何度暴れても喚いても止めてはくれなくて、身動きすら取れなかった。
痛かった。
すごく苦しかった。
1時間前、
俺はいじめっ子達にレ■プされた。
「愁眉を開く」
体育倉庫から出ていく複数の足音が聞こえる。
その音はあっという間に遠ざかっていった。
俺はというと、1人きりで薄暗い体育倉庫にあるマットに素っ裸で寝転がり息を切らしていた。
こんな所を人に見られる前に早く服着て出ないと。
そう思っても身体が鉛のように動かない。
そりゃそうだろ、レ■プされた直後なんだから。
昼休み、俺は体育倉庫に呼び出された。
あぁ、またいつものように殴られる、と思い覚悟していたが、今日はいつもと違った。
俺が入ってきたのと同時に押し倒され、服を乱暴に脱がされた。
いつもと違う状況に困惑し、とりあえず押し返そうとしたが、1人では複数人を押し退けて逃げることは叶わなかった。
その後は悲惨だった。
腕や足を押さえつけられて、異物を突っ込まれた。
喉がくっついたように声が出ない。
バレー部で鍛えた筋力や腕力も意味がなくて、最終的に抵抗を諦めた。
俺は「こいつ顔はいいからギリ抱けるんじゃね(笑)」というなんともまぁ最低な理由で犯された。
いつの間にか意識を飛ばしていて、既に行為は終わっていた。
時計を見ると、昼休みがもうすぐ終わる時間だった。
…やばい。
早くしないと次のクラスの人に見られる。
動きたいけど、動けない。
もしこんなの誰かに見られたら、
…俺の学校生活、終わる。
それは、嫌だ。
…何とか身体を起こし、四つん這いの状態で自分の制服を手に取った。
それは何らかの液体でぐしょぐしょになっていて、まともに着れやしない。
溜息をついてまたマットに寝転がる。
倉庫全体が生臭くて、早くこの場を出たいが逃げ場がなかった。
制服も濡れてるし。
暫くすると、倉庫の扉が音を立てて開いていく。
裸を隠す暇もなく、誰かが倉庫に足を踏み入れた。
あ、──
見られた。
最悪。
終わった、俺の学校生活。
とりあえず濡れた服を着て撤収しよう、そう思い立ち上がった。
(瀬見)
「ごめ、俺…今出るから、」
(??)
「………瀬見さん?」
へっ、?と間抜けな声が出る。
聞いたことのある声。
逆光で見た目がよく見えない。
目を凝らしてみると、俺より高い身長に、枯草色の髪。
普段はジトっとしている目が、今は驚きで少し見開いている。
(瀬見)
「………川、に、し?」
倉庫に入ってきたのは、白布の親友で、部活の後輩の川西太一だった。
(川西)
「次の時間、うちのクラスが体育なんですけど」
「な、に…してるんですか」
彼が少しだけ普段のジト目に戻る。
俺を見つめる三白眼。
その威圧が、俺には軽蔑の目に見えて背筋が震え上がる。
最悪だ。
後輩に見られた。
しかも部活の後輩に。
(瀬見)
「ごめ、ほんとごめん、」
「すぐ帰る、から」
そう言って歩こうとするも、上手く歩けない。
転びそうになって、川西に身体を支えられる。
(川西)
「ちょっと、大丈夫なんですか」
(瀬見)
「………ごめ、」
(川西)
「とりあえず、服着ましょうよ」
そう言って俺のぐしょぐしょに濡れた制服を手に取ると、すごく怪訝な顔をした。
ごめんまじで。
(川西)
「…何で、服濡れてるんですか」
(瀬見)
「………さぁ」
川西がうーんと悩んで、その後俺に提案をした。
(川西)
「…俺が瀬見さんをおぶって、保健室連れていきます」
俺の制服は倉庫に落ちてたビニール袋に入れた。
自分のブレザーを脱いで俺に渡すと川西が袋を持って俺の前に後ろ向きでしゃがむ。
(川西)
「どーぞ」
