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「はぁ、はぁ……っ、ここまで来れば……っ」
ドレスの裾を片手で不格好に掴み上げ、私はなりふり構わず無我夢中で走っていた。
整備された王宮の石畳に、ヒールの高い靴音が乾いた音を立てて響く。
背後を振り返る余裕なんて、爪の先ほども残っていない。
昨夜囁かれた、レオン様からの告白───
「僕は貴方を愛しているんです。できることなら、誰にも渡したくない」
低く、そして熱を帯びた
あまりにも重すぎる愛の言葉が、今も耳の奥で呪文のようにリフレインしている。
(無理無理無理! バグよ、完全に世界線のバグ! 推しが攻略対象外の悪役令嬢にガチ恋するなんて、攻略本のどこにも載ってなかったわよ!)
私は心臓の爆音をBGMに、王宮の北側に位置する、人影のまばらな薔薇の迷宮へと飛び込んだ。
大人の背丈よりも高く切り揃えられた生垣が視界を遮り、複雑に絡み合う迷路がどこまでも続く。
ここなら、いくら五感が鋭い超人的な近衛騎士様でも、すぐには見つけられないはず───
そう自分に言い聞かせ、迷路の奥深くへと潜り込む。
(落ち着け、私。深呼吸よ。吸って、推しの香りを……じゃなくて、薔薇の香りを吸って!)
生垣の角を曲がったところで、私は壁に背を預けてずるずるとしゃがみ込みそうになった。
激しく上下する胸を必死に押さえる。
最近のレオン様は本当におかしい。
ゲームでの彼は、もっと氷のように冷たくて、義務的に私を護衛していたはずなのに。
今のレオン様が私を見つめる瞳は、獲物を追い詰める肉食獣のように爛々と輝いている。
その青い瞳の熱量に当てられただけで、脳が蕩けて溶け出してしまいそうだ。
「……お嬢様。そんなに走っては、呼吸が乱れてお身体に毒ですよ」
「ひゃうっ!?」
不意に、すぐ真後ろ──耳元から降ってきた声。
驚きのあまり心臓が口から飛び出しそうになり、跳ねるようにその場から逃げ出そうとした。
けれど、それよりも早く、強靭な腕が私の腰を背後からガッチリと捕らえた。
逃げ道を完全に塞ぐように押し付けられた、分厚くて熱い胸板。
私の背中と彼の胸の間に、薄いドレス越しに伝わる熱。
隙間一つないほどの密着に、頭の中が真っ白になる。
逃げようと足掻く間もなく、レオン様のもう片方の手が私の肩を抱き込み
ぐい、と力強く自分の体へと引き寄せた。
「……見つけました。随分と、僕との追いかけっこがお好きなようですね、メリッサ様は」
耳のすぐ傍で、低く掠れたバリトンボイスが鼓膜を震わせる。
彼の吐息が首筋をなぞるたびに、背筋を電流が駆け抜けるような衝撃が走り、指先まで痺れていく。
レオン様の腕は、まるで「二度と離さない」という無言の意志を象徴するように
みしみしと音を立てるほどの力で私を拘束していた。
「れ、レオン様、離して……! 誰かに見られたらっ……」
「誰にも見られない場所を選んで、僕を誘い込んだのは貴女の方でしょう?」
「!? 違っ……そんなつもりじゃ……っ!」
クスクスと、私の背中に響く彼の笑い声。