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第1章
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――2008年9月
椎名武生は、就職情報誌の編集者から、〝孤独〟をテーマにした写真を依頼されていた。都会の中の孤独を特集することで、十月になろうとしているのに就職活動の動きのにぶい学生や、いつまでも夢にすがりついて離れようとしないフリーターの就職意欲を煽ろうという企画だ。
当然ながら、編集者もそれで就職活動が劇的に活性化するとは思っていない。あくまでもクライアントをとるための企画だ。それは編集長もわかっているし、クライアントもわかっているし、購読者もわかっている。そういったことすべて購読者にバレているということもわかっている。みんなわかった上での特集なのだ。
一見バカげているように見えるが、それを非難したところで返ってくる言葉は決まっている。
「だから何?」
彼はその情報誌と契約しているわけではなかったが、期待するものを過不足なく撮ってくる安心感からか、仕事の依頼はよくあった。
雑誌に、とくに時間との競争になる週刊誌の仕事に、人とは違った視点の写真を求められることは少ない。時間がないのにホームランか三振かなんて賭けはできないのだ。
ヒットでいい。それも適時打を確実に打ってくれる選手。いわゆるプロだ。アーティストじゃない。それがカメラマンである椎名武生に求められているもののすべてだった。