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第二十二章
現実
―失われた五感―
神殿は、いつも以上に静まり返っていた。
重厚な扉がゆっくりと開き、四人の巫女と羅刹が足を踏み入れる。
誰も口を開かない。
琥珀はいつもどおり笑顔を浮かべていた。
けれど、その笑顔はどこか無理をしているように見える。
煉華は何度も琥珀へ視線を向ける。
だが、掛けるべき言葉が見つからなかった。
祭壇の前では、神父が静かに四人を迎える。
「……皆さん、お疲れさまでした」
その一言だけで、神殿の空気はさらに張り詰めた。
「今日は、皆さんにお話ししなければならないことがあります」
――しん……
静寂が神殿を包む。
やがて神父は静かに口を開いた。
「巫女さま方……身体に異変はございませんか?」
その問い掛けに、詞葉の肩が小さく震える。
「……味覚が消えました」
琥珀は神父を真っ直ぐ見つめ、静かに続けた。
「何を食べても……もう、全く味がしません」
「……そうですか」
神父は静かに頷き、今度は詞葉へ視線を向けた。
「玄武の巫女さま……そのご様子からすると、貴女もですね」
「っ……!」
詞葉は息を呑み、小さく俯く。
「私は……人の温もりを感じることができなくなっています」
震える声で、それでも最後まで言い切った。
「温もり……つまり、触覚ですね」
その言葉を聞いた瞬間、煉華と蒼紫は言葉を失った。
二人を守るために戦い、その代償として大切なものを失った。
その事実が、胸へ重く突き刺さる。
「ご、ごめんなさい……っ。あたし達を……助けたせいで……」
煉華が涙を滲ませながら俯く。
「違う!!」
神殿に琥珀の声が響いた。
詞葉が何かを言おうとした、その言葉さえ遮るほど力強く。
「そんなふうに言わないで、煉華」
琥珀は真っ直ぐ煉華を見つめる。
「詞葉もあたしも、自分の意思で決めたことなの
護りたかった。ただ、大切な友達を護りたかった。それだけ!
だから、謝ってほしくなんてない。謝罪なんていらない
……あたし達は、自分がしたことを後悔なんてしてない!!」
その言葉に続くように、詞葉も優しく微笑んだ。
「そうだよ、煉華ちゃん
私も琥珀ちゃんも、自分の力で二人を護りたかった……それだけなんだよ」
蒼紫は静かに歩み寄ると、二人の手をそっと握った。
「……ありがとう、詞葉」
そして、琥珀にも微笑みかける。
「ありがとう……琥珀」
その瞳には、小さく涙が浮かんでいた。
四人は互いの手を握ったまま、しばらく誰も言葉を発しなかった。
神殿を包む静寂は重い。 それでも、互いを想う気持ちは確かにそこにあった。
失ったものは大きい。 それでも、一人ではない。
四人は、改めてそう感じていた。
コメント
1件
うわあ……琥珀と詞葉の「失ったもの」の告白、胸がぎゅっとなりました。戦って守った代償がこんな形で返ってくるなんて。でも、二人が「謝らないで」「後悔してない」って言い切ったところに、本当の強さと絆を感じました。蒼紫が「ありがとう」って手を握るシーン、涙が出そうになりました。輪廻さんの描く関係性の温かさ、素敵です。