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昼休みの教室。ワイワイと談笑する声の中で、ナマエは“いつメン”と並んで座っていた。
一見、いつも通り。
けれど胸の奥には、今もなお続く噂や視線のざわつきが残っている。
そんな中、
「ナマエー、いる?」
声と共に、教室の扉が開いて、出水が顔を覗かせた。
『あ、先輩』
ナマエが笑顔を向ける。
彼は気軽に歩み寄ると、ナマエに小さなメモを手渡す。
「今朝の件、伝えておくって言われてたからさ。あとでまたこっち来る?」
『うん、分かった』
短いやり取り。その間も、教室の一角――斜め後ろからひそひそと聞こえる声。
「また出水先輩と話してんじゃん、あの子」
「ほんとじゃん、やっぱぶりっ子ってマジだったんじゃないの?」
出水の耳にも、かすかに届いていた。
少しだけ眉をひそめ、声の主の方へと視線を向ける。
「…今の、聞こえてるからな」
低く、けれどはっきりとしたトーンで出水が言った。
「そういうの、やめたほうがいいと思うけど」
けれど女子たちは、まったく怯む様子もなく。
むしろ余裕すら浮かべて。
「…もしかして、洗脳されてるんじゃない?出水先輩、可哀想~」
その言葉に、教室の空気が一瞬止まった。
出水の目が細められる。
そんな中、ナマエがすぐに立ち上がって言った。
『…ま、まあ、みんながそう思うのも仕方ないんじゃない? 私が知らないとこで、誰かが私を悪者にしようとしてやったんだと思うし』
笑っている。けど、声は少し震えていた。
そのとき、いつメンの一人が何気なく、けれど鋭く口を挟む。
「しようとしてっていうかー…そうなんじゃないのー?」
その言葉の意味。
どんな表情で放ったのか。
ナマエは、見なかった。
ただ、うつむいたまま――何も言えなかった。
教室の雑音が、遠くなっていく。