(瀬見)
「…いや、あの」
(川西)
「何ですか」
(瀬見)
「俺、身体汚いし、歩けるから…っ」
(川西)
「フラフラじゃないですか」
(瀬見)
「うぅ…でも」
(川西)
「いいから、乗って」
(瀬見)
「ほ、ほんとに、いいの」
(川西)
「うん」
(瀬見)
「…………じゃあ、失礼、シマス…」
(川西)
「なぜ敬語(笑)」
俺がのしかかるように背中に乗ると、川西は「ん、」と小さく声を出した。
(瀬見)
「だ、大丈夫そ、?」
(川西)
「へーき。俺のブレザー羽織って、裸見えないようにしててね」
(瀬見)
「う、うん……」
ブレザーだけで身体を隠すのは無理があるが、多分この方法しかないだろうからそこは我慢しよう。
(川西)
「立ちますね」
よっこいしょ、っとおっさん臭い台詞を言いながら川西が立つと、倉庫の天井に頭がぶつかって鈍い音がした。
(瀬見)
「いて」
(川西)
「はは、すみません」
ちょっとしゃがみますねと言い、少し身体を前に傾けて倉庫の外に出る。
薄暗くて狭い倉庫とは違い、体育館は鬱陶しいくらいに眩しくて、とても広かった。
(川西)
「…ちょっと、注目浴びるかも」
まじか。
顔を人のいない方に向ける。
だってみっともないじゃん。
裸で、後輩におぶってもらいながら移動してるとか。
「川西、どしたの?」
川西の友人らしき人が声をかける。
(川西)
「あー、ちょっと用事。先生に体育休むって伝えておいて」
「おー、分かったけど、大丈夫?その人風邪?」
(川西)
「うーん、まぁそんなところかな」
「じゃ、先生に伝えて。よろしく」
「分かった」
川西の友達が人が集まる場所へ去っていく。
裸、もしかしたら見られたかもな。
そう思うとより一層怖くなって、川西の肩にぐりぐりと額を押し付けた。
(川西)
「…怖い?」
(瀬見)
「…………う、ん」
(川西)
「そっか」
体育館に喧騒が響く。
体育倉庫から体育館の入口までこんなに時間がかかるもんなんだな。
ざわざわして煩いし喧しいから早く着いて欲しい、そんなことを考えていたら。
(川西)
「…なんか、いやーな話してますね」
(瀬見)
「………え、」
人のいる方に目を向ける。
殆どの人が自分を見て、ヒソヒソと話をする。
「ねぇ、あれ、瀬見さんじゃない?」
「あぁ、バレー部の」
「最近スタメン落ちしたんでしょ?」
「後輩に座奪われたんだってさ」
「かわいそ〜(笑)」
………。
過去の記憶がフラッシュバックする。
スターティングメンバーの発表。
鷲匠監督から次々に番号と名前が呼ばれるが、いくら待っても3番、瀬見英太と呼ばれることはなかった。
発表後、俺は監督に呼び出された。
監督は怒鳴ることはなく、終始無言だった。
目で語って、それを察しろっていう合図だと思う。
監督から戻っていいというお許しが出たので、仲間のところに戻る。
皆が心配そうな顔で俺を見つめる。
頼むからそんな顔で見つめんな、逆に傷つくから。
…だから、ほっといてくれ───。
(瀬見)
「う、……うぅ”…」
(川西)
「瀬見さん…」
(瀬見)
「んん”……ッ」
(川西)
「瀬見さん」
(瀬見)
「やだ、……ッ」
(川西)
「辛いね、瀬見さん」
(瀬見)
「んん…や、」
(川西)
「ブレザー羽織ったまま、耳塞げます?あと、目瞑っててください」
川西に言われた通り耳を塞ぎ、目を閉じた。
(川西)
「ブレザーずり落ちそうになったら言ってくださいね」
川西がまたゆっくり歩きだす。
川西が歩く律動で俺の身体が揺れるのがとても心地よかった。
耳を塞ぐ時に鳴る筋音。
真っ暗な視界。
