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てっきり椅子にでも縛り付けられて、拘束されるのかと思っていた私は驚いた。
腕を掴まれて放り込まれたのは、一つの狭い部屋だった。
ほとんどの空間を二段ベッドが埋め尽くしている。
下の段に座っていた男が何事かという様子でこちらを見ていた。
それは先ほど、案内してくれたソフトモヒカンの男だった。
「お前、こいつが逃げないように見張っておけよ」
私を拘束していたうちの一人がそう言うと、大きな音を立てて扉が閉まった。
何かが置かれる音がして、足音が遠ざかる。
引き戸のレールに何かを置いたのかもしれない。
近くに鉄パイプが置いてあったのを思い出した。
「あの、あなた何者なんですか?」
ソフトモヒカンの男が、怯えたような表情で私を見ていた。
私は三人の男に拘束されてここに放り込まれているのだから当然だろう。
彼からすれば、極悪犯罪者と二人きりにでもされた気分のはずだ。
「驚かせてしまって申し訳ありません。早く入会したいあまり、興奮してしまって」
咄嗟に苦しい言い訳をしてしまった。男は完全に信じてはいないだろうが、一応の納得はしたようだった。
「でもここに連れてこられたということは、入会できたんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「あ、ベッドはこちらを使っていいですよ」
男は自分の座っているベッドとは反対を指さした。
綺麗にたたまれた掛け布団がある。シーツも枕も清潔そうだ。
私はそのベッドに腰を下ろす。
ギシッと音が鳴ったが、壊れるような様子はない。
元々廃墟にあったものではないのだろう。
「あの、せっかくなので色々教えていただきたいのですが……」
「あ、それはそうですね。ちなみに僕は、鈴木といいます」
鈴木さんは、軽く頭を下げた。
「私は足立といいます」
私も軽く頭を下げる。
鈴木さんの先ほどまでの訝しげな表情は、すっかり親しみのある笑顔に変わっていた。
ふぁ
33
せれあ
19
170
「よろしくお願いします。えーと、何から話したらいいかな……」
これはチャンスではないだろうか。
私からすれば、鈴木さんは情報の宝庫だ。
「じゃあまず、本当に基本的なことから教えてもらえないでしょうか? ほとんど何もわからないのです」
「あ、それはそうですよね。もうご存知かもしれませんが、ウエ様は命撰会の神様ですね」
このウエ様が白紙を苦しめている存在だと思うと、知らない間に拳を握りしめていた。
「ウエ様は、信者達の穢れを浄化して幸福を与えてくださるんです。他の宗教は神様なんて気休めですが、ウエ様は本物です」
嘘だ、と思った。
ウエ様の力の片鱗が現れるときの気持ち悪さ。
鈴木さんはあれを見ても、穢れを浄化して幸福を与える存在などと信じることはできるのだろうか。
「鈴木さんは、どうしてウエ様を信じているんですか?」
「僕もウエ様の力を体験させてもらったんです。小さなものですけどね」
「何をしてもらったんですか?」
「僕、今二十七歳なんですよ。もういい加減しっかりしなきゃいけない年齢なんですけど、お恥ずかしいことに半年前まで借金だらけだったんです。でもその時出会った命撰会で、ウエ様の祝福を受けたんです。そしたら、宝くじが当たって……それで借金を完済できたんです」
これがウエ様でなければ、うさんくさいエピソードを適当に言っているだけだと思っただろう。
「祝福って、さっきのカーテンの部屋でやってたものですか?」
先ほどの部屋で、スッキリした顔をしていた女性を思い出す。
「ああ、あそこは祝福じゃなくて浄化の部屋なんです。人間はすぐに穢れがついてしまうので、あそこで|拯民《じょうみん》の方に清めてもらうんです。大体月に一回くらいですね。」
「じょうみん?」
「はい。苦しみから拯われた人という意味です。私服の方と、私達のように白い着物を着ている者とはそういう差があるんです。清められた着物を着ることによって、私達のような未熟者は少しでも穢れを遠ざけているんです。拯民の方達は自らの穢れを祓うこともできますし、他人の穢れも祓うことができる。だから、私服なんです。もう穢れに一人で立ち向かえますからね。私達は、この拯民を目指して修行することになります」
つまり先ほどのヨシト達は、全員拯民ということだろう。
命撰会では一目置かれる存在なのだ。
それにヨシトの意見に従う人間がいることを考えると、彼は幹部のような存在なのではないだろうか。
しかしこれで、命撰会の概要は掴めた。ここからは、七人岬とウエ様の情報に絞って話を聞いた方がよさそうだ。
「穢れとはどんなものなんですか?」
「簡単に言うと悪意ですね。嫌いとか、腹が立つとか。そういう気持ちを祓うんです」
こういった考えは、他の宗教でも存在するだろう。
しかし命撰会の言う穢れとは、悪意のことだけではないはずだ。
「幽霊はどうですか?」
いきなりこの質問は、変だっただろうか。
鈴木さんの表情を注意深く観察する。
「僕は見たことないですけど、報告することになっています。幽霊の存在自体が穢れなので、野放しにすることはできないのです」
幸いにも彼は、少し外れたこの質問を好意的に受け取ってくれたようだった。
「幽霊は祓って終わりですか?」
「そうですね。拯民の方が対応して終わりです」
「どうやって祓うんですか?」
「ずいぶん幽霊のことが気になるんですね」
しまった。彼の人の良さのあまり、調子に乗っていた。
「……実は自宅に幽霊が出るんです。早く何とかしたくて」
「それは大変ですね。拯民の方に早くお願いした方がいいでしょう」
その時、建物全体にチャイムの音が鳴り響いた。音がひび割れている。
「この音は?」
「夕ご飯の時間ですね。本来ならこのチャイムが鳴った後に、食堂に向かいます。ですが……」
私を連れてきた男たちは、扉を開かないようにしていった。
近付いて開けようとしても、やはり動かない。
チャイムが鳴り終わって、扉の外から話し声や足音が聞こえ始めた。
「出られませんね。飯抜きということでしょうか」
「そうかもしれませんね。でもこれも修行になります。一緒に頑張りましょう」
鈴木さんは爽やかな笑顔でそう言ったが、私は口角を上げることもできなかった。
コメント
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美月ゆめか🌸だよ〜!第20話読んだよ〜!! 鈴木さん、人の良すぎる笑顔で情報ポロポロこぼしてくれるから逆に胸が痛いんだが😭💦「宝くじで借金完済」エピソード、うさんくささMAXなのに本人は純粋に感謝してて…洗脳のリアルを感じたよ… あと主人公が幽霊の話をしつこく聞きすぎて「しまった」ってなるところ、ハラハラした!食堂のチャイムで閉じ込められて飯抜き確定なのも不穏すぎる…次どうなるの!? てかヨシト、幹部ポジっぽいし絶対ロクなことしないやつだよね!?続きが気になる!!✨