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ぽんぽんず
第6話
【ドSな皇帝の突き放しと、魔皇帝のプライド】
人間界と魔界の歴史に深く刻まれるであろう、不可侵条約締結のための初会談。
魔界の黒曜石の城、その最も格式高い会議室は、両国の重臣たちが放つ緊張感に包まれていた。
円卓の奥に座る魔皇帝アイラナは、内心、爆発しそうなほどの鼓動を必死に抑え込んでいた。
あの夜、王城で奪われた熱い口づけ。
「可愛いね?」
と囁いたあの男が、今、公式の特使として自分の目の前に歩み寄ってくる。
(……取り乱すな。私は魔界の王だ。今日こそ、あの男のペースに呑まれず、対等に渡り合って見せる)
アイラナは魔皇帝としての絶対的な威厳を纏い、背筋を伸ばしてアーモンドを迎えた。
だが――。
「初めまして、魔皇帝陛下。ミラディア帝国皇帝、アーモンド・R・ミラディオンです。このたびは我が国の提案に応じていただき、心より感謝いたします」
円卓についたアーモンドが放ったのは、ぞっとするほど冷ややかで、完璧にビジネスライクな声だった。
薄黄緑色の髪を揺らし、長い睫毛の流し目でアイラナを見つめるその薄紫色の瞳には、あの夜の甘さなど微塵もない。
まるで
「ただの初対面の取引相手」
としてアイラナを突き放すような、徹底した公式の態度。
(え……?)
アイラナの胸に、冷たい衝撃が走った。
あのキスは、あの言葉は、すべて幻だったのか。
自分だけが800年の想いに浮かされ、あの夜のことに囚われていたのか。
あまりの冷遇に、アイラナの誇り高いプライドにピキリと亀裂が入る。
ショックと困惑で、一瞬だけそのレッドダイヤモンドの瞳が、迷子の子どものように微かに揺れた。
――その瞬間を、鬼畜ドSの元天使が見逃すはずがなかった。
(あは、やっぱり。……最高にいい表情するなぁ、アイラナちゃん)
アーモンドは、周囲には絶対に悟られない一瞬の隙をついて、アイラナにだけ見えるように、形の良い唇を意地悪く吊り上げた。
両耳のレッドダイヤモンドのピアスをわざとらしく指先で弄び、
「君の瞳と同じ色のこれ、どうして僕がつけてるか分かってるよね?」
と無言で語りかけてくる。
あえて冷たく突き放し、アイラナの魔皇帝としてのプライドを刺激して揺さぶる。
威厳を保とうと必死にポーカーフェイスを装いながらも、内心で激しく動揺し、潤んでいくアイラナの瞳――その表情のすべてが、アーモンドにとって極上のご馳走だった。
「では、条約の具体的な項目についてですが……」
アーモンドは冷徹な
「完璧な皇帝」
の仮面を被ったまま、流暢に議論を進める。
だが、
彼が発する言葉の端々、視線の配り方、書類を手渡す指先の動きのすべてが、アイラナにだけ向けられた、あまりにも意地悪でサディスティックな精神的攻撃だった。
突き放されているのに、執拗に攻め立てられている。
アイラナは、魔皇帝としての仮面の下で、唇を噛み締めて必死に耐えるしかなかった。
(この、悪趣味な男……! 完全に私を弄んで楽しんでいる……!)
誰にも気づかれぬよう、机の下で拳をぎゅっと握りしめる。
そんなアイラナの限界ギリギリの強がりを見つめながら、アーモンドの薄紫色の瞳の奥には、さらにサディスティックで、ドSな愉悦の炎が激しく燃え上がっていた。
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