(川西)
「………中出し、…されました?」
(瀬見)
「……え?」
(川西)
「なんか、白いのついてたんで…」
(瀬見)
「………」
予想はついていた。
だってレ■プする奴がわざわざコンドーム付けるとは思わないし。
多分、俺が意識飛ばしてる間に出されたんだろう。
(瀬見)
「…汚いから、あんま見んな」
(川西)
「ねぇ、何されたの」
(瀬見)
「…は?」
(川西)
「だから、何されたのって」
(瀬見)
「……」
(川西)
「まぁ聞くまでもないんですけど」
「レ■プ…されましたよね、誰かに」
(瀬見)
「、……」
ゆっくり頷く。
(川西)
「誰なの」
(瀬見)
「何が」
(川西)
「加害者」
(瀬見)
「…そんなの、しらない」
(川西)
「何で。顔見たんでしょ」
(瀬見)
「お前に関係ないだろ…」
(川西)
「俺には関係ないかもしれないけど、」
「なら瀬見さんはこのままでいいって言うんですか」
(瀬見)
「…いや、ちが」
「お前に、迷惑かけたくない、から」
沈黙が続く。
(川西)
「瀬見さん、あの」
「もっと、誰かを頼った方がいいと思いますよ」
「ていうか、頼ってください」
(瀬見)
「は?」
川西が俺を抱き寄せる。
(瀬見)
「、ちょっと」
(川西)
「1人で抱え込まないで、」
「もっと頼っていいんですよ」
頭をそっと、優しく撫でられる。
温かい。安心する。
(川西)
「今じゃなくていいので」
「話す気になったら話してください」
ね、瀬見さんと微笑みながら言われる。
そういえば、コイツの笑った顔、初めて見たな…
(川西)
「今日はもう帰りましょう。俺が寮まで送ります」
「瀬見さんの荷物と、替えの服持ってくるんで待っててください」
(瀬見)
「う、うん」
川西が保健室を出る。
駆けていく足音と、息切れが段々と遠ざかっていく。
急いで、走ってくれてる、俺のために…
俺はとりあえずソファに付いた汚れを拭いて、ベッドに移動した。
そのままゴロンと寝転ぶ。
うぅ、頭がガンガンするし、喉痛てぇし、腹も痛い。
ちょっと目眩もするかも、身体も震えてる。
川西がいなくなってから一気に体調が悪化した。
辛い、苦しい。
お願い、川西、はやく戻ってきて。
「惚れた欲目」
川西と出会ったのは1年半前。
俺が2年の時に白布と共に入部してきた。
最初は俺より身長が高くて、目つきがクソ怖かったから、ヤンキーかと思った。
でも意外と白布よりも言動が穏やかで、なんなら白布の方がヤンキーだった。
冷酷で毒舌な白布と、1年後に入ってきたいつも元気な五色。
俺はソイツらの面倒をよく見てたから川西とはあまり話す時間がなかったかもしれない。
今日、川西と久々に話して分かったことがある。
笑顔が素敵な奴だった。
普段もっと笑っていればいいのに。
と少し勿体なく感じた。
あと、凄く優しかった。
体育倉庫で俺を見つけた時、嫌な顔をされてそのまま立ち去ると思っていたのに、保健室まで連れてってくれて、さらに俺の汚い身体を丁寧に、優しく拭いた。
優しい言葉もかけてくれた。
川西のこと、ちょっと知れた気がする。
笑顔が素敵で、優しい人。
アイツの第一印象は目つきが怖くてデカイヤンキーだったけど、今はそうじゃない。
凄く優しい、俺の大事な後輩。
胸に手を当ててみる。
とくんとくんと心臓が早く揺れている。
………なんで。
川西のことを考えた途端、鼓動が急激に早くなった。
顔も少し熱い。
これ、俺って、まさか
川西のことが、好、───
………………。
いや違う、絶対違う、多分熱でも出たんだ。
うん絶対そう、間違いない。
………寝よう。
意識が浮上する。
なのに目が開けられない。
あの時と同じように、身体がとん、とん、とリズムに合わせて揺れている。
この感覚、好き。
ずっと目を閉じて、身体が揺れる感覚を味わっていたい。
ボフッという音とともにベッドか何かに寝転がらされた。
「瀬見さん、瀬見さん」と誰かに呼ばれる。
頬を軽く叩かれて目が覚めた。
