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亮祐さんに会いにアメリカに行く、そして会ってちゃんと私の気持ちを伝える。


そう決めてから私の行動は早かった。


まず1週間程度の休みが取れるように仕事の調整だ。


土日と組み合わせるにしても、平日にも有休を取得しなければいけない。


周囲に迷惑がかからないよう、そして仕事に影響がないよう調整して、日程を検討する。


結果、3週間後の4月上旬に連休を確保することができた。


亮祐さんが海外出張に行ってから約1ヶ月半後となるタイミングだ。


本当は3月中に行きたかったのだが、残念ながら急すぎて調整が難しかったのだ。


「由美ちゃん、私が休み取るために色々調整に協力してもらって本当にありがとうね」


「全然ですよー!百合さんがこんなふうにどうしても休み取りたいなんて言うの珍しいですから!私で力になれるなら幸せの極みですーー!!」


任せてくれと言わんばかりにニッコリ微笑む由美ちゃんがものすごく頼もしい。


今回の日程調整で、由美ちゃんには私の仕事を一部引き受けてもらったり力になってもらったのだ。


「長期休暇でどこか行くんですか?」


「うん、ちょっと海外に」


「うわー素敵!お土産期待してますね!」



世界有数の観光地であるニューヨークにプライベートで行くくらいなら、亮祐さんに会いに行くことはバレないだろう。


私は協力してもらった由美ちゃんにはお礼として絶対お土産を買ってこようと心に誓った。




そして私には、アメリカに行って亮祐さんに会う前に、もう一つしておきたいことがあった。


そのために、3月半ばのある日、ある場所へと1人で足を運んでいた。


その事実から目を背けるため、壊れそうな自分の心を守るため、長らく来ていなかった場所だ。


黒いワンピースに身を包み、菊の花を脇に抱えて歩く。


そう、そこは春樹が眠るお墓だった。


今日は卒業式を目前に控えて亡くなった春樹の命日なのだーー。



春樹が亡くなった高校3年生の時に訪れて以来、私はこの場にこれまで一度も足を運んだことがなかった。


それは彼の死に耐えられなかった私の、自分なりの心の防御方法だったのだ。


同窓会に一度も顔を出していないのも同じ理由である。


私にとって高校時代=春樹と言っても過言ではない。


それくらい一緒にいたし、時間を共に過ごしたし、高校時代は春樹との思い出で埋め尽くされている。


だから高校時代を知る人に会うのは辛く、高校がある地元にもあまり帰省したくなかった。


大人になって働いて、色んな男性とお付き合いして、もう10年も経って、すっかり過去のことのようではあったが、実際のところはずっとあの頃に私は囚われたままだったのだ。


亮祐さんと出会うまではーー。



亮祐さんと出会い、彼を好きになった今、囚われていた私の心は動き出した。


だから今日ここに来て、自分の過去である春樹と向き合おうと思ったのだ。



春樹が眠るお墓の前に佇む。


周囲には誰もおらず静寂に包まれていた。


私はお墓を軽く水で洗い流し、お花を供え、線香をつける。


そしてお墓の前でしゃがむと手を合わせ、ゆっくりと春樹に語りかけた。



「春樹、久しぶり。10年も来れなくてごめんね。本当はずっと会いに来たかったんだけどね」


もちろん返事があるわけがない。


でも私は語り続ける。


「私ね、突然春樹がいなくなってしまって、とっても辛かったんだよ?それこそ10年も前に進めてなかった‥‥。しかも進めていないことにも自分で気づいてなったの。最近になってそれが分かったんだよ」



「春樹、私好きな人ができたの。その人のことがとっても大切で、とっても尊敬もしてて、これからも一緒にいたいし、その人にふさわしい自分でありたいって思うと努力もできるみたいなの」



亮祐さんの顔を思い出して、私は少し微笑む。


なんとなくお墓にいる春樹からも笑顔が返ってきたような気がした。



「ねぇ春樹?私たちの恋は、ある日突然に続けられなくなっちゃったよね。でもね、|続《・》|け《・》|ら《・》|れ《・》|な《・》|く《・》|な《・》|っ《・》|た《・》のと同時に、|終《・》|わ《・》|っ《・》|て《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》んだって私気付いたの。だってお別れの言葉がなかったから」


