!
悪いけど、俺、連休明けでマジで仕事が山積みだからさ、そろそろオフィスに戻るわ。舜太、柔太朗のこと…、よろしくな』
「……おう。任せといて」
はやちゃんはスーツのジャケットを片手で軽く羽織ると、「じゃあな」と僕に向かっていつものお兄ちゃんの笑顔を見せて、そのまま颯爽と病室を後にしていった。
パタン、と静かにドアが閉まる。
ずっと僕を守り続けてくれた、世界で一番優しくて、かっこいい僕のヒーロー。
その広い背中が見えなくなったあとも、僕はただ、彼が残していった温かい熱に包まれながら、遠ざかっていく足音をじっと聴いていた。
胸の奥を優しく満たす、切ないほどの余韻。
「じゅう…? どうしたん、急に黙り込んで。まだ、どこか痛むん?」
ベッドの脇から僕の顔を覗き込むしゅんの優しい声が聞こえた。
はやちゃんを見送った名残のまま、僕は視線をゆっくりと隣の彼へと移す。
「ううん、どこも痛くないよ」
僕はそう言って彼の心配を消すように小さく笑うと、ベッドの脇に置かれたしゅんの手を、今度は僕の方からおそるおそるぎゅっと握りしめた。
さっきまでのはやちゃんとの賑やかなやり取りが嘘のように、静かでお互いの体温だけが輪郭を持つような穏やかな空気が満ちていく。
繋いだ手のひらからじんわりと伝わってくるぬくもりに静かに胸を委ねていると、しゅんが僕の手を優しく握り返しながらぽつりと語りかけた。
「じゅう、ほんま無理せんでな? 会社には俺からちゃんと連絡入れといたから安心してな?」
「あ、そっか……会社」
彼の言葉にハッとする。
窓の外の明るい光を見つめながら、僕は今日が金曜日なのだと思い出した。
「え、しゅん、会社は? もしかして俺のせいで休んじゃった?」
「有休取ったわ! 全然使い切れてへんかったから丁度良かったんよ〜」
「えー……ごめんね、俺のせいで」
「ええんよ。俺がじゅうのそばにいたかっただけやから」
しゅんはそう言うと、いつものようにふにゃりと眉を下げて笑った。
「……ありがと」
「ううん。あ、はやちゃんも、午前中の仕事をなんとか調整してここまで来てくれてたんやって。……じゅうのこと、ほんまに大事に思ってくれてるんやね」
彼は優しく微笑みながら、どこか遠い目をして呟いた。
しゅんがどのような意図でその発言をしたのか、今の僕には分からなかった。
はやちゃんへの小さな嫉妬なのか、それとも一人の男として彼を尊敬したからなのか。
でも、その穏やかで曇りのない彼の顔を見て、僕は心の底からホッとした。
ブー、ブー…。
その時、僕の手元でスマホが静かに振動した。
液晶画面を覗き込む。
「吉田さんから電話だ。仕事のことかも」
「あ、でもここ病室やし通話はあかんよな」
「そうだよね。…あー、じゃあちょっと待って、メッセージ送るから……」
「いや、ちょっと待ってな?」
しゅんは僕の言葉を遮ると、何かを思いついたように顔を輝かせて、背を向けてバタバタと病室を出ていってしまった。
一人残された僕は、仕方なく「今病院にいて電話ができないので、メッセージで用件をお願いします」と吉田さんに送ろうと、まだ少しだけ震える指先でスマホに向き合った。
パタパタパタ……!
しばらくすると、廊下を足早に歩く騒がしい足音と共に、お医者さんから借りてきたらしい大きな車いすを慣れた手つきでガラガラと押すしゅんが現れた。
「じゅう!お待たせ〜!」
「え、車いす??」
「だってまだ手足が少し痺れてるんやろ? 指先動かしてメッセージ打つより、直接電話で話した方が早いやろ!それに今のじゅうのよろよろな体調じゃ、ひとりで歩かせるんは怖くて見てられんわ!」
確かに彼の言う通りだった。
昨夜の今日で、まだ足元がおぼつかない自覚は十分にあった。
さっきから点滅する画面に向き合っていても、まだ「おつかれさ」の五文字しか打てていないスマホの液晶を苦笑いで見つめながら、僕は小さく「ありがと」と伝えた。
「よしっ! じゃあ、ちょっと身体持ち上げるわな!」
「え、ちょ、まっ、しゅん……っ!?」
拒絶する暇なんてなかった。
しゅんはベッドの横に屈み込むと、僕の身体をひょいと両腕で軽々と持ち上げた。
お姫様抱っこの体勢のまま浮遊感を味わったかと思うと、あっという間に僕は車いすのシートの上に優しく座らされていた。
「じゅう、ちゃんとご飯食べてるん? 軽すぎて、ほんま心配になるわ」
「食べてるつもりだけど……」
なぜか僕は昔から、どれだけ食べても太らない体質だった。
しゅんのこの逞しい腕や、はやちゃんの広い肩を見るたびに、僕だって本当はもっとがっしりとした男らしい体型になりたいとは思うのだが…。
そんな僕の密かなコンプレックスを余所に、しゅんは車いすの足元に回り込んで、僕の膝の上にそっとふわふわなひざ掛けをかけてくれた。
「看護師さんに聞いたら、フロアの隅にある談話室でなら電話していいらしいで! 外のテラスでもいいけど、どっちがええ?」
「……談話室でいいかな」
「ほな、行こか〜」
しゅんは当たり前のように僕の背後に回ると、優しく車いすのグリップを握り、ゆっくりと押し始めた。
廊下を進む車いすの微かな振動が、なんだか心地よくて胸が温かくなる。
「じゃあ、俺はその辺におるから。吉田さんとの電話が終わったらいつでも呼んでな?」
「うん。ありがとね、しゅん」
to be continued…
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