それはそれで怖かったけど、自分の悪口を聞かされるよりかは大分マシだった。
見ざる、聞かざる、言わざる。
自分にとって不都合なことを見たり、言ったり、聞いたりしないこと。
ことわざとか、俺にはよく分からないと思っていたけど、この言葉だけは理解することができた。
いつの間にか保健室の前にいた。
閉じていた目をゆっくり開いて、耳を塞ぐ指をゆっくり離す。
川西がノックを2回してそのまま中に入る。
(川西)
「失礼しまーす。…先生いませんね」
(瀬見)
「そう、だな」
(川西)
「まぁ、とりあえず座っててください」
適当に近くのソファに座る。
尻とソファがくっつく時、ぐちゅりと嫌ーな音がした。
汗だくだし、汚れてるんだよな。
尻なんて特に。
後で拭いておかないと。
少しの時間待っていると、川西が水が入った紙コップとウェットティッシュを持って隣に座った。
(川西)
「水持ってきました」
(瀬見)
「ん、…悪いな」
(川西)
「いえ」
乾いた喉に冷たい液体が通る。
(瀬見)
「美味い…」
(川西)
「よかったです」
そう言うと川西はウェットティッシュを数枚引き取ってから
(川西)
「身体、俺が拭いてもいいですか」
と聞く。
危うく水を吹き出しそうになって、焦って飲み込んだ。
(瀬見)
「んぐッ……ッお、お前が…!?」
(川西)
「はい、汗だくだし1回拭いて綺麗にしないと」
(瀬見)
「それくらい、自分でやるし…」
川西からティッシュを貰おうと手を伸ばすと、ひょいっとかわされてそのまま俺の肩にティッシュをあてた。
(瀬見)
「んんッ……」
(川西)
「冷たくないですか」
(瀬見)
「別にッ、……へーき、」
「…なぁ、自分でやるって」
(川西)
「やらせてください」
(瀬見)
「何でッ、ん」
(川西)
「俺ができることは俺がしたい」
(瀬見)
「、………」
不満はあったが、大人しくやってもらうことにした。
上半身は一通り吹き終わり、下半身へ。
川西が尻を持ち上げ、左右に割開く。
(瀬見)
「おい、そこは」
(川西)
「俺がやっちゃダメなんですか」
俺より10cmくらいでかい川西が今は俺の前に跪いて上目遣いで見上げてくる。
都合のいい時だけ可愛い後輩しやがって。
…そういうとこ、ずるい。
(瀬見)
「……………べつに、好きにしろよ」
(川西)
「あざす」
ぴと、っとティッシュがあてられた。
そのまま丁寧に優しく拭かれる。
拭いた場所に空気があたって冷たい。
俺、今、後輩に尻拭かれてるのか…?と頭の中はハテナだらけだった。
ご丁寧に穴まで拭いてくれてる。
流石に汚いからやめた方がいい、ていうかやめてほしいと思ったが川西が真剣な顔をして拭いていたから、やめろなんて言えなかった。
「こんなもんかな」と川西が呟き、ティッシュを尻から離した。
やっと終わったと安堵の息をつく。
(川西)
「…瀬見さん」
(瀬見)
「なに」
(川西)
「ちょっと触ってもいいですか」
(瀬見)
「は!?」
直接指で触られる。
縁をなぞったり、少しだけ中に指を入れられた。
言うほど痛くないし気持ち悪くもないけど、なんか、ぞわぞわする。
ていうか、川西は人の尻に指突っ込んで平気そうだけど汚いって思ってないのかな。
1分程で指が抜かれた。
何だったんだろう今の1分間。
何で俺は後輩に直接尻に指突っ込まれたんだ…?とまたもや頭の中はハテナだらけだった。
困惑していると、川西が口を開く。
(川西)
「…あの、瀬見さん」
「これ…」
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