「だから‥‥今日は春樹にお別れの言葉を言いに来た。春樹のこと忘れたわけじゃないし、これからも忘れないよ。でも、春樹との恋はもう終わりにしなきゃ‥‥。だから‥‥」


「春樹、さようなら。高校3年間幸せだったよ。私を好きになってくれて本当にありがとう」


まっすぐにお墓を見つめて言葉にした。


自分から誰かに別れの言葉を告げるのは初めてだった。


感情が高まり、みるみる目に涙が溜まって視界がぼやける。


でもこれは私にとって必要なことなのだ。


続けられなかった恋であり、終わっていなかった恋をきちんと終わりにするために。


きっと春樹も分かってくれるはずだと感じた。


私はもう一度しっかりとお墓の春樹を見つめ目に焼き付けると、静かにその場を去る。


亮祐さんへの想いを胸に抱えてーー。




そして迎えた4月上旬。


まだ肌寒さは感じるものの、季節はすっかり春に移り変わり、桜が咲き誇る時期となった。


でも今年は桜を日本で見ることはないだろう。


なぜなら今私はニューヨークの地に1人立っているのだからーー。



(本当に1人でニューヨークまで来てしまった‥‥!人が多くて熱気があるな。それに当たり前だけど外国人ばっかりだなぁ)


空港からタクシーで市街地まで移動し、予約しておいたホテルにチェックインする。


ここまでは事前のシュミレーション通りにいっていてバッチリだ。


オンライン英会話で英語を学んできたことも役に立っていて、道を聞いたり、確認したりと旅行英会話はこなせている。


そんな自分に実は内心びっくりしていた。


(亮祐さんに会いたい一心で決意しちゃったけど、本当は1人で海外なんて初めてだから怖いし不安だったんだよね‥‥。私もやればできるんだなぁ!)


今まで自分から積極的に動き回る方ではなかった私にとって、この旅はものすごく冒険なのだった。



(さぁ、問題はここからだ。無事に亮祐さんに会えるといいんだけど‥‥)


実は私がニューヨークに来ることは亮祐さんには知らせずに来た。


仕事で忙しいのに余計な負担はかけたくなかったし、ひと目会えて、少し話す時間を取ってもらえれば良かったのだ。


(私が連絡したらきっと迎えに来てくれたり、色々手配してくれたりして時間取らせちゃうだろうしね)


ただ、メッセージでやりとりした時に、滞在しているホテルや、いつも夜は何時くらいに戻ってくるのかなどの予定はそれとなく聞いておいた。


だから亮祐さんの滞在しているホテルで待っていれば会えるはずだと思っている。


他の社員の人は別のホテルらしいので鉢合わせることもないだろう。


ホテルへチェックインした後は、外が暗くならないうちにと思い、財布やスマホ、ガイドブックなどをショルダーバッグに詰め込み外へ出る。


そして亮祐さんの滞在しているホテルへ向けて歩き出した。


幸いにもそのホテルはマンハッタンの中心部にあり、セントラルパークに程近い。


誰もが名前を知っている高級ホテルなので、たぶん迷うことはないだろう。


私はニューヨークの街並みを楽しみながら、ホテルまでの道のりを歩いた。



ホテルに着くと、そのクラッシックな佇まいと豪華さに圧倒されつつ、まず私はフロントへ向かう。


さすがにフロントで亮祐さんの部屋番号などを聞くことはできないだろうけど、伝言を伝えてもらうことができるかもと思ったのだ。


メッセージも送っておくつもりだが、すれ違う可能性も考慮して念のためだ。



「May I help you? (いかがされましたか?)」


「Hello, I’d like to leave a message if possible.(こんにちは。もし可能なら伝言をお願いしたいのですが)」


「Sure. Who is the message to?(承知しました。誰に向けた伝言ですか?)」


「Mr.Ryosuke Otuka. He is a guest here. Please tell him Yuri is in the tea lounge here.(大塚亮祐さんです。ここの宿泊者です。彼に百合はここのティーラウンジにいると伝えてください)」


「May I have your name?(お名前頂戴できますか?)」


「I’m Yuri Namiki.(並木百合です)」



そう伝言を頼むと、続いてホテル内にあるティーラウンジへ向かう。


このティーラウンジで紅茶を飲みつつ亮祐さんを待とうと思っているのだ。


(わぁ、紅茶一杯ですごく高い!日本のホテルのラウンジよりも高いし、さすがニューヨークの物価だなぁ)


感嘆のため息をつきながら、私はせっかくだからとチーズケーキも一緒に注文をした。


ケーキと紅茶を楽しみながら、スマホを取り出し、ホテルのWi-Fiに繋いでインターネットを利用する。


インターネット接続を得たことでLINEのメッセージが使えるようになり、私は亮祐さんに一本のメッセージを送る。



“お仕事お疲れ様です。今日仕事が終わってホテルに戻ったら電話もらえませんか?待ってます”



今は午後の7時だ。


最近は8時までにはホテルに戻れることが多いと亮祐さんは言ってたから、きっともうすぐ会えるはず。


私は亮祐さんに会えるという期待に膨らむ気持ちと、本当に突然来て大丈夫だったかな?迷惑にならないかな?という不安の気持ちを抱え、ただただ亮祐さんを待ったーー。

私の瞳に映る彼。

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