テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第7話【緊迫の晩餐会と、甘美な毒杯】
人間界と魔界、それぞれの重臣たちが居並ぶ中、1日目の議論は何とか幕を閉じた。
続いて始まったのは、両国の和睦を祝すための盛大な晩餐会である。
会場には魔界の珍味や最高級の美酒が並び、一見すると和やかな歓談の場が広がっていた。
だが、
円卓の最上席に座る魔皇帝アイラナにとっては、昼間の会議以上の針のむしろであった。
なぜなら、
すぐ斜め向かいの席に――あの男が座っているからだ。
「いやあ、魔界のお酒は本当に素晴らしいですね。ミラディアのワインとはまた違った深みがある」
アーモンドは正装の襟元を少しだけ緩め、にこにこと愛想よく魔族の宿老たちと杯を交わしている。
その姿は、昼間の冷徹な雰囲気とは打って変わって、噂通りの
「人当たりの良いお気楽な若き皇帝」
そのものだった。
昼間、あれほど冷たく自分を突き放しておきながら、他の魔族たちにはそんな風に笑いかけるのか。
アイラナは、魔皇帝としての威厳を保ち、黙々と美しい硝子杯を傾けながらも、胸の奥がキリキリと焼けるような嫉妬と困惑に支配されていた。
(私をあそこまで動揺させておいて……お前は平然と、そんな顔で笑うのか、レミエル……)
ポーカーフェイスの裏で、必死にプライドを保とうと唇を引き結ぶアイラナ。
だが、アーモンドがその瞬間を見逃すはずがなかった。
「そうだ、魔皇帝陛下」
不意に、アーモンドの薄紫色の瞳が、長い睫毛の隙間からアイラナを真っ直ぐに射抜いた。
その流し目には、昼間の冷酷さと、あの夜の妖艶さを綯い交ぜにしたような、極上のドSな光が宿っている。
「1日目の議論が円滑に進んだのは、ひとえに陛下の聡明さゆえ。……よろしければ、僕からの感謝を込めて、一杯注がせていただけないでしょうか?」
アーモンドは優雅に立ち上がると、手にしたボトルの重みを弄びながら、アイラナの席へと音もなく歩み寄ってきた。
周囲の臣下たちは
「人間の皇帝自らが注ぐとは、我が主への最大の敬意だ」
と満足げに見守っている。
誰も、この状況が
『鬼畜ドSな元天使による、逃げ場のない精神攻め』
だとは気づいていない。
「……苦しゅうない。注ぐが良い、ミラディアの皇帝よ」
アイラナは声を震わせぬよう、最大限の威厳を込めて杯を差し出した。
至近距離に、あの薄黄緑色の髪が揺れる。
片耳のレッドダイヤモンドのピアスが、アイラナの瞳を嘲笑うように妖しくきらめいた。
トトト、と小気味よい音を立てて深紅の酒が注がれていく。
その最中、アーモンドはアイラナにしか聞こえないほどの微かな囁き声を、その耳元へ滑り込ませた。
「……ねえ、アイラナちゃん。昼間、僕に冷たくされて寂しかった?
すっごく睨まれてたから、僕、嬉しくて途中で声が出そうになっちゃったよ」
(――っ、……!?)
「ほら、そんなに怒って眉間にシワを寄せたら、せっかくの可愛い顔が台なしだよ? ……魔皇帝陛下」
最後の肩書きだけをわざとらしく大きく発声し、アーモンドは満足げに身を引いた。
その顔には、いたずらが成功した子どものような、けれど底知れなく邪悪でドSな笑みが浮かんでいる。
あまりの意地悪さと、衆人環視の中でこんな耳打ちをされた羞恥で、アイラナの心臓は激しく波打った。
頬がカッと熱くなりそうになるのを、魔皇帝としてのプライドだけで強引に抑え込み、潤みそうになるレッドダイヤモンドの瞳でアーモンドを睨みつける。
「……見事な手酌だ。感謝する」
吐き捨てるようにそれだけを言い、アイラナは一気に杯の酒を煽った。
喉を焼く酒精よりも、目の前で極上の流し目を細めてクスクスと笑っている男の存在が、何よりも甘美で、狂おしい毒のようにアイラナの身体を支配していくのだった。
21
ぽんぽんず