(瀬見)
「…………ん」
(白布)
「あ、起きた」
(瀬見)
「……………………白布?」
目の前にいたのは川西ではなく白布だった。
(白布)
「大丈夫ですか、瀬見さん」
(瀬見)
「あ、いや、大丈夫………だけど」
「何で白布がここに?」
(白布)
「太一に頼まれて」
(瀬見)
「え?」
(白布)
「俺、太一が瀬見さん運んでるとこたまたま見て、運ぶの手伝わされて」
「”俺疲れたからあとはよろしく”って」
(瀬見)
「へぇ……そっか…」
(白布)
「太一から事情聞きましたけど」
「大丈夫………なんですか」
(瀬見)
「……大丈夫、なわけねぇよ…」
(白布)
「…ですよね」
「まぁ、俺でよければ話聞くんで」
「無理、しないでくださいね」
「じゃあ、俺はこれで。」
自分の意思と関係なく白布の制服の裾を引っ張った。
別にここに居て欲しい訳じゃないし、何なら1人になりたいのに。
白布が振り返る。
(瀬見)
「あ、………あの」
(瀬見)
「1人にしないで、ここに居て。」
気付いたらそう言っていた。
本当は一緒に居てなんて恥ずかしくて言わずに我慢してたけど、白布の困ったように笑う顔を見て、言ってよかった。と思った。
翌日。
身体のあちこちが痛かったけど、部活には行って、いつも通り振舞った。
でも今までと変わったのが、川西のことをよく目で追うようになったこと。
別に川西が気になるとか、別にそんなんじゃないけど…
………。
別にそんなんじゃないけど…(2回目)。
でも何故かその日からよく目で追うようになった。
彼のいるコートをじっと見つめる。
今は1年部員に指示を出してるみたいだった。
彼の仕草、全てがカッコよかった。
………正直に言うけど、俺は川西のことが好き、………みたい。
だから無意識に彼を見るようになったのかも。
あ、やば、こっちに来た。
川西が「どうかしたんですか」って聞いてくる。
焦った俺は「なんでもない」の言葉で押し通した。
………顔赤いの、バレたかな。
髪を抜くことが増えてしまった。
授業中だけでなく、部活中の休憩時間や部屋で抜くこともあった。
授業中暇な時は自分の毛を集めて毛玉を作って遊び、ポケットに入れてそのままゴミ箱に捨てた。
もみあげだけでなく、前髪や頭のてっぺんの髪も抜いた。
もう何もかも、どうでもよくなって。
それと同時に、いじめもエスカレートした。
いつものように殴られたり、時には前のようにレ■プされたり。
内容も酷かった。
教科書や弁当をゴミ箱に捨てられたり、死ぬギリギリまで首を絞められたり、万引きや自殺を強要されたり、カッターで身体中切り刻まれたり、学校の近くの川に突き落とされて、水責めされたり。
もう数え切れないほどのいじめを受けた。
あぁ、このまま溺れて、いっそ死んでしまいたい。
それができたのなら、よっぽど楽だったのにな。
咳き込む時間も与えてくれなかった。
髪を鷲掴みにされて、後ろに引っ張られる。
ブチブチ、と嫌な音がした。
あ、これ数本抜けたな。
まぁいっか、いつも自分で抜いてるし。
そう思っていると頭をグンッと前に倒される。
息を吸う暇もなく、そのまま川の水面に顔を押し込まれた。
複数人で押さえられてるせいで顔を上げられない。
目の前で泡がゴボゴボと浮いていた。
息が続かなくなって、死にそう、と思ったところで再び髪を引っ張られた。
口に含んでしまった川の水を吐き、また咳をする。
何で死ぬ寸前でやめるんだよ。
─────やるなら、せめて一思いに殺ってくれ。
もう何時間もそれが続いた。
気付けばすでに人はいなくて、俺はというと水を吐き出しながらただ1人むせていた。
こんな時、また川西が来てくれれば、また、助けてもらえるかも…とほんの少しの希望を持っていたが、暫く待っても川西は来なかった。
…まぁ、そりゃそうか。
流石に夢見すぎた。
はぁ
…死にたい。
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