テラーノベル
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「ごめんね、あの日嘘をついた」
これは〝 〟の願いを叶えるゲーム。
君は本音を隠して、嘘ばかり。
「やっとさよならだ」
——この役決めゲームのはじまりは〝あの日〟だった。
***
「……なんだろう」
私のロッカーに折り畳まれた紙が挟まっている。
おずおずとそれを抜き取って開いてみると、そこには——
『放課後に音楽室に来てください。 九條泉』
「えっ!?」
まさか彼から呼び出されるとは思っていなくて、私は思わず声を上げてしまった。
九條泉くんは文武両道で穏やかで優しい男子。……そして、私の憧れの人。
一年の頃は同じクラスでよく会話をしていたけれど、二年生になってからはクラスも離れたため、私は彼との接点を失ってしまっていた。
それに放課後って、今だよね?
もしかしたら待たせてしまっているかもしれない。
私は胸が高鳴るのを感じながらも、慌てて音楽室へと駆け出した。
***
……これはいったいどういう状況なんだろう。
音楽室には六つの椅子が黒板の近くにセッティングされている。その中で埋まっている席は五つ。
「あの、」
声をかけようにも空気がピリピリとしている。
私が困っていることに気づいた様子の優しげな雰囲気の男子が歩み寄ってくると、ふわりと林檎のような甘い香りが漂う。
「ごめんね。少しの間ここを使いたいんだ」
「え……?」
「三十分くらいあれば終わると思うから、待ってもらってもいいかな」
栗色のサラサラの髪のこの男子は見かけたことがある。
だけどクラスも一緒になったことがなく、話したのも今が初めてなので名前はよく知らない。
他にも見かけたことがある男子はいるけれど、金髪でよく目立つ柏木くんって人くらいしか名前がわからない。
私はどうしようと、呼び出しが書かれた紙を持ったまま、立ち尽くす。
中を覗いても九條くんの姿はないし、廊下で待っていた方がいいかもしれない。
男の子は私の持った紙に気づくと、眉を寄せた。
「それ……もしかして〝泉〟から……?」
手紙を見ただけで九條くんからだということに気づいたようで、私は目を見開く。
「君がここに来たのって……」
「帰る」
言葉を遮るように長身の金髪の男子が立ち上がった。——柏木くんだ。話したことはないけれど、こうして間近で見ると威圧感がある。
「おい、和葉待てって!」
柏木くんを薄茶色の髪の小柄な可愛らしい男子が必死に止めている。
「時間の無駄」
気怠げで低めの声。目尻が下がっていて、優しげというよりも眠たげな印象だ。
「歩、邪魔」
歩と呼ばれた薄茶色の髪の小柄な可愛らしい男子が、眉間にシワを寄せながら柏木くんの腕を掴む。
「泉に待ってろって言われてるだろ」
……今、泉って言った? もしかしてここの人たち、みんな彼に呼び出されたの?
つまり、私と同じでここに呼び出されたということだ。だけど、どうして九條くんは私たちをここへ集めたんだろう。
柏木くんが出て行こうとすると、音楽室のドアの前に誰かが立った。
「なにしてるの」
たった一言で部屋の中にいる彼らが一瞬にして黙った。
帰ろうとしていた柏木くんはため息を吐いてから、何故か席に戻る。
「九條くん、あのこれって……」
一体なんのために呼ばれたのかと問おうとすると、九條くんに笑みを向けられた。
「水沢さん。来てくれてありがとう。待たせてごめんね。それじゃあ、とりあえずみんな席に座ってくれるかな」
詳細は座ってから話すようで、私は一番手前の席に座る。
先ほどまで騒がしかったのに、一気に静かになっていて違和感を覚えた。
他の人たちの様子を見てみると、五人の男子たちは顔を強張らせながら九條くんのことを見つめている。
……なんでみんなそんなに硬い表情をしているんだろう。
「十二月二十日にある冬祭で、毎年演劇をやっているんだけど知っているかな」
この学校で十二月に行われている冬祭は、ミニ学園祭のようなもので希望者の生徒たちがだけで催し物をする。
去年の私はクラスの子たちと一緒に映像部の映画を見たり、展示を回っていたけれど演劇は見なかった。というのも人気すぎて立ち見すらできない状況だったので、諦めたのだ。
「今年は、君達にシンデレラをやってもらおうと思うんだ」
突然のことに耳を疑い茫然とする私の横で、男子たちが驚きの声を上げる。
「あ?」
「はぁ?」
「なにそれ」
「どういうこと?」
「えっ、俺何役!?」
そしてすぐに全員の視線が私に集まる。
な、なんで私のことをみんな見てくるんだろう。
「おい……まさかコレがシンデレラとか言わないよな?」
柏木くんが険しい表情で、私に人差し指を向けてくる。
「そうだよ。彼女がシンデレラ役の水沢ましろさん」
当然のように発せられた泉の言葉に、私はぽかんと口を開ける。
「で、でも九條くん、冬祭の演劇って毎年選ばれた人たちがやるんだよね?」
「今年は僕が決める権利をもらったんだ」
なんでそんな権利を?と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
冬祭の主催は生徒会だ。九條くんは一年の頃から生徒会に所属していて、彼が次期生徒会長ではないかと聞いたことがある。
「けど、どうして私がよりによってシンデレラ……?」
「僕がそう決めたからだよ」
九條くんの有無を言わせぬ笑顔に、私は言い返す言葉が見つからずに唖然とする。
「それとね、君たちは全員王子候補だから」
さらに爆弾が投下されて、くらりと目眩がした。
王子候補って、なに……? どういうことなの? 話に全くついていけない!
「誰がそんなのやるかよ!」
可愛らしい外見の薄茶色の髪の男子が声を荒げる。それに続くように、柏木くんが舌打ちをした。
「目立つことなんてしたくねぇ」
それに続くように次々と文句がで始める。
「どうせやるなら、和風ものがよかった」
「めんどくさい。だいたい王子候補なんなの」
「こんなの一体なんのためになるのかわからないよ」
すると、九條くんは笑みを貼り付けたまま腕を組んだ。
「みんな、勘違いしてない?」
口調は優しげだけど、どこか冷たさを感じる声音に息を飲む。
九條くんいつもと少し違う……。
「この劇の決定権は僕。そして、王子を選ぶのは彼女」
「わ、私?」
「そう。選ばれる側の君たちに選択肢なんてないんだよ」
九條くんは笑っているけれど、目は笑っていない。
けれど五人は先ほどとは違い、黙っている。
反論できない、してはいけない。そんな緊迫した空気が流れていた。
「水沢さん、十一月までにこの中から王子を選んで。選ばれなかった人達には……継母とかの役をやってもらおうか」
場の空気が凍り付く。
つまり彼らは王子になれなければ、女装するってこと……?
言葉を失い、青ざめている王子候補たちを見て、責任の重大さを感じた。